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日外会誌. 123(6): 636-638, 2022

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定期学術集会特別企画記録

第122回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「医療安全を支えるNon-Technical Skills」
7.当院における鏡視下手術に対する医療安全向上に関わる取り組み

1) 滋賀医科大学医学部附属病院 医療安全管理部
2) 滋賀医科大学医学部附属病院 外科学講座
3) 広島大学病院 医療安全管理部

清水 智治1) , 三宅 亨2) , 貝田 佐知子2) , 飯田 洋也2) , 小越 優子1) , 伊吹 奈緒子1) , 萬代 良一1) , 生野 芳博1) , 村上 節1) , 伊藤 英樹3) , 花岡 淳2) , 谷 眞至2)

(2022年4月16日受付)



キーワード
医療安全管理, 鏡視下手術, 腹腔鏡下手術, インシデント, 医療事故

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I.はじめに
鏡視下手術は,低侵襲性や拡大視効果など利点があり広く普及してきたが,内視鏡をはじめとする特殊機器を使用する必要性や鏡視下手術に特有な合併症や偶発症が発生する可能性などの欠点もある.当院では,鏡視下手術に共通して発生する有害事象やインシデントが複数の診療科において共有されていない可能性が指摘された.この共通して発生する合併症やインシデントについて,診療科の垣根を越えて情報共有することを目的として,2018年より『鏡視下手術を考えるワークショップ』を開催している.このワークショップは,鏡視下手術を実施する診療科のうち消化器外科,乳腺・小児・一般外科,呼吸器外科,泌尿器科,母子・女性診療科を対象として,インシデント情報をフィードバック・共有し,再発予防策を議論する集会である.本稿では,その経過と現状について報告する.

II.当院の概要と医療安全管理体制と鏡視下手術に関わる状況
当院は,滋賀県唯一の特定機能病院であり,2020年度の診療実績は,新入院患者数12,746名,手術件数9,442件(麻酔科関与4,488件)であった.医療安全管理部は,専従の医師2名・看護師2名・薬剤師1名と,兼任の医師3名・看護師1名・臨床工学技士1名・診療放射線技師1名・事務職員2名で構成され,院内のあらゆる部門・部署と連携をとりながら,医療安全の向上を目指して活動している.
当院では,日本外科学会に所属する外科系診療科(消化器・乳腺・小児・一般外科,呼吸器外科)のみならず他の診療科(泌尿器科,母子・女性診療科)でも鏡視下手術は低侵襲手術として積極的に取り入れられている.通常の鏡視下手術のみならず,da Vinci Surgical Systemも2013年より泌尿器科にて使用が開始されており,2014年より消化器外科でも直腸悪性腫瘍に対して導入された.2018年のロボット支援手術の保険診療承認拡大後からは消化器外科,呼吸器外科,母子・女性診療科でも使用頻度が年々増加してきている.

III.各年度でのワークショップ開催概要とその成果
2018年3月(2017年度)に初めて『鏡視下手術を考えるワークショップ』が開催された.以降,合計4回のワークショップを開催した.
第1回ワークショップでは,特に,腹腔鏡下手術における偶発症として,血管・腸管・臓器損傷など手術対象臓器以外の臓器・組織損傷(対象外臓器損傷)について,実際に発生した症例を提示し,術中ビデオの供覧もしながら,どのように発生して,どのように視認されて,どのような対応が必要であるかを情報共有し,その対策についても議論した.さらに,臓器損傷を回避するために,鉗子類の特性を理解し安全な操作を心がけることやエネルギーデバイスの安全な操作方法などを確認した.また,対象外臓器損傷については,術後に発見された事例では,在院期間の延長が認められる(図1)ことから,術中・手術終了時に確認を行いできるかぎり早期発見に努めることが推奨された.2018年度はワークショップの開催はなかった.
第2回ワークショップは,2020年3月(2019年度)に開催された.対象外臓器損傷の発生率の変化は認めないものの,術中覚知率の上昇を認め,合併症発生後の術後在院期間の減少を認めた(表1).情報共有としては,保険診療としても手術数が増加していたda Vinci Surgical Systemを用いたロボット支援手術の各診療科での現状と問題点などについてディスカッションを行った.
第3回ワークショップは,2020年12月(2020年度)に開催された.2020年の報告では,対象外臓器損傷の発生率の著明な低下を認めた(表1).さらに,第3回からは,手術部看護師・臨床工学技士も参加し,各職種からの情報共有も開始した.看護師からは内視鏡手術に伴う皮膚・神経障害等への対応についての取り組みについて紹介があり,医師の協力を得て,より安全な手術機器の使用や手術体位や皮膚圧迫部の除圧の管理について理解を得た.臨床工学技士からは,鏡視下手術器具の使用後のメンテナンス現状と今後について情報提供があり,手術機器の管理について医師にも意識してもらうように働きかけ,臨床工学技士との協同を促した.
第4回ワークショップは,2022年2月(2021年度)に開催された.2021年には,看護師からのインシデント報告は14件の減少を認めた.これは皮膚障害と体位に関連するインシデント報告が10件減少したことによるものであったので,第3回ワークショップでの情報共有の成果であると思われた.この年の対象外臓器損傷については,第1回ワークショップと同様に,実際に対象外臓器損傷の発生した症例の提示を行い,術中ビデオの供覧・情報共有した.2020年と比較すると対象外臓器損傷の発生は,増加をしていた(表1).これは特定の診療科のみ増加を認めていた.既報と比較するとこの診療科での対象外臓器損傷の発生率は若干高い1)と考えられたため,診療科へフィードバックを行い,安全な手術治療の運用を心掛けてもらえる様に診療科内で意思統一を図った.

図01表01

IV.おわりに
当院の鏡視下手術における医療安全管理に関する取り組みについて報告した.今後も『鏡視下手術を考えるワークショップ』を継続して,多職種による情報共有を行い安全な鏡視下手術の運営に努めたいと考えている.

 
利益相反:なし

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文献
1) 日本内視鏡外科学会学術委員会:内視鏡下外科手術に関するアンケート調査―第15回集計結果―.一般社団法人日本内視鏡外科学会,東京,p2-136, 2021.

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