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日外会誌. 82(12): 1485-1491, 1981


原著

実験的小腸全摘後の再建法
-逆蠕動胃管の有効性について-

金沢大学 第1外科(主任:岩 喬教授)

川浦 幸光 , 金子 芳夫 , 牛島 聡 , 松本 憲昌 , 岩 喬

(昭和56年7月16日受付)

I.内容要旨
小腸全摘後の再建法として逆蠕動胃管を用いることを考えた.本法の有効性を実証する目的で実験を行つた. 胃管を用いない群(A群)と大弯側で作製された胃管を逆蠕動に吻合した群(B群)に分けた.下痢の回数,総蛋白質量,総コレステロール値, 血清ガストリン値,血清グルカゴン値を測定した.10gm糖経口負荷テストを行つて,血糖値, I.R.I.値の推移を検討した.術後1カ月後に胃,十 二指腸,膵の一部を切除し,組織学的検索を行つた.以上の検索を通じて以下の結果を得た.
1) A群での3カ月以上生存数は10頭中3頭,B群では10頭中4頭であつた.
2) 下痢の回数はA,B群とも7日目までは差はないが,それ以降になると,B群で下痢の回数は 著減した.
3) 血清総蛋白質量は両群で低下を示すが, B群ではA群より高い値を保持した.
4) 血清コレステロール値は1週間目までは両群で低下したが,それ以後はやや低値を保持した.
5) 血清ガストリン値は両群とも差がなく, 一過性の上昇を除いて,安定した値を示した.
6) 血清グルカゴン値は両群とも低値となつた.
7) 10gm糖負荷テストではB群において,術後早期,長期経過を問わず,耐糖能は保持していた.
8) 組織学的検索では両群に共通する点は,胃腺窩の軽度の増深, 十二指腸粘膜内の強い線維化がみられたことである.膵は内外分泌細胞とも正常構造であつた.
以上の結果より,小腸全摘術後の再建法として,逆蠕動胃管を用いることが,下痢の減少,総蛋白質,耐糖能の保持に有効であるとの結論を得た.

キーワード
小腸全摘, 逆蠕動胃管, 耐糖能, 下痢の対策, 経口糖負荷テスト


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