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日外会誌. 121(3): 375-376, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(近畿地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 3.大腸癌―診療ガイドラインのポイント―

熊本大学大学院 消化器外科学

馬場 秀夫

(2019年9月28日受付)



キーワード
Colorectal cancer, ESD, Surgery, Adjuvant therapy, Chemotherapy

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I.はじめに
日本の大腸癌罹患数,および死亡数は増加している.また,大腸癌の診断,治療は日々めざましく進歩すると同時に,多様化,複雑化しており,大腸癌治療ガイドラインに基づいた大腸癌診療の標準化が重要になっている.

II.内視鏡治療,手術治療,補助療法
内視鏡治療には,EMR,分割EMR,ESDがあるが,ガイドライン2019年版では最大径2cm以上の癌を疑う病変に対して,「しかるべき技量をもった内視鏡医によるESD(一括切除)を強く推奨する」と記載された(CQ2).
大腸癌に対する腹腔鏡手術に関しては,「大腸癌手術の選択肢の1つとして行うことを弱く推奨する.ただし,横行結腸癌および直腸癌に対する腹腔鏡手術の有用性は十分に確立されていない」とされている(CQ4).直腸癌に対する腹腔鏡手術の切除成功率が開腹手術に劣る可能性を報告していたALaCaRT試験,ACOSOG Z6051試験の長期成績が相次いで報告され,予後に有意差は認めなかったことから,直腸癌に対する腹腔鏡手術は許容されると考えられる1)2).2018年に保険適応となったロボット支援下直腸手術は,RCTで腹腔鏡手術と同等の手術成績が報告されており3),今後も急速に増加していくと考えられるが,安全性の担保と長期予後の検討が必要である.
直腸癌に対する側方郭清に関しては,JCOG0212試験の結果を受け,術前側方リンパ節転移陽性例に対する側方郭清を強く推奨し,術前転移陰性例に対する予防郭清を弱く推奨している(CQ5).切除不能な遠隔転移を有する症例に原発巣切除は推奨されるかというCQに対して,今回のガイドラインでは原発巣が有症状で過大侵襲とならない範囲であれば原発巣切除後の全身療法を強く推奨している(CQ6).JCOG1007試験は,治癒切除不能進行大腸癌に対する原発巣切除の意義を検証するRCTであるが,中間解析の結果,原発巣切除群の優越性が示される可能性は低く,切除群の治療関連死を認め高リスクと考えられたことから試験中止となった.今後,無症状のstageⅣ大腸癌に対する原発巣切除は推奨されない.
大腸癌術後補助化学療法の治療期間に関しては,標準治療として6カ月投与が推奨されると同時に,IDEA試験の結果4)より,再発低リスクの結腸癌にはCAPOX療法を3カ月行うことを弱く推奨された(CQ16).
大腸癌肝転移に対する腹腔鏡手術の有効性に関しては,十分なエビデンスがなく,標準術式ではないとされている(CQ12)が,ASCO2019ではOSLO-COMET試験の結果,術後短期成績は腹腔鏡肝切除が優れ,予後は同等であると報告された.また,遠隔転移切除後の補助化学療法に関しては,今回のガイドラインから肝肺転移の治癒切除後補助化学療法を弱く推奨された(CQ19).現在,大腸癌肝転移切除後のmFOLFOX6による補助療法の有効性を検証するJCOG0603試験が進行中である.

III.切除不能大腸癌に対する薬物療法
今回のガイドラインから,「一次治療の方針を決定する際のプロセス」として,薬物療法の適応可否の決定からRAS/BRAF遺伝子変異の有無,原発巣占拠部位による治療方針決定の流れが図で示された.さらにそこから「切除不能進行再発大腸癌に対する薬物療法のアルゴリズム」として,1次治療から4次あるいは5次治療までのレジメンが横並びで記載されている.その中で,RAS変異型あるいはBRAF変異型切除不能大腸癌に対する一次治療としてTriplet+Bmab療法の有用性が期待される.ASCO2019で報告されたTRIBE2試験では,一次治療としてFOLFOXIRI+Bmab療法と維持療法を行い,PD後にFOLFOXIRI+Bmab療法を再導入するという治療を,FOLFOX+Bmab療法でPD後にFOLFIRI+Bmab療法を行う従来のdoublet治療と比較し,tripletによるPFSとOSの有意な延長を示した.
大腸癌に対する免疫チェックポイント阻害薬に関しては,「MSI-H切除不能大腸癌既治療例に,抗PD-1抗体薬療法を行うことを強く推奨する」とされた(CQ23).CheckMate142試験では,MSI-H切除不能大腸癌に対するNivolumab療法またはNivolumab+Ipilimumab療法の有効性が示された5)6).最近では,放射線治療と抗PD-1抗体薬療法を組み合わせてより高い治療効果を狙う新たな治療戦略の有用性も検証されている(Voltage trial).

IV.おわりに
大腸癌診療ガイドラインのポイントを概説した.多様化する大腸癌治療の道しるべとしてガイドラインを役立てつつ,日々構築される最新のエビデンスを踏まえ,ガイドラインからさらに1歩進んだ大腸癌治療を目指すことが重要である.

 
利益相反
講演料など:日本イーライリリー株式会社,大鵬薬品工業株式会社,中外製薬株式会社
研究費:小野薬品工業株式会社,メルクセローノ株式会社,株式会社リニカル,MSD株式会社
奨学(奨励)寄附金:メルクセローノ株式会社,大鵬薬品工業株式会社,株式会社新日本科学,富山化学工業株式会社,ノバルティス ファーマ株式会社,株式会社ヤクルト本社,ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,株式会社馬場薬局,中外製薬株式会社

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文献
1) Fleshman J, Branda ME, Sargent DJ, et al.: Disease-free Survival and Local Recurrence for Laparoscopic Resection Compared With Open Resection of Stage II to III Rectal Cancer:Follow-up Results of the ACOSOG Z6051 Randomized Controlled Trial. Ann Surg, 269: 589-595, 2019.
2) Stevenson ARL, Solomon MJ, Brown CSB, et al.: Disease-free Survival and Local Recurrence After Laparoscopic-assisted Resection or Open Resection for Rectal Cancer:The Australasian Laparoscopic Cancer of the Rectum Randomized Clinical Trial. Ann Surg, 269: 596-602, 2019.
3) Jayne D, Pigazzi A, Marshall H, et al.: Effect of Robotic-Assisted vs Conventional Laparoscopic Surgery on Risk of Conversion to Open Laparotomy Among Patients Undergoing Resection for Rectal Cancer:The ROLARR Randomized Clinical Trial. JAMA, 318:1569-1580, 2017.
4) Grothey A, Sobrero AF, Shields AF, et al.: Duration of Adjuvant Chemotherapy for Stage III Colon Cancer. N Engl J Med, 378: 1177-1188, 2018.
5) Overman MJ, Lonardi S, Wong KYM, et al.: Durable Clinical Benefit With Nivolumab Plus Ipilimumab in DNA Mismatch Repair-Deficient/Microsatellite Instability-High Metastatic Colorectal Cancer. J Clin Oncol, 36: 773-779, 2018.
6) Overman MJ, McDermott R, Leach JL, et al.: Nivolumab in patients with metastatic DNA mismatch repair-deficient or microsatellite instability-high colorectal cancer (CheckMate 142):an open-label, multicentre, phase 2 study. Lancet Oncol, 18: 1182-1191, 2017.

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