日外会誌. 123(1): 74-79, 2022
手術のtips and pitfalls
肺尖部胸壁浸潤肺癌に対する後方アプローチ
聖隷三方原病院 呼吸器センター外科 棚橋 雅幸 |
キーワード
パンコースト肺癌, 肺尖部胸壁浸潤癌, 後方アプローチ, Hook approach
I.はじめに
肺尖部胸壁浸潤肺癌は,鎖骨下動静脈,腕神経叢などの重要臓器が存在する解剖学的に極めて狭い胸郭出口に発生し,胸壁とともに血管など周囲臓器にも容易に浸潤をきたす.手術は狭い術野での操作となるため難度が高い.そのため安全かつ確実に手術を行う上でいかに良好な視野を確保するかが重要である.これまで様々な開胸法の工夫がなされ,腫瘍の局在に応じたアプローチが選択されるようになった.肺尖部正中から後方を占拠する腫瘍(superior sulcus tumor:SST)に対しては後方アプローチ,肺尖部前方を占拠し,鎖骨下動静脈の処理が必要な腫瘍(anterior apical tumor:AAT)に対しては前方アプローチが適している.本稿では後方アプローチについて概説する.
II.後方アプローチ
後方アプローチにおいては胸郭出口の視野を得るため,どのように肩甲骨を移動させるかがポイントとなる.ChardackとShawら1)の高位後側方開胸では,肩甲骨上縁から前腋窩線にいたる切開をおき,肩甲骨を前方へ移動させることにより上部胸椎,第1肋骨,下位腕神経叢の視野が得られる.Niwaら2)3)のフックアプローチでは,前方の皮膚切開を鎖骨中線まで大きく釣り針(hook)型に切り上げることで肩甲骨を前方や頭側へ移動できるようになり,第1肋骨全長が露出可能となる.これにより鎖骨下動静脈,腕神経叢を胸郭内外から確認でき,安全な剥離操作,切除再建が可能となる.これら後方アプローチでは内頸静脈,総頸動脈などの頸部血管の展開が困難なので,頚部血管の処理が必要な場合はTransmanubrial osteomascular sparing approach(TMA)等の前方アプローチを追加する.後方アプローチは横突起,椎弓,椎体に浸潤する肺尖部肺癌に対してよい適応であるが,椎体への浸潤が広範な場合は背部正中切開で患側の椎弓および椎体の切除を行った後に,側臥位で肋骨前方の切断と肺切除を行うアプローチを検討する.
III.周囲臓器合併切除
鎖骨下動静脈に浸潤が認められる場合は,完全切除が可能ならば合併切除すべきである.鎖骨下動脈を切除した場合は端々吻合,もしくは人工血管を用いて再建する.鎖骨下静脈の再建は不要である.椎骨動脈は通常一側を結紮しても問題ないことが多いが,Willis動脈輪が低形成の場合は脳虚血をきたすため,術前にCT angiogram等で評価しておく.腕神経叢下幹はTh1の切除であれば通常運動障害をきたすことはない.C8以上を切除すると上肢の運動障害が生じるので,術前に十分なインフォームドコンセントが必要である.肋骨頭,前縦靭帯,横突起に浸潤が認められる場合は切除経路を考慮して,椎体,椎弓を切除する.胸壁を広範囲切除した場合はePTFEシート等による胸壁再建を行う.
利益相反:なし
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