[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (2632KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 124(1): 113-115, 2023

項目選択

定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(8)「手術教育のイノベーション」
2.生体心臓シミュレーターに四次元Virtual reality技術を応用した新たな手術教育システム

1) 滋賀医科大学 外科学講座心臓血管外科
2) 滋賀医科大学 放射線医学講座
3) 滋賀医科大学 大学院医学研究科
4) 立命館大学 総合科学技術研究機構
5) 立命館大学 情報理工学部

神谷 賢一1)3)4) , 永谷 幸裕2) , 寺田 真也3) , 松林 優児1) , 三輪 駿太1) , 森 陽太郎1) , 脇坂 穂高1) , 榎本 匡秀1) , 南舘 直志1) , 高島 範之1) , 藤井 太平4) , 仲田 晋5) , 鈴木 友彰1)

(2022年4月16日受付)



キーワード
バーチャルリアリティー, 三次元画像, 心臓解剖, 手術教育, シミュレーター

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
本学ではCTやMRI画像データを三次元化するVirtual reality(VR)ソフトウェアを用いて心臓血管系の動態解析を進めている1).われわれは最新のグラフィック技術をVRに融合し,さらに高次元(4D)化したシステムVesalius 3D suiteを共同開発した.今回,ブタの摘出心を用いた生体シミュレーターを作成しVRを融合することで心臓血管外科の手術教育に有用なシステムを考案した.

II.VR技術とは
VR技術は医療画像データ(DICOM)から臓器を三次元(3D)再構成し,生体を解剖せずとも臓器の内部構造を可視化できる.近年さらに高度な解析が可能となり,診断や治療に役立つと期待されている1)2).現在の画像解析は,任意の断面で点をプロットする二次元計測(2D-MPR)が標準的である.またボリュームレンダリング画像は臓器の立体構造を把握できるが,あくまで3Dデータを二次元平面に表示しており,一見3Dに見えるものの定量的な三次元情報はなく,意図する部位を直接計測できない.これに対しVRでは,画像データをボクセルという無数の三次元座標で構成された空間に投影する.座標上の点と点を結ぶことで,あらゆる方位から距離や角度など視覚的に高い確信度を担保しながら計測できる.

III.VR解析の問題点
VR画像は閾値や不透明度など様々な表示条件により変化し,石灰化や金属によるアーチファクト,造影不良により画質は大きく影響を受ける.そのため元データの精度が悪い症例では高精細なVR画像が得られず注意が必要である2).またVRが表示する画像や計測精度に関してもエビデンスに乏しい.本研究では動物の生体組織(ブタ摘出心)を用いてVR画像の精度を検証した.

IV.VR画像の精度検証
ブタ摘出心の左室心尖部,左房,大動脈に人工血管とカニューレを接続し,ポンプとリザーバーを装着して閉鎖回路を作成した(図1).高精細内視鏡を左房と大動脈内に挿入し,大動脈弁と僧帽弁を直接観察した.心拍動を再現し希釈造影剤を心腔内に注入しながら320列心臓CTを連続撮影した.得られたCTデータから心臓のVR画像を構築し,収縮期・拡張期における弁尖の形態を内視鏡映像と比較した.その結果,内視鏡画像では心拍動に応じて各弁尖の開閉が鮮明に描出された.また心腔内を流れる造影剤flow,大動脈基部や僧帽弁の立体的な形状変化が可視化された.同時相での各弁尖の異なるモダリティ画像を直接,ボクセル空間上で重ね合わせた結果,3D-VR画像は充分な解像度で緻密な生体の解剖構造を正確に再現していた(図23)

図01図02

V.おわりに
生体組織に高精度のVR技術を応用し,心臓弁のリアルタイムな映像と心臓内部の立体的な4D画像を得ることで,心臓の解剖学的または生理学的な理解が深まると考える.また若手外科医にとって,このシミュレーターを構築する行程が手術手技の修練に有用な可能性が高い4).近年,VRは教育における有用性も認識されており,本学でも解剖学講義で活用するなど,今後さらなる応用が期待できる.

 
利益相反
特許使用料:Vesalius 3D software(PS Tech, Netherlands)
ソフトウェアライセンスの無償提供
研究費:滋賀医科大学学長裁量経費,シンポジウム副賞

このページのトップへ戻る


文献
1) Kamiya K, Nagatani Y, Suzuki T, et al.: A Virtual-Reality Imaging Analysis of the Dynamic Aortic Root Anatomy. Ann Thorac Surg, 112(6): 2077-2083, 2021.
2) 神谷 賢一,永谷 幸裕,鈴木 友彰,他: 心臓血管外科における新たな三次元イメージングシステム-バーチャルリアリティー技術の有用性-.胸部外科, 76(6): 403-410, 2022.
3) Kamiya K, Nagatani Y, Suzuki T, et al.: Validation of Virtual Imaging of a Dynamic, Functioning Aortic Valve Using an Ex-vivo Porcine Heart . Ann Thorac Surg, 114(1): 334-339, 2022.
4) Kamiya K, Matsubayashi Y, Suzuki T, et al.: Ex-vivo aortic root and coronary artery cast measurement to validate the accuracy of virtual imaging. J Card Surg, 37(8): 2461-2465, 2022.

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。