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日外会誌. 81(11): 1447-1460, 1980


原著

食道癌術前照射療法に関する免疫学的研究
-実験的並びに臨床的検討-

神戸大学 医学部第1外科学教室(指導:斉藤洋一教授)

朴 採俊

(昭和55年1月17日受付)

I.内容要旨
放射線治療効果と宿主細胞性免疫能との関連を,実験腫瘍並びにヒト食道癌について検討し次の通りの決論を得た.
1. X線2,500rads照射後,変性崩壊過程にあるラットMC誘発腫瘍組織内において著明な単核細胞浸潤が観察された.免疫蛍光抗体法では多くの単核細胞はTリンパ球であり,少数のBリンパ球も散在性に存在することが確認された. 2. MC誘発腫瘍移植ラットの腫瘍特異的脾細胞幼若化反応は照射前には著明に抑制されていたが,照射腫瘍組織内にTリンパ球を主とする単核細胞浸潤が現われる照射後3~6日目および14~30日目に免疫ラット脾細胞の反応水準にまで亢進した. 3. 放射線治療によつて移植腫瘍が消失した移植ラットは,その後の腫瘍再移植に対して抵抗性を示した. 4. 食道癌症例の27%において自己癌細胞からの3M-KCl可溶性抗原に対するリンパ球幼若化反応の亢進がみられた. 5. 食道癌症例は非癌症例および正常人と比べて低い非特異的リンパ球幼若化反応を示し,術前照射によりさらに高度な免疫抑制が認められた. 6. 術前照射症例群(n=62) は非照射症例群(n=18) と比べて,癌病巣の単核細胞浸潤は軽度であった. 7. 2,000rads術前照射症例において, Ef2症例群(n=15)はEf1症例群(n=31)と比べて,癌病巣の単核細胞浸潤は高度である傾向が認められた. また単核細胞浸潤高度な症例群(n=22)は軽度な症例群(n=20)と比べて,術後生存率は高い傾向がみられた.
以上の結果より, 放射線療法による腫瘍縮少過程に宿主の腫瘍特異的細胞性免疫が関与していることが,実験的に強く示唆された.また臨床的にも食道癌患者の細胞性免疫能が放射線照射によつて影署を受け,その免疫状態が放射線治療効果と関連を有することが示唆された.

キーワード
食道癌, 放射線効果, 腫瘍免疫, 細胞性免疫能, Tリンパ球


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