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日外会誌. 121(4): 448-452, 2020

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特集

食道癌診療の現況と展望

8.根治的化学放射線療法とサルベージ手術

がん研究会有明病院消化器センター 食道外科

岡村 明彦 , 速水 克 , 上月 亮太郎 , 問端 輔 , 高橋 慶太 , 大竹 玲子 , 堀 創史 , 今村 裕 , 渡邊 雅之

内容要旨
食道扁平上皮癌に対する根治的化学放射線療法は,非外科的治療を行う場合の標準的治療として位置づけられている.cStageⅠ症例に対して,根治的化学放射線療法は外科的治療と同等の長期予後が期待できることが報告され,標準治療の一つとなっている.cStageⅡ/Ⅲ症例に対して,術前補助化学療法後の手術が標準治療であるものの,根治的化学放射線療法は根治の可能性のある治療選択肢であり,耐術困難症例や手術拒否例に推奨される.切除不能局所進行食道癌(cStageⅣa)においては,根治的化学放射線療法が根治の可能性がある標準治療である.このように,根治的化学放射線療法は内視鏡的治療の適応となる表在癌と遠隔転移を有する症例を除く,全ての症例が対象となり得る.
一方で,根治的化学放射線療法後の遺残あるいは再発に対して,サルベージ手術は根治を期待し得る選択肢であるが,術後合併症発生と在院死亡のリスクの高い手術である.過去の報告からは,適切な症例選択とR0切除が予後改善に重要であり,同時に術後合併症の軽減に配慮した周術期管理が求められる.

キーワード
根治的化学放射線療法, サルベージ手術, 周術期管理, 多職種チーム

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I.はじめに
本邦において食道癌の主な組織型である食道扁平上皮癌に対する根治を目的とした化学放射線療法は,非外科的治療を行う場合に中心的な役割を担っている.
一方,根治的化学放射線療法後に遺残あるいは再発した内視鏡的治療適応外症例の治療選択肢は非常に限られており,切除可能であれば外科的治療(サルベージ手術)が唯一の根治治療となり得る.しかし,サルベージ手術は術後合併症発生率や在院死亡率の高い,ハイリスク手術であるため,食道癌診療においては,根治的化学放射線療法におけるリスク・ベネフィットだけではなく,その後のサルベージ手術までを考慮した上で治療選択に当たる必要がある.本稿では食道扁平上皮癌に対する根治的化学放射線療法とサルベージ手術の現況と展望について概説する.

II.根治的化学放射線療法
これまでに,わが国では食道扁平上皮癌を対象とした根治的化学放射線療法の臨床試験が数多く行われている(表1).現在これらの試験結果から,内視鏡的治療の適応となる表在癌と遠隔転移を有する症例を除く全ての症例が根治的化学放射線療法の対象となり得る.
cStageⅠ食道癌に対する根治的化学放射線療法は,JCOG9708試験において高い完全奏効割合が示され1),耐術困難症例や手術拒否などの理由により手術を行わない症例に対しては,根治的化学放射線療法が推奨されている.最近ではJCOG0502試験においてcStageⅠ食道癌に対する外科的治療と根治的化学放射線療法の治療成績が比較された.ランダム化部分の症例集積が不良であり,非ランダム化部分での比較ではあるが,外科的治療に対する根治的化学放射線療法の非劣性が示されており2),標準治療の一つとなっている.
cStageⅡ/Ⅲ食道癌に対しては,術前補助化学療法と術後補助化学療法を比較したJCOG9907試験,根治的化学放射線療法の有効性と安全性を評価したJCOG9906試験,ならびにこれらの統合解析(JCOG1406A試験)の結果から,術前補助化学療法後の手術が標準治療である3)4).しかし,根治的化学放射線療法も根治可能な治療選択肢の一つであり,手術を行わないcStageⅡ/Ⅲ食道癌に対しては,根治的化学放射線療法が推奨されている.ただし総線量60Gyを伴う根治的化学放射線療法では,晩期毒性やサルベージ手術術後の合併症発生が問題となることから5),放射線の照射線量を減量することによる毒性および晩期合併症の軽減が期待される.総線量を50.4Gyに減量し,化学療法の投与量を増加したmRTOGレジメンによる根治的化学放射線療法に,治療効果不良例に対する積極的なサルベージ手術を組み合わせた治療戦略の有用性が,JOG0909試験において検討された.本試験では,JCOG9906試験と比較して晩期毒性が軽微であり,3年生存率74.2%,3年食道温存生存率63.6%と良好な結果が報告され6),食道温存を希望するcStageⅡ/Ⅲ食道癌症例に対して,この治療戦略は新たな選択肢になり得ると考えられる.
一方,切除不能局所進行食道癌(cStageⅣa)に対して,根治的化学放射線療法は根治の可能性がある治療選択肢の一つである.Ohtsuらにより,切除不能T4あるいは鎖骨上リンパ節転移を伴う症例に対する根治的化学放射線療法はCR率33%,3年生存率23%と報告され7),その後のJCOG0303試験の結果からも切除不能局所進行食道癌(cStageⅣa)に対する標準治療は根治的化学放射線療法である8).しかし,治療中の穿通や瘻孔形成などの致死的な合併症が約20%に認められるため,十分な説明の上選択されるべき治療と考えられる.現在,切除不能局所進行癌を対象に,治療効果の高い3剤併用化学療法(DCF療法)によるコンバージョン手術を目指す治療戦略と標準治療である根治的化学放射線療法の長期生存を比較する第Ⅲ相試験(JCOG1510試験)が進行中であり9),この結果が期待される.

