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日外会誌. 123(6): 633-635, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「医療安全を支えるNon-Technical Skills」
6.「大学病院における多職種ノンテクニカルスキルの実践」安全管理確保のための質改善向上の取り組み

1) 宮崎大学医学部附属病院 医療安全管理部
2) 宮崎大学医学部附属病院 呼吸器・乳腺外科

綾部 貴典1)2) , 奥村 学1) , 神田 久美子1) , 中村 小夜子1) , 小田 浩美1) , 山本 亜矢1) , 甲斐 由紀子1) , 恒吉 勇男1)

(2022年4月16日受付)



キーワード
医療安全, ノンテクニカルスキル, 多職種, 大学病院, コミュニケーション

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I.はじめに
宮崎大学病院の医療安全管理部は,院内組織の32 部署に対して,「安全管理確保」を目的として「質の改善と向上を目指す取り組み」を実践してきた.医療安全活動においてはコミュニケーションが重要と考えて,「多職種ノンテクニカルスキルの実践」を共通テーマにしている.各32部署は,ノンテクニカルスキルやチームステップスの中における「コミュニケーション」の要素(ブリーフィング,ディブリーフィング,2回チャレンジルール,スピークアップ,エスバー(SBAR)など)の中から,実践しやすい事項を選択し,各部署における多職種職員のコミュニケーションスキル向上に向けたトレーニングを行ってきた.当院の令和2年度と令和3年度の2年間の取り組み成果を報告する.

II.方法
当院は19の病棟と14の中央診療科の計32部署を有している.各部署は,毎年5月に質改善・向上の計画書を作成し,自部署の「現状分析」を行い,「問題点」を抽出し,改善のための「具体的目標」を設定し,計画書を実現可能な水準で作成する.
医療安全管理部は,毎年6月に各部署のリスクマネジャー(部署医療安全管理者)とチームメンバーを集めて面談してヒアリングを行い,計画書の内容を改善した.①だれが,②何を,③どのようにして,④どれだけ,⑤いつまで,を記載させることで,より具体的な計画書になるように支援した.医療安全管理部は,各部署の担当者と計画書を作成する過程に参画することにより,より具体的に改善計画が実現できるように教育を行い,数値目標を定めて,取り組み実践の合意形成を行った.
取り組み内容は,PDCAサイクルや問題解決8ステップの理論を用いて「見える化」し,計画書を磨き上げた.各部署は7月から11月の5カ月間で計画内容を実践した.医療安全管理部は,9月,10月の中間時期で,各部署を訪問し,現場での進捗状況を確認し,あまり進捗していない部署に対しては,叱咤激励を行った.各部署は12月に自己評価を行い,得られた成果を報告書にまとめて医療安全管理部に提出した.
医療安全管理部は各32部署の成果を公平に評価する目的で,取り組み内容は「難易度」,アウトカムは「達成度」の視点で,それぞれ4段階(高い:1.0点,中位:0.75点,並:0.5点,低い:0.25点)で評価した.各部署の成果は相対評価で行い,実践基本点として☆1点を加算し,「基本点☆1点 + 評価点☆☆2点×難易度の点数×達成度の点数」で算出し,点数を「☆の数」として表現した.成果の順位付けを行い,優秀部署を選んだ.

III.結果
図1に,令和2年度と令和3年度の各32部署の「難易度」と「達成度」の比較を示した.「難易度」は,令和2年度より令和3年度は「並」が増え,「中位」が減少した.「達成度」は,令和2年度より令和3年度は「高い」が増加した.
図2に,令和2年度と令和3年度の各32部署における相対評価の比較を示した.相対評価は,「☆☆2点」以上を獲得した部署を「目標を期待以上に上回る成果を上げた部署」とした.「☆☆2点」を獲得した部署は,令和2年度は0部署から令和3年度は2部署へと増加した.「☆☆2.125点」を獲得した部署は,7部署から6部署へ,「☆☆2.5点」を獲得した部署は,3部署から8部署へ増加し,「☆☆☆3点」を獲得した部署は,2部署から3部署へ増加した.「☆☆2点」以上を獲得した部署は,令和2年度は12部署から令和3年度は19部署へ増加した.「☆☆2点」以上を獲得した「目標を期待以上に上回る成果を出した部署」の割合は,37.5%(12/32)から59.4%(19/32)へ増加した.

図01図02

IV.まとめ
各32部署は,「ノンテクニカルスキルのコミュニケーションツール」の中から取り組みやすい事項を選択し,医療安全管理部からの助言,支援を受けながら計画書を作成し実践に取り組んだ.各部署の現状や特性,熱意を考慮し,少しずつ,ゆるく,ゆっくり,中長期的に取り組めるように配慮し,自主的な活動につながるような仕掛けを構築した.医療安全管理部は,各部署がまとめた報告書をもとに活動内容やアウトカムの評価を公平に行い,優秀部署を選定し,表彰した.優秀部署は,毎年2月にリスクマネージャー会議で取り組んだ内容を発表した.優秀部署による改善実践過程や得られた成果の発表は,他部署への教育的なインパクトとなり,病院全体で情報が共有される.次年度への改善取り組みのヒントとなり,全部署の改善取り組み能力の底上げや継続的な取り組みのシステム化に貢献できると思われる.

V.おわりに
大学病院として,「多職種によるノンテクニカルスキルの実践」を組み込んだ改善活動プロセスのシステム化は難しい.コミュニケーションをテーマにした改善活動を実践させて,実践のプロセスや問題解決の手法を現場に改善文化として醸成していくことは重要である.学習させ,浸透させ,定着して,実装されること,継続的に教育していくことの仕掛けづくりが重要であると思われた.

 
利益相反:なし

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