日外会誌. 123(1): 71-73, 2022
手術のtips and pitfalls
肺尖部胸壁浸潤肺癌に対する前方アプローチ
東北大学 加齢医学研究所呼吸器外科学分野 岡田 克典 , 渡辺 有為 |
キーワード
肺尖部肺癌, 胸壁浸潤, 前方アプローチ, transmanubrial approach
I.はじめに
肺尖部胸壁浸潤肺癌は,superior sulcus tumor(SST),Pancoast腫瘍,apical chest tumorなどと呼ばれ,このうち前方に位置するものは特にanterior apical tumorなどと呼ばれる.肺尖部胸壁浸潤肺癌は,完全切除のために特殊なアプローチを必要とし,椎体浸潤がみられるような場合にはいわゆる後方アプローチが用いられるが,腫瘍が比較的前方に位置する場合,特に鎖骨下動静脈に浸潤するケースに対しては前方アプローチが有用である.古典的には,前方アプローチとして“trap-door thoracotomy”,“hemi-clamshell approach”などと呼ばれるものが用いられてきた.これらは,患者を仰臥位として胸鎖乳突筋の前部に沿う頸部切開(または鎖骨と平行な頸部横切開)+部分的な胸骨縦切開+前側方切開(多くの場合は4肋間開胸)を繋げたコの字切開(左では逆コの字切開)による開胸法で,日本語では,観音開き,オープンドア切開などとも呼ばれる(Masaoka,Korstなど).このアプローチは,肺尖の腫瘍と肺門とを同時に術野に収めることのできる優れたものであるが,鎖骨下動静脈の末梢部すなわち第一肋骨交差部より末梢部が観察しにくい問題がある.これに対して,上記のアプローチに加えて胸腔側から第一肋骨の内側部を離断することで鎖骨下動静脈を視野に収める方法が提唱されている(Nomori,Rusca1)など).一方,Dartevelleらにより,1993年に胸鎖乳突筋を起始部(胸骨・鎖骨付着部)付近で切断し,鎖骨の内側半分を切除する方法(transcervical-thoracic approach:TCA)が提唱され2),さらに1997年にGrunenwaldらにより胸鎖乳突筋と鎖骨を温存するTransmanubrial osteomuscular sparing approach(TMA)が報告された3).TMAでは,胸骨柄をL字(右側の場合は逆L字)に切断するとともに,第一肋骨を前方で切断し,術側の離断された胸骨柄と鎖骨頭とを一塊として頭側・外側へ牽引することでSSTに対する良好な視野確保が可能である.胸腔鏡手術が普及した今日では,TMAによる肺尖部処理に加え胸腔鏡下(または胸腔鏡補助下)に肺門処理を行うことにより比較的低侵襲にSSTに対する手術を行えるようになってきている.本稿では,TMAのtips and pitfallsについて解説する.
利益相反:なし
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