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日外会誌. 81(3): 214-225, 1980


原著

術後深部静脈血栓症に関する研究
-発生頻度と危険因子について-

岐阜大学 医学部第1外科(指導:稲田 潔教授)

岡部 功

(昭和54年6月21日受付)

I.内容要旨
日本人の術後深部静脈血栓症の発生頻度ならびにその危険因子を明らかにする目的で,125I-fibrinogen を使用し,同時に術前・術後の凝固線溶系検査を行い検索した.
当科入院患者で主として開腹術施行のものを対象とし計180例について検索を行つた.血栓陽性例は17例で全例明らかな臨床所見を呈したものはなく,性別は男9例,女8例で年齢は26歳より76歳までにわたるが2例を除き40歳以上である.血栓の発生部位はすべて下腿静脈であり,右下腿3例,左4例,両側10例の計27肢であつた. 125I-fibrinogen法で血栓陽性と診断した17例中12例は静脈造影で血栓を確認し, うち7例に線溶療法を行ったが,血栓の中枢側進展は全例において認められなかつた.
血液凝固線溶系検査では,プロトロソビン時間および活性化部分トロンボプラスチン時間は術前・術後とも,血栓陽性群では血栓陰性群に比べ短縮していた.ヘパリン忍容試験およびTEG(r+k値)は術前,血栓陽性群で陰性群に比べ短縮, TEG (ma値)は増大していた.ユーグロブリン溶解時間は術前,陽性群で有意な短縮が認められた. SK活性化血漿プラスミン,血小板数および血小板粘着率は両群とも術前に比べ術後早期に低下し,血漿フィブリノーゲン量は両群とも術後早期に増加が認められた.β-thromboglobulin は20例に検索を行い,術直後著明に上昇,以後速かに減少し24~48時間後に術前値に回復する傾向を認め, 1例に血栓形成を確認した.
日本人では術後深部静脈血栓症の発生頻度は欧米人に比べ明らかに低いが, 180例中17例(9.4%)で従来の報告よりは高い.125I-fibrinogen法は他の検査法と比較し,偽陽性が少なくきわめて鋭敏で深部静脈血栓の診断に価値がある.一般に術後は凝固能亢進ならびに線溶能低下状態にあるが,血栓陽性例では術前,凝固能および線溶能とも亢進状態であった.

キーワード
深部静脈血栓症, 125I-fibrinogen, 血液凝固線溶系検査, ユーグロブリン溶解時間, 凝固能亢進状態


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