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日外会誌. 124(1): 109-112, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(8)「手術教育のイノベーション」
1.消化器外科臨床実習におけるVirtual Reality技術の効果

1) 日本医科大学 消化器外科
2) 日本医科大学 救急医学教室

進士 誠一1) , 横堀 將司2) , 清水 哲也1) , 神田 知洋1) , 林 光希1) , 安康 勝喜1) , 吉田 寛1)

(2022年4月16日受付)



キーワード
Virtual Reality(VR), 外科, 臨床実習, クリニカルクラークシップ, 新型コロナウイルス感染症

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I.はじめに
2020年1月以降急速に感染者数が増加した新型コロナウイルス感染症は,日常生活のみならず外科臨床にも影響を与えた.疾患の性質や緊急度のほか,地域の感染状況,施設の医療資源,人的資源など様々な要素を総合的に加味して,外科手術をトリアージすることが必要となり,不要不急の手術は延期された1).さらに,このパンデミックは医学生の外科系臨床実習にも影響を与えた2)3).手術見学を含めた病院内実習は制限され,糸結び,縫合,手洗い,ガウンテクニックなどの基本手技を行う機会も大幅に減少した4).このため,自宅からでも視聴可能なオンデマンド型の授業が増えた.また,手技の習得については実技指導が重要との観点から,自宅でできる糸結びなどの手技をスマホ動画で撮影し,これをSNS上でフィードバックするなどの工夫もされるようになった5).このような医学教育体制の変化は,将来,外科系を志望する医学生の減少や,外科的基本手技を経験したことのない研修医の増加に繋がることが危惧された.一方で,仮想現実(Virtual Reality:VR)や拡張現実(Augmented Reality:AR)デバイスが開発されたことにより,没入型体験が可能な学習方法が急速に発達した.VR技術はコンピュータグラフィックス(Computer Graphics:CG)技術や実動画の撮影により作られた仮想空間に,あたかも自分が入ったかのような体験ができる技術であり,AR技術は現実の映像に,実際には存在しないデジタルコンテンツを表示する技術である.いずれの技術もコロナ禍における医学教育への応用のみならず,新しい治療法の開発としての期待も高まっている.今回,われわれはVR技術を用いた消化器外科領域の教育用コンテンツを作成しクリニカルクラークシップ(Clinical Clerkship:CC)での使用経験を報告する.

II.教育用VR
a.CG技術を用いた教育用VR:体内データをスキャンし三次元化した画像や,人工的に作られた仮想空間を用いた技術.画像の回転・裁断などの操作を簡便に行うことができ人体解剖の理解や6),手術手技の練習に応用されている7)
b.実写の360度映像を用いた教育用VR(図1):実際の現場を撮影し教材化するもので,映像の編集作業のなかで,重要な部分を抜粋しテロップ,ナレーションを加え,学習を補完することができる4)8).本技術は,従来の客観的かつ撮影者目線での固定視点で撮影された2D映像とは異なり,視聴者が顔の向きを変えることで自分の意思で視野の調整が可能な自立性を有する.視聴者が擬似的に主人公になることができる体験型学習である.

図01

III.VR技術の効果
VR技術によって提供される感覚刺激(現状では,五感のうち,視覚刺激と聴覚刺激のみの場合が主)が実世界の感覚刺激に置き換わることにより,空間認知に関与する脳回路が作動し,仮想世界に存在する没入感を生じさせる9).CGよりも実映像の方が実世界とほぼ同等の視覚刺激を受けるため,より高い臨場感と没入感を得ることができる9).本技術は外科手技トレーニングにおいても質の高い教育方法として期待されている10)

IV.消化器外科臨床実習におけるVR技術を用いた教育用コンテンツ 4)
胆石症に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した症例で,入室〜麻酔導入〜手術〜抜管までを360度VRカメラで見学者目線にて撮影した.その後,バイタルサインモニターと腹腔鏡動画をシンクロさせ,テロップでの解説とナレーションを加え約3時間の尺を15分程度に編集した.これを,コロナ禍で病院実習が制限された2020年11月〜2021年9月までの11カ月間にCCとして消化器外科に配属された医学生26人に教材として使用し5件法で表に示した質問についてアンケート調査を行ったところ,すべての質問において肯定的な意見が90%以上を占めていた(図2).本教材は臨床実習前に手術室空間を含めて体験学習できるリアルな予習用教材としてだけではなく,指導者ごとに異なる傾向にある臨床実習における共通の教材としても有用であると考えられた.

図02

V.おわりに
VR技術を用いた消化器外科手術の三次元映像は,外科系臨床実習の教育用ツールとして有用であり,予習用の教材としても活用できる可能性があると考えられた.CCだけではなく,手術室看護師,外科系病棟看護師,Medical Engineerなどの教育用にも用いることが可能であり,多職種連携の視点でも本技術の果たす役割は大きいと考える.

 
利益相反:なし

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文献
1) 池田 徳彦:「《緊急特別企画》パンデミック状況下における外科診療と教育」新型コロナウイルス感染下の外科診療.日外会誌,122(5): 555-557,2021.
2) Dedeilia A, Sotiropoulos MG, Hanrahan JG, et al. : Medical and Surgical Education Challenges and Innovations in the COVID-19 Era: A Systematic Review. In Vivo, 34(3 Suppl): 1603-1611, 2020.
3) 矢島 知治:【杏林大学医学部の医学教育の変遷】臨床実習.杏林医会誌,52(1): 35-38,2021.
4) 進士 誠一,横堀 將司,清水 哲也,他:Virtual Reality技術を活用した外科系臨床実習,日医大医会誌,18(1): 98-104,2022.
5) 高見 秀樹,小寺 泰弘:「《緊急特別企画》パンデミック状況下における外科診療と教育」パンデミック下における外科卒前教育の工夫.日外会誌,122(5):575-577,2021.
6) Zhao J, Xu X, Jiang H, et al. : The effectiveness of virtual reality-based technology on anatomy teaching: a meta-analysis of randomized controlled studies. BMC Med Educ, 20(1): 127, 2020.
7) Sommer GM, Broschewitz J, Huppert S, et al. : The role of virtual reality simulation in surgical training in the light of COVID-19 pandemic: Visual spatial ability as a predictor for improved surgical performance: a randomized trial. Medicine (Baltimore), 100(50):e27844, 2021.
8) Petrica A, Lungeanu D, Ciuta A, et al. : Using 360-degree video for teaching emergency medicine during and beyond the COVID-19 pandemic. Ann Med, 53(1): 1520-1530, 2021.
9) 小山 博史:医学と医療の最前線 バーチャルリアリティと拡張現実技術の医学教育/医療応用.日内会誌,109(1): 100-106, 2020.
10) Blumstein G, Zukotynski B, Cevallos N, et al. : Randomized Trial of a Virtual Reality Tool to Teach Surgical Technique for Tibial Shaft Fracture Intramedullary Nailing. J Surg Educ, 77(4): 969-977, 2020.

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