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日外会誌. 123(6): 519-524, 2022

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特集

ロボット支援下手術の現況と展望

2.ロボット支援下手術の現状と展望 <食道>

1) 国立がん研究センター中央病院 
2) 国立がん研究センター東病院 

大幸 宏幸1) , 小熊 潤也1) , 石山 廣志朗1) , 藤田 武郎2)

内容要旨
黎明期から成長期,そして成熟期へと時代が進むのであれば,2018年に保険収載され数年しか経過していない2022年の現在は,食道癌に対するRobot手術は黎明期から成長期への移行期である.その移行期にある食道がんに対するRobot手術を二つのEBMであるEvidence Based MedicineとExperience Based Medicineで評価すると,確実に低侵襲性手術はRobotへとパラダイムシフトしており,安全性は胸腔鏡下食道切除と同等であるが,Robot手術のメリットおよび遠隔成績は不明瞭である.

キーワード
ロボット, 食道切除, 低侵襲性手術, 胸腔鏡

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I.はじめに
食道がんに対する低侵襲性手術は,Cuschieriが1992年に側臥位1),1994年に腹臥位2)による胸腔鏡下食道切除(胸腔鏡)を相次いで発表し夜が明けた.その後,2006年にPalanivelu3)が130例の腹臥位胸腔鏡下食道切除を発表し,世界的に広く普及した.医療技術の進歩もさることながら,腹臥位による胸腔鏡下食道切除がもたらした恩恵は非常に大きく,肺と心臓を圧排することなく直接食道が見え安定した視野が得られ,さらに内視鏡により解剖構造が拡大視されるので縦隔解剖の造詣が深まった.食道は臓器鞘に包まれ内部構造は腸間膜構造を呈していることは議論の余地のないところである3)8).この解剖的コンセプトを基に,胸腔鏡下食道切除は定型化され,既にみなし標準手術として行われている.そこにロボットが導入され,2018年に保険収載されてから加速度的に普及し始めた(図1図2).2022年現在におけるロボット支援下食道切除術(Robot)を,二つのEBMであるEvidence Based MedicineとExperience Based Medicineを用いて論じる.

図01図02

II.ロボット支援下食道切除術の現在地

1.ロボット支援下食道切除術の実施件数
1-1)本邦における症例数
日本内視鏡外科学会の第15回アンケート調査集計結果報告(図19)によると,ロボット食道切除術は,本邦では2016年度から開始され2018年の保険収載以降に多くの症例が行われ始めた.症例数の伸びを,インテュイティブサージカル社資料(図2)からみると,年度別に右肩上がりに症例数を伸ばし,2018年度からは4半期別にみても確実に症例数を伸ばしている(図2).
1-2)当院での適応と症例数
当院におけるロボット食道切除術は,高難度新規医療として安全性を評価する前向き臨床試験として行ってきた10).安全性の確認後は,当院でのロボット台数が2台に増加されたことおよび全てのスタッフが行い始めたこともあり,右肩上がりに症例数を伸ばして今年は上半期で50例を行ってきている(図3).適応は,早期がんから導入を開始して,現在では進行あるいは救済食道切除に至るまで適応を拡大している.また,内視鏡が硬性鏡であることより,椎体および下行大動脈を乗り越えて食道を観察することができ難いため,開始当初は左側食道症例は適応外としてきた.しかし症例を重ね,コンソール外科医とペイシャント外科医の慣れと連携とポート位置の工夫により,現在では左側食道を含め解剖学的な食道の位置で適応は決めていない.
1-3)展望
今後は,各施設で早期を適応としてきたロボット手術の安全性が確認され,適応が拡大する事,日本内視鏡外科学会が規定するロボット手術の施設および術者基準が緩和されるに従い,若い外科医もロボット手術に触れる機会が増えることも重なり,増加の一途をたどることが予想される.さらに,胸腔鏡によるsalvage 11)およびconversion12)手術の安全性も確認されたこと,Robotでは微細解剖が拡大視され精緻な手術が行えることが更なる安全性につながることより,高度局所進行食道癌にも適していると考え,cT4b大動脈以外は適応とし始めている.

2.Learning Curve(学習曲線)と教育
2-1)Learning Curve(学習曲線)
手術の安定性の評価には,手術時間に合併症を含めた周術期治療成績を含め総合的に評価する必要がある.しかしながら,全ての因子を統合して合理的に評価する手法は存在しないため,一般的に汎用されている手術時間で評価を行う報告が多い.手術時間によるlearning curveでは,van der Sluisらの報告では70例13),Park Sらは80例14)で手術時間の変曲点に達しているが,Hernandez JMらは20例15),Kingma BFらは22例16)が変曲点であった.4論文全て一人の術者における変曲点であり,施設における第一人者である事が予想される.変曲点に差がみられるのは,様々な要因が絡むので解明は困難である.当院では,筆者が先ずロボット手術を始め,胸腔鏡で確立した微細解剖に沿った同心円状モデルをコンセプト6)に標準化された手術に沿って,ロボット食道切除術も行っている10).2018年から2019年間に行った79例におけるCUSUMを用いた手術時間のlearning curveの変曲点は27例であった(図4).
2-2)教育
新規手術を導入する場合には,前述の4論文にあるように世界中どこの施設でも先ずはその施設の代表者または責任者が試み習得し,後輩へと教育を行いながら発展させていく.van der Sluisらの報告では11)熟練した外科医によるプロクター制による教育は,Learning curveを改善することができると報告してる.当院でもプロクター制の教育を行っており,さらに当院では腹部操作でロボット操作に慣れてから段階的に胸部操作を行うようにしている.先ずは助手の資格を取得し数十例実践しながらロボットトレーニングプログラムを20回以上行いロボットシステムの特徴を理解し慣れ,執刀資格を取得しロボット支援下胃管再建術を行い実際のロボット操作を理解し慣れる.その後に胸部操作を行う,プロクター制+段階的導入を行い,安全にかつ根治的な手術が行えるようにシステム化している.二つのコンソールを連動させてロボット手術を行うデュアルコンソールシステムは,術中リアルタイムに指導でき,またスイッチ一つで主導権を移動でき手術を行えるので2人目以降のLearning Curveは早くなることが予測される.
2-3)展望
OPEN時代における低侵襲性手術:胸腔鏡下食道切除の導入も同様であったように,各施設におけるロボット手術の導入は先ずはその施設の代表者または責任者が試み習得し,後輩へと教育を行いながら発展させていく.その施設における,2人目3人目の術者は第一人者が確立したロボット手術を踏襲し発展させていくので,Learning curveへの到達が早いことが予想される.この踏襲が連続的に継続され発展していくので,その施設ではロボットは特別な手術機械ではなく日常的な機械となり,ロボット手術は浸透していく.さらに,ダブルコンソールシステムでは実際の術野に図示しながら手術を指導でき,かつロボット手術ではストレスなく言葉で説明しながら解説できるので,教育的にも利便性が非常に高い.つまり,縦隔解剖の解明が進み標準化された現在における食道癌手術は,ロボットで行うことで教育が受けやすいので均霑化されやすいと考えている.

