日外会誌. 124(1): 6-7, 2023
理想の男女共同参画を目指して
北米のAcute Care Surgeryは外科医の「男女共同参画」と「働き方改革」の観点からダイバーシティ推進に貢献しうる
帝京大学医学部 救急医学講座Acute Care Surgery部門 伊藤 香 |
キーワード
Acute Care Surgery, 男女共同参画, 働き方改革, ダイバーシティ
I.はじめに
北米では,外科が専門細分化されるにつれて,time sensitiveな急性期外科病態である外傷,一般外科緊急手術,外科集中治療を取り扱う分野が専門分野として浮き彫りになるようになった.その分野は,2005年に米国外傷外科学会によりAcute Care Surgery(ACS)と明確に定義された.その後,ACSの3本柱に,surgical rescue(外科的合併症に対する緊急対応),待機的手術が加わり,現在では5本柱からなる.米国の外科教育機関では,外科専門医がサブスペシャルティとして外科集中治療専門医資格を取得し,ACS部門として機能している1)2).ACSは重症患者を取り扱わないといけない反面,シフト制の勤務体制をとることで,ワークライフバランスが保ちやすい分野としても知られている.
II.米国ACSシステムと「男女共同参画」
米国のAssociation of Women Surgeonsによる調査では,ACS部門は他の外科のサブスペシャルティに比べて女性外科医の比率が最も高く(42.7%,平均年次増加率1.4%),男女共同参画が最も進んでいる分野であることがわかった3).Fosterらの2020年の報告では,米国外傷外科学会の役員の31.0%(13/42)が女性だった4).当時の米国外科学会会員の女性比率が17%であることを考えると,ACS部門はリーダーシップの女性比率が高く,ライフイベントでキャリアが中断されがちである女性であっても活躍しやすい環境であることが示唆された.
III.米国ACSシステムと「働き方改革」
Helewaらが行ったACS部門を有する北米施設の外科医によるアンケート調査によると,他専門分野の外科医が一般外科のオンコールから解放され,自身の専門分野により専念できるようになった(賛成89.8%),緊急手術をACS部門が引き受けるため,勤務時間がコントロールしやすくなった(賛成84.2%),ACS部門があることでquality of lifeが向上した(賛成84.2%),家族と過ごす時間が増えた(賛成79.0%)など,ACS部門に対する肯定的な評価が上がった5).これらの調査結果から,ACS部門のように常に緊急手術に対応できるチームを配置することで,外科医全体の働き方自体に良い影響を与えていると思われた.
IV.日本での現状
2009年に発足した日本Acute Care Surgery学会には認定医制度が制定されており,2022年4月現在181名が認定されている6).外傷や急性期外科疾患に特化した手術や集中治療に興味を持つ外科医や研修医,医学生は,ある一定数はいると思われる.同分野が外科のサブスペシャルティとして発展し,キャリアパスを示すことで,男女問わず,ACSを目指す若手を外科へリクルートできるかもしれない.本邦においても,シフト制で緊急対応をするACS部門を配置すれば,多様な働き方が可能となり,外科医全体のダイバーシティ推進につながる可能性もある.
V.おわりに
ACSが外科全体にもたらす男女共同参画や働き方改革,ひいてはダイバーシティ推進への貢献の可能性を米国のエビデンスを基に示した.
利益相反:なし
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