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日外会誌. 93(3): 288-294, 1992


原著

部分肝阻血時の肝ライソゾーム膜脆弱性より見た肝細胞障害およびプロスタグランジンE1誘導体の影響

千葉大学 医学部第1外科

宇田川 郁夫 , 宮崎 勝 , 越川 尚男 , 奥井 勝二

(1990年11月24日受付)

I.内容要旨
部分肝阻血時の肝細胞障害の病態を明らかにする目的でラットを用い部分肝阻血を施行し,血清中および肝組織中ライソゾーム酵素(カテプシンD,酸フォスファターゼ,βグルクロニダーゼ)の変動につき検討し,またこの肝細胞障害に対し,細胞保護効果を有すると言われるプロスタグランジンE1(以下PGE1)誘導体投与の影響について検討した.部分肝阻血モデルはラットを用い肝のrightlobe及びcaudatelobe(全肝の32%領域)へ流入する門脈及び動脈を30分間阻血し作製した.阻血解除後,阻血肝葉及び非阻血肝葉を阻血解除直後, 2時間後に採取し, 3種のライソゾーム酵素のfree活性,bound活性及びライソゾーム膜の脆弱性を示すfragilityindexを測定した.血清中ライソゾーム酵素についても同様に測定した. PGE1誘導体投与群ではPGE1誘導体((16s, 18s)-16,18-Ethano-20-ethyl-6-oxo-PGE1)を阻血24時間前, 6時間前, 30分前にそれぞれ0.05μg/kgを腹腔内投与した.その結果,阻血肝葉におけるカテプシンDのfragilityindex(阻血前値28.3±2.4%)について見ると,阻血解除直後(placebo群: 40.9±3.5%, PGE1誘導体投与群:30.3±2.5%(p<0.05)),阻血解除2時間後(placebo群:41.7±3.4%, PGE1誘導体投与群:30.3±2.5%(p<0.01))とplacebo群におけるfragilityindexの上昇がPGE1誘導体投与により有意に抑制された.酸フォスファターゼ,βグルクロニダーゼについても阻血解除2時間後においてほぼ同様の傾向を示した.また阻血解除後の血清ライソゾーム酵素の上昇もPGE1誘導体前投与により有意に抑制された.以上より部分肝阻血時において肝ライソゾーム膜の脆弱性が亢進したが, PGE1誘導体前投与によりこの肝ライソゾーム膜の脆弱化が軽減されることが示唆された.

キーワード
部分肝阻血, ライソゾーム酵素, ライソゾーム膜, プロスタグランジンE1誘導体, 肝細胞障害


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