表01

III.サルベージ手術
食道癌に対する根治的化学放射線療法後に局所に病変が遺残あるいは再発した場合には,サルベージ治療(手術あるいは内視鏡的治療)により長期生存が得られる場合がある.内視鏡的治療が困難な症例に対しては,サルベージ手術がほぼ唯一の根治の可能性が残る治療手段である.しかし,手術侵襲が大きく術後合併症発生と在院死亡のリスクの高い手術であることがこれまで報告されている.
欧州からの大規模な多施設後ろ向き研究では,サルベージ手術における在院死亡率は8.4%,呼吸器合併症は42.9%,縫合不全は17.2%に認められたと報告されている10).また本邦からの複数の報告においても(表2),在院死亡率は7.4~15.2%,肺炎あるいは呼吸器合併症は10.2~44.0%,縫合不全は15.2~39.4%と,高い術後合併症発生率と在院死亡率が報告されており11)16),慎重な対応が求められる.
サルベージ手術後の長期予後について,手術適応が施設間で異なることから単純な比較は困難であるが,3年生存率は17.0~50.6%と報告されている(表2).これまでの予後因子解析において,治療前予測深達度T2以浅,根治的化学放射線療法後の再燃病変,R0切除が予後良好な因子として報告されており10)12)15)16),適切な症例選択とR0切除の達成が長期予後につながるものと考えられる.
一方,サルベージ手術後の肺炎などの感染性合併症が長期予後を悪化させる可能性が示唆されており15)17),術後合併症軽減に配慮した周術期管理が求められる.そのため,サルベージ手術は,より専門性の高い施設で行われるべき手術である.
サルベージ手術の中でも,初診時切除不能局所進行食道癌(cStageⅣa)に対する根治的化学放射線療法後のサルベージ手術については,まとまった報告はきわめて少ない.海外からの報告ではR0切除率は39.2%,本邦からの報告では42.4~54.3%と報告されており,いずれもR0切除が有意な予後良好因子であった18)20).これらは非常に少ない症例数の後ろ向き研究ではあるが,R0切除が見込める症例のみにサルベージ手術を施行すべきであろう.

表02

IV.合併症軽減のための周術期管理
前述の通り,サルベージ手術後の感染性合併症は長期予後を悪化させる可能性が示唆されている15)17).そのため術後合併症の軽減に配慮した周術期管理が求められる.近年,ケアバンドルを用いた多職種チーム医療による周術期管理の試みが注目されるようになり,現在こうした取り組みは全国で広がっている.当院においても院内横断的な取り組みとして周術期管理チームを組織しており,以下に示すような周術期管理を行っている.
当院の周術期管理チームは,外科医師,歯科医師,看護師,薬剤師,管理栄養士,理学療法士,事務等からなる多職種チームであり,手術侵襲に対する患者の安全かつ安心な全身管理を目標とし,術前介入および術中術後の管理,合併症予防を包括的に行っている.チーム内での役割分担を明確化し,術前から切れ目なく介入を行うとともに,医療スタッフ間において患者情報を共有し日常的なコミュニケーションを図っている.術前の外来あるいは術前治療中からチームの介入が開始され,パンフレットを用いた周術期の詳細な説明,禁酒禁煙の指導,歯科口腔ケア,理学療法および呼吸器リハビリテーション,栄養管理,服薬管理指導などを行っている.
周術期管理チームの導入によって治療を要した術後合併症,特に術後肺炎の発症が有意に減少しており21),食道手術の周術期管理における多職種チーム医療の成果が示されつつあるものと考えられるが,その有用性については,今後さらなる検証が必要である.

V.おわりに
食道扁平上皮癌に対する根治的化学放射線療法は,非外科的治療で根治の可能性がある有用な治療手段である.しかし,遺残あるいは再発した場合のサルベージ手術は,術後合併症発生と在院死亡のリスクの高い手術であり,慎重な症例選択と周術期管理が必要である.治療効果を落とさない照射線量の減少はこうしたリスクを軽減し得るものと考えられる.また長期予後の改善のためには,適切な症例選択とR0切除が重要であり,同時に術後合併症の軽減に配慮した周術期管理が求められる.多職種による周術期管理チームの介入はその一助になり得るであろう.

 
利益相反:なし

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文献
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