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日外会誌. 123(6): 630-632, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「医療安全を支えるNon-Technical Skills」
5.Non-technical skillとしてのコンサルテーション技術の卒前教育―外科救急症例の円滑な医療連携のために―

1) 自治医科大学 外科学講座
2) 自治医科大学 先端医療技術開発センター医療技術トレーニングコア

遠藤 和洋1)2) , 斎藤 心1) , 鯉沼 広治1) , 川平 洋1) , 山口 博紀1) , 佐久間 康成1) , 堀江 久永1) , 細谷 好則1) , 味村 俊樹1) , アラン瓦井 レフォー1) , 北山 丈二1) , 佐田 尚宏1)

(2022年4月16日受付)



キーワード
ノンテクニカルスキル, コンサルテーション, 卒前教育, 心理的安全性, 正統的周辺参加

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I.はじめに

コンサルテーションスキル教育の現状と課題
チーム医療実践には,様々なノンテクニカルスキルが必要とされる.コンサルテーションは不可欠なスキルの一つである.特に緊急性の高い外科救急では,スムーズな情報共有は必須である.
では,医師はコンサルテーションスキルをどのように学んでいるのであろうか?
われわれは初期臨床研修医を対象に,その研修終了時にアンケート調査を実施した.その結果は以下の様であった.
①約2/3は,コンサルテーションについて系統的な教育を受けたことがない.
②多くは,症例毎のOJT(on the job training)によって学んでいる.
③多くの研修医は,コンサルテーションに自信がない.
このように,現状には大きな問題がある.系統的な教育がなされずOJTに強く依存することは,標準的なスキルを身につけるには不適切である.結果として,研修終了時点で自信を持てていないことにつながっている.系統的な教育によって標準的なスキルを習得し,その活用法を指導医とともにOJTで学ぶことが理想的である.そのためには卒後教育のみならず卒前教育の果たす役割も重要である.
われわれは,このような問題意識から外科教育の一環として外科医へのコンサルテーションをテーマに卒前教育を行っている.われわれの取り組みについて述べる.なお,今回は広義のコンサルテーションとしてリファーも含めて論じる.

II.医学生に対するコンサルテーション技術の教育

方法
対象)医学部5年生55名
なお当大学のカリキュラムでは,医療コミュニケーションの講義でSBARを学んでいる.SBARとは,Situation, Background, Assessment, Recommendation(Request)の頭文字をとったもので,情報共有のツールとして広く用いられている(表1).
方法)外科臨床実習のなかで「腹部救急疾患のCT読影とコンサルテーション」と題して実施した.資料による事前自己学習,対面講義,そしてグループワークによる臨床症例の読影と学生同士でのプレゼンテーションを組み合わせて実施した.コンサルテーションについては,腹部救急症例を例として,他院外科医へのSBARを用いた医療連携として学んだ.
評価)学習後の課題として,仮想症例のコンサルテーションを実施した.仮想症例情報(臨床情報とCT画像情報)に基づいて,当直医として電話コンサルテーションを録音し提出した.
コンサルテーションの時間と内容について評価した.内容については知識2項目(病態理解とCTの読影),コンサルテーション能力2項目(SBARによる構造化,プレゼンテーションスキル)合計4項目についてそれぞれ0点から3点の評価ルーブリック表を作成した.同一の外科医1名が評価した.

結果
コンサルテーションに要した時間は,平均106秒(57~167秒)であった.内容評価では,症例情報から重要所見を抽出して病態理解することができていた(平均2.45点).しかしCT画像情報から治療方針決定に必要な所見を抽出し説明する能力は低かった(平均1.51点).一方でコンサルテーション能力評価では,2項目とも非常に高い評価を示した.ほとんどの学生はSBARによる構造化されたコンサルテーションができていた(平均2.91点).またプレゼンテーションとしても明瞭で,理解しやすいものであった(平均2.91点).

表01

III.考察

標準的ツールの重要性
コンサルテーションスキルは伝達可能な技術であり,系統的な教育により一定の能力の習得が可能である.多様で多忙な臨床現場では,「短時間」で「もれなく」必要な情報を伝達する必要がある.そのためには標準化された「ツール」が有用である.
SBARは,その有用性から医療現場でも活用されている.TeamSTEPPSでも取り入れられている.シンプルで応用範囲も広いことから,様々な職種の医療者が様々な状況下で利用できる.
標準化の利点は大きい.まず情報を発信する側は,ツールに沿って情報提示することにより漏れを少なくすることができる.同時に受ける側にとっては,構造化されていることにより内容が把握しやすく,求められる対応も明確である.さらに,医師は多くの臨床現場で指導的立場を求められる.標準的ツールを理解しておくことは,この観点からも重要である.

医学教育における心理的安全性,正統的周辺参加
先の研修医へのアンケート調査で,多くの研修医がコンサルテーション現場での不快で理不尽と感じる対応をされた経験を訴えていた.教員と学生,上司と部下,ベテランと初心者のような勾配が存在する中での教育では十分な配慮が求められる.
学びを生かして臨床能力を高めるためには,OJTを積み重ねて経験的学習を継続する必要がある.特に卒後教育では,臨床経験を多く蓄積することが重要である.当然ながら,失敗や問題が発生する.指導者は臨床の安全性を確保しながら,学習者を萎縮させず,適切な指導により次の学びにつなげることが求められる.そこで考慮すべきは,「心理的安全性」と「正統的周辺参加」という考え方である.心理的安全性は,「組織内での行動や言動によって,罰せられないと感じられる」ことである.生産性の高いチーム作りから注目された概念であるが,医療現場でも重要性が強調されている.これは,学習者が専門職集団に「正統なメンバー」として参加し,徐々にその集団の技能を学習していくという正統的周辺参加と通じる考え方である.

IV.おわりに
卒前教育,卒後研修では,外科教育に一定の時間が割かれている.もちろんすべての医学生や研修医が外科を専門とすることはなく,むしろ多くはその後外科医として仕事をすることはない.しかし,臨床現場でわれわれ外科医と協調して患者を助けていく.そのために,外科教育の現場では,外科医の考え方を伝えることが重要である.その考え方を理解した医師からのスムーズなコンサルテーションは,われわれ外科医の負担を軽減し,最終的に患者の利益につながる.

 
利益相反:なし

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