3.治療成績
3-1)周術期治療成績:低侵襲性手術におけるロボット手術の有意性
低侵襲性手術におけるRobotの役割を考えるうえで,胸腔鏡との比較による検証が必要であるが,周術期治療成績に関して二つを前向きに検証した臨床試験はない.しかしながら,中国からの報告で5年全生存率をprimary endpointにした臨床試験の周術期治療成績が報告され,Robotは胸腔鏡に比較して,有意に手術時間が早く術前治療群において両側反回神経周囲および胸部リンパ節総郭清個数が有意に多いと報告された17).2022年6月までにRobotと胸腔鏡を比較した3本のsystemic review / meta-analysisが報告18)20)されており,その2本の報告では19)20),総合併症率と在院死亡に差は無かったと報告している.Robotの有意性に関しては,Liら18)は総リンパ節郭清個数および腹部と反回神経周囲リンパ節郭清個数が多く,出血量と反回神経麻痺が少ない,Zhengら19)は手術時間が長いが,肺炎率は低い,Mederosら20)は肺関連合併症が少ないと報告している.
3-2)遠隔成績
遠隔成績も周術期治療成績同様に胸腔鏡との比較が必要である.しかしながら,前向きに生存率および無再発期間を検証した臨床試験は未だ報告はなく,2本のretrospective study21)22)があるのみである.Parkら21)は同一期間に行ったRobot62例と胸腔鏡43例を比較し,臨床および病理病期に差がない2群間において5年OSと無局所再発生存期間に有意差は認めず(5 year freedom from locoregional recurrence),Xuら22)は後ろ向き研究において傾向スコア解析を行い,Robotと胸腔鏡を292例選別しOSとDFSには差は認めなかったと報告している.
3-3)展望
低侵襲性手術における胸腔鏡とロボットの親和性のためか,導入段階にある治療成績ではあるが,後ろ向きな臨床研究の報告でも実際の臨床でもロボットは胸腔鏡と同じように安全に完遂されている.Systemic review/meta-analysisでは肺炎を含めた肺関連合併症と反回神経麻痺は有意に減少し,リンパ節郭清個数が有意に増加したと報告されているが,未だcontroversialである.リンパ節郭清個数に関して,胸腔鏡と比較して有意に増加した理由には,縦隔解剖の理解と胸腔鏡手術の未熟さや過度の郭清範囲が原因であるとも考えられるが,純粋にロボットによる解剖構造の理解と手技向上も考えられ,ロボットが局所制御に大いに役立つ可能性が示された.反回神経麻痺に関しては,上縦隔リンパ節郭清こそロボット手術の真骨頂であると考えている.拡大視される微細解剖に沿ってエンドリスト機能により精緻で再現性の高い確実な神経機能温存を伴うリンパ節郭清が行えると考えているが,胸腔鏡よりも有意に麻痺率が少ないというには時期早々である.遠隔成績に関してもretrospectiveな結果では生存およびPFSに差は無いが,これまた時期早々である.遠隔成績に関しては,OPENから低侵襲性手術への移行により縦隔解剖の造詣が深まり術式の標準化により過不足のないリンパ節郭清が行えるようになり,予後は改善したと報告されている23).しかしながら,低侵襲性手術において胸腔鏡と比較してOPENから胸腔鏡への劇的な変化に乏しく,胸腔鏡が標準化され行われている現在ではRobotを含めた低侵襲性手術の効果はプラトーに達している可能性より期待は低いと考えている.

図01図02図03図04

III.おわりに
Robotでは,微細解剖が更に拡大視されるので(Robotically Enhanced Surgical Anatomy24))縦隔解剖の造詣がさらに深まり,術野を含め全ての鉗子が自分好みに操作できるのでwell-accentuated spaceに沿った手術が可能となるため10),再現性の高い機能を温存した食道切除が可能である.Robotの術者をしていて,老眼による視野の見難さや眼精疲労,全ての手術器具を自分好みに操れることを含めたサージカルストレスの少なさを実感している.そのため,ロボット手術支援システムを評価する際には,患者因子と術者因子に分けて行う必要がある.患者因子である安全性と遠隔成績のみならず,外科医因子の評価も行ったうえで,その真価を問う必要がある.最後に,Robot手術を導入している病院としていない病院で2極化しているのが現状であり,今後は益々差が大きくなることが懸念される.

 
利益相反:なし

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文献
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