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日外会誌. 121(3): 391-393, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(北海道地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 5.大腸癌治療ガイドライン(2019年版)

旭川医科大学 外科学講座消化管外科学分野

角 泰雄

(2020年1月11日受付)



キーワード
大腸癌, 外科治療, 薬物療法

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I.はじめに
昨年改定された『大腸癌治療ガイドライン2019年版』は,内視鏡治療・外科治療・薬物療法,すべての大腸癌治療に関する領域で変更が加えられている.外科治療領域のなかで特に重要と思われる部分と薬物療法領域について解説する.

II.外科治療領域
(1)腹腔鏡下手術
日本内視鏡外科学会が行っているアンケート調査結果によると,大腸癌に対する腹腔鏡下手術件数の推移は,2006年あたりから急激に増加していて特に進行癌に対する件数が増加している.海外での大規模ランダム化比較試験では,結腸癌・直腸S状部癌に対する腹腔鏡下手術の有用性について開腹手術との比較検討されており,侵襲性や安全性といった短期成績はいずれも腹腔鏡下手術の方が優れており,再発率・生存率では同等という結果であった1).一方,日本ではJCOG0404試験(Stage Ⅱ/Ⅲ大腸癌に対するD3郭清を伴った腹腔鏡下手術 vs. 開腹手術の無作為化比較試験)の結果が公表され,低侵襲性や安全性に関しては腹腔鏡下手術の方が優れていたが,長期成績では非劣性を証明することはできなかった.しかし,両群とも5年生存率が90%を超える結果であり,無再発生存率も同様に80%前後であり,治療選択肢の一つとして位置付けられることになった.しかし,サブグループ解析において,RS・cN2・肥満症例・T4症例などで腹腔鏡下手術の予後に影響を与える傾向にあり,これらを考慮して慎重に適応を決定する必要がある2).直腸癌も多くのランダム化比較試験で対象外であり,直腸癌を対象としたランダム化比較試験は少ないのが現状である.直腸癌に対する海外の代表的な四つの臨床試験のうち,COLOR Ⅱ試験・COREAN試験は生存率・剥離断端陰性率ともに差を認めなかったが,ALaCaRT試験・ACOSOG Z6051試験では,外科剝離面陽性率は腹腔鏡下手術群で高率であった3)8).局所進行癌や肥満症例,癒着症例など腹腔鏡下操作が難しい症例や腫瘍学的に播種を起こさせる危険のあるものには,十分に注意する必要がある.
(2)側方リンパ節郭清
2019年版ではJCOG0212試験(Stage Ⅱ/Ⅲの下部直腸癌への直腸間膜切除術±側方リンパ節郭清の無作為化比較試験)の結果を受けて記載の変更が行われている.主要評価項目であるRelaps-free survivalにおいて非劣性は証明できなかったが,副次的評価項目である全生存率,無局所再発生存率のいずれにも有意差はなく,側方郭清の生存改善効果は限定的であることも示唆された9).また,骨盤側方部の再発率がTME単独群で優位に高いという結果から,局所制御の観点から側方領域に腫大したリンパ節が存在しない症例においても側方郭清を一律に省略することは推奨されず,局所制御や生存改善に関して側方郭清に期待される効果の程度を認識し,手術リスク・術後機能障害とのバランスを総合的に考慮して適応を決定すべきとの記載になっている.課題としては,側方リンパ節転移の術前診断の精度や診断基準の確立に至っていないという点が挙げられる.
(3)括約筋間直腸切除術
今回の改定では,『T2/3では2cm以上・T1では1cm以上の肛門側断端の確保と,低分化型は除外』と具体的な記述となっており,括約筋のトーヌスが落ちている症例も適応からの除外が望ましいとの記載も加えられている.海外の14論文のsystematic reviewでは,縫合不全発生率9.1%,R0切除率97.0%,局所再発率6.7%であり,許容される結果であると報告されている10).しかし,大腸癌研究会のアンケート調査による2,125例の検討では,5年生存率は大腸癌全国登録の下部直腸癌症例と同等であったが,5年局所再発率(吻合部再発含む)は11.5%と比較的高率であった.また,明らかに壁深達度が深くなるにつれ局所再発率は高くなるため(T1で4.2%,T2で8.5%,T3で18.1%,T4で36.0%),適応の判断には精度の高い術前深達度診断が重要である11).ガイドライン上も強調されていることは,外科剥離面の確保が重要であり,挙筋浸潤の有無の診断が非常に重要であるという点である.

