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日外会誌. 91(12): 1796-1807, 1990


原著

低温下逆行性ガス灌流法による24時間心保存の実験的研究

福岡大学 医学部心臓外科学教室

森重 徳継

(1989年9月28日受付)

I.内容要旨
簡便に長時間の心保存を可能とする方法として低温下ガス灌流法につき心機能・エネルギー代謝面より検討した.成犬摘出心を用い,I群(n=6):摘出直後再灌流を対照にII群(n=7):単純浸漬保存とIII群(n=8):低温下ガス灌流保存を比較検討した.保存液は4℃ CPZ 加 Euro-Collins液を使用し,保存時間は24時間とした.再灌流は交叉循環で行い2時間の観察を行った.保存後の心筋ATP・CP含量はII群の各々2.46±0.74,1.61±1.23μmol/gWWに対してIII群では各々4.35±0.84,5.10±1.23μmol/gWWと有意に(p<0.05)良好に保たれ,乳酸含量もII群の17.95±6.33μmol/gWWに対しIII群は4.41±3.09μmol/gWWと増加をみなかった.再灌流後120分での左房圧11.0cmH2Oでの左心室1回仕事量係数はI群の14.23±2.60g・m/100g/beatに対しII群4.28±5.56,III群11.01±3.54とIII群はII群に比較して有意に(p<0.05)良好でI群と有意差ないまで回復した.再灌流後のATP,CP含量はII群はI・III群に比較して有意に(p<0.05)低値を示したがI・III群間には有意差を認めなかった.心筋水分含量は保存後II群79.0±1.2%III群77.9±1.8%と有意な(p<0.05)増加を認めたが再灌流後は各群間に差は認めなかった.再灌流早期にIII群は有意な冠血管抵抗の上昇をきたしたが,再灌流後60分以降は正常化し灌流120分ではI群0.54±0.18mmHg/ml/100g/min,II群0.73±0.19,III群0.53±0.10でII・III群間に有意差(p<0.05)を認めたがI・III群間には差はなかった.低温下ガス灌流保存法は保存中の心筋の好気的代謝を24時間比較的良好に維持でき,心機能回復も浸漬保存に比較して良好で本法の長時間心保存法としての可能性が示された.しかし本法では再灌流早期の冠血管抵抗の上昇が浸漬保存例に比較して有意に大きくガスによる血管傷害や塞栓の発生が推測され,今後の検討余地として残された.

キーワード
心保存法, ガス灌流法, 左心心機能, 心筋エネルギー代謝


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