日外会誌. 124(6): 530-534, 2023
手術のtips and pitfalls
甲状腺内視鏡手術―VANS変法―
鹿児島大学 乳腺甲状腺外科 中条 哲浩 |
キーワード
VANS変法, VANS, 内視鏡下甲状腺切除
I.はじめに
甲状腺内視鏡手術は多彩な術式が報告されているが,送気法だけでなく吊り上げ法も数多く行われている.日本で最も普及しているのは1998年に清水らが報告した吊上げ式鎖骨下アプローチであるVANS法(Video Assisted Neck Surgery)1)で,鎖骨下に約3cmの皮膚切開と前頸部に5mmのカメラポートを置いて,鎖骨下の切開部より専用鉤を挿入して前頸部を吊り上げる方法である.VANS法の利点はミストの持続吸引が可能であること,切開創から病変までの距離が短いためHand assistの操作も併用できることであるが,甲状腺全摘の場合は左右の鎖骨下に各々切開創が必要となる.
われわれはこのVANS法の創の部位を変更したVANS変法を実施しているが,これは原法では鎖骨下にある主切開部位を鎖骨下線より6cm尾側の右前胸部に,また前頸部のカメラポートを左前胸部に各々移動させた吊上げ法である.すべての創をより尾側の前胸部に移動させたことで襟の広い服でも傷が隠れ整容性のメリットもあるが,最大の利点は甲状腺全摘症例でも追加の創が必要なく右前胸部の主切開創のみから全摘操作が行えることである.鎖骨下から鉗子操作を行う場合は比較的広い操作範囲(操作角度)が必要なため対側葉の摘出が困難になるが,変法の前胸部からの操作範囲(角度)は狭く,右葉のみならず左葉の操作も十分可能である.主切開創を右前胸部としているのは右利きの術者は右前胸部からのアプローチが操作し易いためであり,通常,術者は患者の右側に,カメラ助手は患者の左側に立って操作を行う.甲状腺への到達経路も異なっており,VANS原法では前頸筋の外側から甲状腺に到達するのに対して,変法では開創手術と同様に正中(白線)で前頸筋を左右に分割して甲状腺にアプローチする.左方向からのカメラ挿入に対して術者の鉗子操作は右側方向からのアプローチになるが,5mmの30度斜視硬性鏡を用いることで,甲状腺右葉・左葉のどちらの視野も描出可能となる.ただ,十分な視野を確保するためには前頸筋の効果的な牽引が必須であり,われわれは独自に開発した着脱式穿刺型鋼線筋鉤(KNリトラクター)2)を使用している.
VANS変法は甲状腺内視鏡手術の有力なオプションの一つであるが,単孔式手術に近い独特の操作感覚が必要であり,教育ビデオなどによる初期トレーニングが重要である.
利益相反:なし
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