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日外会誌. 121(4): 453, 2020

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「大量輸血に際してのmassive transfusion protocolと大量輸血にまつわる諸問題」によせて

東京医科歯科大学 救急災害医学

相星 淳一



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大量出血を伴う外傷の急性期では,大量の輸液や輸血による希釈や凝固因子・血小板の消費による凝固障害,組織損傷や組織低灌流によって活性化された線溶亢進などの複合的な要因によって,外傷急性期凝固異常が惹起されます.ひとたび,この凝固異常状態に陥ると,死亡率は非合併例と比べて3~4倍に,受傷後24時間以内では約8倍に上昇するといわれております.したがって,最近の治療戦略では,この病態を回避あるいは改善させるためにdamage control surgery(DCS)とともにdamage control resuscitation(DCR)が積極的に行われております.
DCRは,①晶質液投与を制限することによって希釈性凝固障害を軽減し,②あらかじめ規定した比率で赤血球,血漿,血小板を先制的に輸血するmassive transfusion protocol(MTP)を適用して,受傷早期から凝固因子や血小板を補充して消費性凝固障害の是正を図る新しい輸液・輸血療法の概念で,DCSと同様に大量出血を伴う外傷患者に対する治療アプローチになっております.本邦の「大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用のガイドライン」では,外傷以外の領域(心臓血管外科,産科,その他の臨床領域)の大量出血に対してもMTPを推奨しております.しかしながら,MTPを正しく実践するためには,MTPを発動するための判断基準,最も有効な血液製剤(赤血球,血漿,血小板)の比率,大量輸血に関連した合併症への対策など今後の課題が残されております.
本企画の執筆をお願いしました順天堂大学救急災害医学の射場敏明教授は,過大侵襲に関連した血液凝固線溶異常の領域に精通し,基礎と臨床の両面でご活躍されております.ガイドラインの公開にあたり,今回のテーマについて簡潔に解説して頂きました.外科学における周術期管理のトピックスの一つとして,本稿をご一読いただければと存じます.

 
利益相反:なし

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