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日外会誌. 93(3): 274-287, 1992


原著

温阻血に伴う肝代謝異常とその対策

信州大学 医学部第2外科学教室(指導:飯田 太教授)

花崎 和弘

(1990年9月18日受付)

I.内容要旨
肝温阻血障害の病態および対策を明らかにするために,雑種成犬を用い60分間のPringle法による全肝温阻血を行い,温阻血後の肝代謝異常とそれに対するCoenzymeQ10 (CoQ10), Prostaglandin E1(PGE1, ThromboxaneA2 (TXA2) receptor antagonistであるON0-3708の前処置による影響を検討した.門脈血液の採血にはカテーテルを上腸間膜静脈分枝より門脈本幹内へ挿入留置し,肝静脈血液の採血には外頸静脈より右肝静脈内へ挿入留置した.また左大腿静脈より挿入したカテーテルより末梢静脈血を採取した.それぞれの血液採取は,肝阻血前,肝阻血解除5分後, 1時間後,さらに2時間後に行った.肝代謝率は(門脈血清値一肝静脈血清値)/門脈血清値として算出し,以下の結果を得た.
1) 60分間の肝温阻血を解除した5分後に6-ketoPGFの肝代謝率は低下し,これはCoQ10, PGE1処置により改善された. 2)TXB2の肝代謝率は阻血解除5分後~ 2時間後まで低下を示したが,CoQ10, ON0-3708処置により阻血解除2時間後に阻血前値に回復し, PGE1によりその低下はほぼ完全に抑制された. 3) 阻血解除5分後,門脈血,肝静脈血,末梢静脈血の過酸化脂質値はいずれも一過性の上昇を示したが,これはCoQ10, PGE1, ON0-3708処置によって抑制された. 4) インスリンの肝代謝率は阻血解除5分後に低下したが,これはCoQ10, PGE1, ON0-3708処置により改善された. 5)肝温阻血解除後もグルカゴンの肝代謝率は維持されていた. 6)阻血解除5分後には肝静脈血糖値の上昇がみられたが,これはCoQ10, PGE1, ON0-3708処置により抑制されなかった.しかし,末梢静脈血糖値の上昇はこれらの薬剤により抑制された.
以上の結果から, 60分間の肝温阻血に伴う肝代謝異常はCoQ10, PGE1, ON0-3708の前処置により軽減することが判明し, これらの薬剤は肝温阻血障害防止に役立つことが示唆された.

キーワード
肝温阻血, 過酸化脂質, CoenzymeQ10, Prostaglandin E1, Thromboxane A2 receptor antagonist


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