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日外会誌. 124(1): 106-108, 2023

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(7)「外科発展の礎―外科志望者増加のための取り組み」
8.外科医獲得にむけた神戸大学外科学講座の取り組み

1) 神戸大学大学院医学研究科外科学講座 肝胆膵外科
2) 神戸大学大学院医学研究科外科学講座 心臓血管外科
3) 神戸大学大学院医学研究科外科学講座 食道胃腸外科
4) 神戸大学大学院医学研究科外科学講座 乳腺内分泌外科
5) 神戸大学大学院医学研究科外科学講座 小児外科
6) 神戸大学大学院医学研究科外科学講座 呼吸器外科

小松 昇平1) , 岡田 健次2) , 掛地 吉弘3) , 國久 智成4) , 尾藤 祐子5) , 眞庭 謙昌6) , 福本 巧1)

(2022年4月16日受付)



キーワード
外科医獲得, 労働環境改善, ハンズオンセミナー

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I.はじめに
わが国の外科医師数は1998年以降減少し2004年の新医師臨床研修制度がそれに拍車を掛けた.外科医の処遇改善により外科医の絶対数減少には歯止めがかかったが,増加する医師全体の中で外科医の割合は減少を続けている1).外科医が減少することで,外科医を取り巻く環境は悪化する悪循環を引き起こしており,労働環境改善の観点からも外科医獲得は喫緊の課題である.さらに,2024年に迫った医師の働き方改革実施を迎えるにあたり,医療の効率化と新人外科医獲得が不可欠な要素と考えている.

II.神戸大学外科学講座の取り組み
①労働環境の改善
医師の働き方改革では2024年4月から医師の時間外労働上限が原則として年間960時間になる.全ての診療科が2024年に間に合わない可能性を考慮し,期限付きでいくつかの代替案も検討されているが,いずれにしても医師の労働時間を把握し,管理する方向性に変わりない.年間960時間の超過勤務は月平均では80時間で,早朝・夜間・祝日勤務を考えると週に10時間強の超過勤務が限界である.神戸大学外科学講座では従来,外科4診療科で各々置いていた夜間当直を集約し,夜間勤務者を一人置く体制に移行することで当直人員の削減に成功した.他にも,カンファレンスの勤務時間内実施・外勤勤務シフトに準じた個々の労働勤務体制設定,などの工夫を進めている.
②外科の魅力を伝える取り組み
2004年の新医師臨床研修制度により大学病院の研修医が減少したことに加えて,神戸大学では初期研修プログラムでの外科研修が必修ではなくなったため初期研修医勧誘が困難になった.このため早期体験学習として医学部学生,初期研修医を対象としたハンズオンセミナーを企画し,現在では外科学講座・各診療科主催併せて毎年20回程度開催している.
昨今コロナ禍の影響でハンズオンセミナーが開催できない時期が続いたため,Webを利用したオンラインセミナーを初の試みとして開催した.オンラインセミナーでは実際に手を動かす「手技」の体験や指導は困難であるが,一方でこれまで参加できなかった遠方の学生や研修医も参加可能であり,新たなプラットフォームとなることが期待される.ポストコロナ時代には現地参加とオンライン参加を組み合わせたハイブリッド型セミナーが重要になると考えている.
③外科専門研修プログラムの強化
外科医の養成は大学病院だけではなく連携している研修施設群での修練も非常に重要である.神戸大学外科領域専門研修プログラム施設群には,センター的病院,都市部病院,地方病院など特色のある病院が多数参加しているため,研修医一人ひとりの希望に沿った丁寧な研修プログラムの立案が可能である.また,従来は外科の専門分野は2年間の初期研修修了時に決定することが通例であったが,現在は専攻医修了後つまり卒後5年目終了時まで選択可能とし,専門領域選択の自由度を高める試みを行っている.実際にはその後の変更も可能で,他大学プログラムとの差別化を図るため,柔軟なプログラム設計を意識している.この試みにより女性医師の結婚や出産によるライフプランの見直し等にも対応可能となっている.また外科医の多様化するあり方に対応するため,現時点では外科学会のサブスペシャルティとしては認定されていないAcute Care Surgeonの養成を目的に2020年度に外傷救急外科医育成プログラムを立ち上げた(図1).これにより外科と救急の融合領域を専門とする外科医のリクルートも可能となり,毎年複数の応募者がいる状況である.
④関連施設プログラムの強化
従来,神戸大学は単一の外科専門研修プログラムを採用していたが2019年に方針を転換し,連携施設独自の外科専門研修プログラムを立ち上げ,複数プログラムで広く外科専攻医を募集する体制を構築した.単一プログラムの場合,専攻医の研修状態や全体像の把握が容易となり,関連施設外科専攻医数の調整が可能となる.一方,多数のプログラムを立ち上げた場合,単一のプログラムの長所が相対的な短所となるが,勤務地制限希望者への対応が可能であったり,大学病院勤務が必ずしも必須ではないため,他大学出身者にとって敷居を低くすることが可能になるなどメリットも多い.
現在,神戸大学外科専門研修プログラムと六つの外科専門研修プログラムが連携し,外科医育成をすすめている(図2).各プログラム同士の横のつながり・情報共有を強化し,大学病院および関連施設双方の利点を最大限に活かして,神戸大学関連プログラム全体として魅力を発信するよう心がけている.

図01図02

III.おわりに
若者の外科離れは深刻で,将来の医療を担う若手外科医のリクルートは大学外科の存続だけではなく社会全体の喫緊の課題である.しかしその特効薬はなく,ありきたりであるが公平性・透明性を担保し,研修者一人ひとりに寄り添ったプログラムを立案する,将来に対する展望を示す,など若手医師が納得し,未来に希望を感じることができるための取り組みが重要と考えている.
手術の醍醐味,ロボット手術を含めた外科学自体の魅力の発信はもちろんであるが,働き方改革・労働環境への配慮,性別に関わらず外科医が活躍できる環境構築など課題も山積している.われわれ外科医自身が楽しく充実した生活を送っている事実自体が,外科勧誘の最大の宣伝であると考えている.未来の外科医達のための環境構築が,われわれが果たすべき責務と考え今後も取り組んでいきたい.
本原稿内容は一部,「病理と臨床2021 Vol39.No.9」より引用しています2)

 
利益相反:なし

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文献
1) 厚生労働省:平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況.2022年11月1日. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/18/dl/kekka-1.pdf
2) 福本 巧:外科分野におけるリクルートの工夫.病理と臨39 (9): 926-931, 2021.

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