III.薬物療法領域(切除不能再発大腸癌に対する薬物療法)
今回の改訂で,適応となる(fit)・適応に問題がある(vulnerable)・適応とならない(frail)の三つに分けられた.また一次治療開始前にRAS遺伝子とBRAF遺伝子検査の実施が記載され,左右の部位と抗EGFR抗体薬に関する記載も追加された.治療アルゴリズムをみてみると,fitの患者に関しては,一次治療の基本は抗VGFR抗体が中心で,抗EGFR抗体の使用はRAS/BRAF野生型の左側に有用ということになった.2次治療の選択では,一次治療でオキサリプラチンを使用した場合,2次治療ではIRI+BEV,AFL,RAMなど様々であるが,イリノテカンベースの場合は,実はシンプルで2次治療はオキサリプラチンに変更というアルゴリズムになっている.

IV.おわりに
直腸癌治療において二つの大規模な前向きの臨床試験の結果が出たことによって,ガイドライン上においてある程度明確な指針が示されてきたと考える.
この講演内容は,2020年1月11日に開催した第27回日本外科学会生涯教育セミナー(北海道地区)の記録で,北海道外科雑誌にも掲載している.

 
利益相反:なし

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文献
1) Kuhry E, Schuwenk WF, Gaupset R, et al.: Long-term results of laparoscopic colorectal cancer resection. Cochrane Database Syst Rev, 2:
CD003432, 2008.
2) Kitano S, Inomata M, Mizusawa J, et al.: Survival outcomes following laparoscopic versus open D3 dissection for stage II or III colon cancer (JCOG0404):a phase 3, randomized controlled trial. Lancet Gastroenterol Hepatol, 35: 261-268, 2017.
3) Kang SH, Park JW, Jeong SY, et al.: Open vs laparoscopic surgery for mid or low rectal cancer after neoadjuvant chemoradiotherapy (COREAN trial):short-term outcomes of an open-label randomized controlled trial. Lancet Oncol, 11: 637-645, 2010.
4) Jeong SY, Park JW, Nam BH, et al.: Open vs laparoscopic surgery for mid or low rectal cancer after neoadjuvant chemoradiotherapy (COREAN trial):survival outcomes of an open-label, non-inferiority, randomized controlled trial. Lancet Oncol, 15: 767-774, 2014.
5) Van der Pas MH, Haglind E, Cuesta MA, et al.:
COlorectal cancer Laparoscopic or Open Resection II (COLOR II) Study Group:Laparoscopic versus open surgery for rectal cancer (COLOR II):short-term outcomes of a randomized, phase 3 trial. Lancet Oncol, 14: 210-218, 2013.
6) Bonjer HJ, Deijen CL, Abis GA, et al.: COLOR II Study Group:A randomized trial of laparoscopic versus open surgery. N Engl J Med, 372: 1324-1332, 2015.
7) Stevenson AR, Solomon MJ, Lumley JW, et al.: ALaCaRT Investigators:Effect of laparoscopic-assisted resection vs open resection on pathological outcomes in rectal cancer. JAMA, 314: 1356-1363, 2015.
8) Fleshman J, Branda M, Sargent DJ, et al.: Effect of laparoscopic-assisted resection vs open resection of stage II or III rectal cancer on pathologic outcomes:The ACOSOG Z6051 randomized clinical trial. JAMA, 314: 1346-1355, 2015.
9) Fujita S, Mizusawa J, Kanemitsu Y, et al.: Colorectal Cancer Study Group of Japan Clinical Oncology Group: Mesorectal excision with or without lateral lymph node dissection for clinical stage II/III lower rectal cancer (JCOG0212):a multicenter, randomized controlled, noninferiority trial. Ann Surg, 266: 201-207, 2017.
10) Martin ST, Hanegham HM, Winter DC: Systematic review of outcomes after intersphincteric resection for low rectal cancer. Br J Surg, 99: 603-612, 2012.
11) 山田 一隆,緒方 俊二,佐伯 泰愼,他:「第84回大腸癌研究会アンケート調査報告」括約筋間直腸切除術(ISR)の適応と長期成績.大腸疾患NOW2017-2018,メディカルセンター,東京,pp125-130, 2017.

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