日外会誌. 123(4): 299-300, 2022
理想の男女共同参画を目指して
日本的雇用慣行を変えて拓かれる「理想の男女共同参画社会」
株式会社wiwiw代表取締役会長,経営管理学博士 山極 清子 |
キーワード
日本的雇用慣行, ジョブ型雇用, ジェンダー・ダイバーシティ, ワーク・ライフ・バランス
I.はじめに
「理想の男女共同参画」は,その阻害要因である日本的雇用慣行を根本的に見直すことで可能になる.問題は,経営者がこのことを認識していないことである.
本稿では,阻害要因の分析を踏まえ解決への道筋について概説する.
II.女性医師のキャリア形成が困難な背景
日本の女性医師は,過去最高の2割強だが医師の男女比はおよそ8対2と,OECDの中で最下位1)にある.また,病院勤務の女性医師は,皮膚科や産婦人科など4割以上でありながら,脳神経外科はじめ女性外科医は1割にも満たない2).特定の診療科への偏在に加え,女性医師の就業率が登録時95%程度から登録後12年の38歳には最低値約75%に減り,その後やや回復するも登録後30年代後半には急速に衰退する3).いわゆるM字型の就労カーブが指摘できる.
これらは,女性が高度な専門職の医師にあっても,家事・育児に多くの時間を割いており,従って,時間制約なく働くことが可能になる男性医師にはチャンスが多く,地位も高い,ことを指し示している.
III.長時間労働と固定的性別役割分担の「対構造」
1週間当たりの就業時間が60時間以上の労働者の割合をみると,子育て期にある30代,40代の男性が他の年代の男性や女性と比較し最も高い.日本女性の1日当たり無償労働時間は224分で,男性41分の5.5倍と,OECD諸国の中で際立って長い4).また,未就学児を持つ父親の平均的な帰宅時間は20時に対し,母親は16時1分である5).
今もなお,男性の就業時間が長い分,女性が就業時間を短縮しつつワンオペ家事・育児を担っている.つまり,長時間労働と固定的性別役分担とは「対構造」にある.
IV.企業社会の根底にある日本的雇用慣行
対構造の根底には,定年まで制約なく長時間労働を担う男性雇用者をコアの正規雇用の要件にした日本的雇用慣行がある6).
社員は,新卒で一括採用され,企業内教育訓練や繰り返す配置・異動等によりキャリア形成し,法定内外の福利厚生などの諸制度を享受しながら,年功賃金で終身まで働き続ける「運命共同体」のメンバーになる.組織の期待に応え,長時間労働を厭わない男性社員が,昇格・昇進し,管理職や役員に就く.
このような男性片働きモデルは,女性が専ら家事・育児を担うことと表裏一体となる.
V.解決への道筋
女性医師をはじめ女性個々人が,性別にかかわらず潜在能力を発揮できる男女共同参画社会の実現には,二つの施策が不可欠である.
第1は,女性もコア人材と位置づけ,女性たちを管理職や役員へ登用するジェンダー・ダイバーシティ施策である.女性が,正社員として採用され継続就業可能な雇用環境に変えると,男女格差は解消に向かう.裾野の広い女性人材の中から女性登用を推進するジェンダー・ダイバーシティ施策は欠かせない.
第2は,長時間労働を是正し,男女が共に実現できるワーク・ライフ・バランス施策も重要である.時間外労働の上限規制や勤務間インターバル制度など働き方改革関連法の施行と相まって,勤務時間の長さや性別ではなく,契約で定める職務によって賃金が決まる,欧米で一般的な「ジョブ型雇用」が検討課題になる7).必要な知識・スキル・経験,責任と権限,報酬,労働時間や勤務地などかなり明確にできる「職務定義書」(ジョブディスクリプション)は,会社と本人との同意で作成される.社員は労働時間や転勤・異動が無限定に変更されず,自らのキャリア決定権を手にし得る.
この二つの施策が実施されると,女性は,男性とあまり格差のない所得と応分の生涯賃金が可能となり,男性は過重労働から解放され,家事・育児を担う時間が増える.女性活躍で固定的性別役割意識も変わり,男女が共に仕事と生活の両立を実現できることになる.
VI.おわりに
「理想の男女共同参画」は,日本的雇用慣行の改革により実体化する.女性活躍推進に成功している日本企業は,ジェンダー・ダイバーシティ施策とワーク・ライフ・バランス施策とを統合・実施している.会社の雇用慣行の革新は,法律,教育,社会保障も変え,これらに呼応しながら女性医師の活躍も推進されるところとなる.
利益相反:なし
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