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日外会誌. 81(11): 1437-1446, 1980


原著

ENNGによる消化管発癌と代謝拮抗剤による発癌抑制効果の実験的研究

北海道大学 医学部外科学第1講座(主任:葛西洋一教授)

荻田 征美

(昭和55年2月14日受付)

I.内容要旨
N-Ethyl-N'-Nitro-N-Nitrosoguanidine (ENNG) は経口投与により実験動物の胃や小腸に,人に類似の腺癌を発生させるが,扁平上皮癌や肉腫をも発生させる. このことは腺癌を対象とした人の消化管癌のモデルとはなり難い.そこでラットの胃,小腸に腺癌単独の発生を試みた.
また, 癌化学療法の治療的効果は一応みとめられているが, 予防的効果は明らかでない. そこで,ENNG発癌実験に対して, 5-Fluorouracil(5-FU)を同時投与し, 発癌抑制を試み,二, 三の知見を得たので報告する.
実験方法:動物はWistar均ー系,雄性ラット(日本ラット社) 75匹を用いた.発癌剤はENNG (Aidrich社,米国),発癌抑制剤としては, 5-FU(協和醗酵社)を用いた.飼料はClea製CE-2(日本)を用いた.
発癌実験では, ENNGを水道水に溶解し,飲料水として4カ月与え,その後,水道水のみで4カ月観察した.ENNG 投与濃度を3群に分け夫々I群(50μg/ml), II群(100μg/ml), III群(150μg/ml)とし,各群ラット10匹使用した. 発癌抑制実験では, 発癌実験のII群(ENNG 100μg/ml) を対照としてこれと同条件の実験に5-FUを同時投与し,その群を5-FU 濃度別にA群(20μg/ml), B群(40μg/ml), C群(60μg/ml)として,各群15匹を用い,発癌実験と同期間投与,観察した.
実験成績:最も高率な発癌は100μg/mlENNG投与群で,組織学的には全て腺癌であった.その部位別発癌率は胃で80%,小腸で100%であつた. 1個体の平均癌発生個数は5.0±0.7個, 平均腫瘍径は2.4±0.5cmであつた.転移は肺, リンパ節に40%みとめられた.
発癌抑制実験では,部位別発癌率で, A群14%, B, C群で0, 対照群80%であつた.癌の発生数,腫瘍径などでは, 5-FU投与群で低値を示した.未分化型腺癌の発生頻度も5-FU投与群で低く,転移は対照群のみにみとめられた. 5-FU による抑制効果はその投与濃度に比例した.

キーワード
ENNG, 消化管発癌, 代謝拮抗剤, 発癌抑制効果, 5-FU


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