日外会誌. 121(3): 372-374, 2020
生涯教育セミナー記録
2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(近畿地区)
各分野のガイドラインを紐解く
2.肺癌―肺癌診療ガイドライン2018―
和歌山県立医科大学 内科学第三講座 山本 信之 (2019年9月28日受付) |
キーワード
lung cancer, guideline, driver mutation, cancer gene panel test, immune checkpoint inhibitor
I.はじめに
わが国の2017年人口動態統計の癌死亡の内訳をみると,第1位 肺癌,第2位 直腸・大腸癌,第3位 胃癌,であり,10万人対の死亡率は,それぞれ59.1,40.1,36.4と肺癌での死亡率が圧倒的に高く,わが国では年間約74,000人が肺癌で死亡していることになる.肺癌死亡率の高い原因は,転移をきたしやすいこと,早期発見が困難であることなど,が考えられている.そのため,局所治療のみでは治癒に至る症例が限られており,手術,胸部放射線が基本的治療となる状況でも,多くの場合で薬物療法を併用することが標準的治療とされている.肺癌の治療方針は,全体の約15%を占める小細胞肺癌と,その他の腺癌,扁平上皮癌等を総称した非小細胞肺癌に分けて検討されるが,本稿では,新規薬物療法に対するエビデンスが毎年のように示されている非小細胞肺癌の薬物療法について解説する.
II.非小細胞肺癌の治療概略とガイドライン
表1に非小細胞肺癌の治療概略を示す.StageⅠ~Ⅲで切除可能な場合は,最も早期のT1AN0M0を除いて,術後もしくは術前に薬物療法を実施することが推奨されている.StageⅢで切除不能かつ根治的胸部放射線治療可能の場合は,薬物療法と胸部放射線の同時併用療法が,StageⅢで手術および根治的胸部放射線治療が不能の場合,StageⅣでは,薬物療法が標準的治療として確立されている.
肺癌診療ガイドラインは,日本肺癌学会が作成し,冊子およびホームページ上で公開されている1).薬物療法の領域では,ここ数年半年に1回程度の改訂が行われている.
非小細胞肺癌に対する薬物療法は,1980年代にプラチナ併用療法が標準的治療として確立され,2000年代に入り,ドライバー変異をターゲットとした分子標的治療薬が登場し,特定の患者集団に対する奏効率,無増悪生存期間等が大きく改善した.その後,2015年に免疫チェックポイント阻害剤が非小細胞肺癌に対して承認され,現在に至っている.
III.StageⅣ非小細胞肺癌に対する薬物療法の選択
StageⅣについては,バイオマーカーに応じて薬物の選択が細かく規定されている.StageⅣ非小細胞肺癌の1st lineの治療方針を決定するにあたっては,各種ドライバー変異および腫瘍のPD-L1発現を検索することが推奨されている(図1).ドライバー変異としては,EGFR,ALK,ROS-1,BRAFの4種類を測定し,陽性であればそれに応じたキナーゼ阻害薬が標準的治療として選択される.2019年6月にはNTRK阻害剤がわが国で承認され,NTRKも測定すべきバイオマーカーに加わるものと思われる.測定すべきバイオマーカーは今後さらに増えることが予想されるが,これら複数のバイオマーカーを同時に測定するための遺伝子パネル検査が2020年6月にわが国でも保険償還された.ただし,その使用に当たってはいくつかの制限が加わっているため注意が必要である.
ドライバー変異が陰性の場合には,腫瘍のPD-L1発現の程度で標準的治療が決定される.PD-L1≧50%の場合は,PD-1阻害剤であるペムブロリズマブが標準的治療となる.PD-L1<50%の場合は,これまではプラチナ併用療法が標準的治療であったが,2018年になり,標準的治療は,殺細胞性抗癌薬とPD-1/PD-L1阻害薬の併用療法に変更となった.PD-L1≧50%にもこの併用療法が選択肢の一つとして加わっており,推奨される標準的治療法に占める免疫チェックポイント阻害剤の割合が高くなってきている傾向にある.
IV.おわりに
非小細胞肺癌の薬物療法は急速に進歩している.免疫チェックポイント阻害剤はstageⅣの非小細胞肺癌に対する薬物療法として導入されたが,今や,stageⅢにも拡大され,小細胞肺癌に対しても標準的治療に含まれる可能性が高い.また,腫瘍量の少ないほうがより効果の高くなることが予想されるため,術前,術後にも導入される可能性が高い.また,ドライバー変異をターゲットとする薬剤も来年さらに数種類承認されることが予想されている.ここしばらくは,急速な標準的治療の変化に遅滞なくついていくことが必要とされる.
利益相反
講演料など:アストラゼネカ株式会社,小野薬品工業株式会社,中外製薬株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社,日本イーライリリー株式会社,MSD株式会社
研究費:中外製薬株式会社,アストラゼネカ株式会社,ブリストル・マイヤーズスクイブ株式会社,クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン株式会社,小野薬品工業株式会社,日本イーライリリー株式会社,アステラス製薬株式会社,エイツーヘルスケア株式会社,大鵬薬品工業株式会社,株式会社新日本科学PPD,シミック・シフトゼロ株式会社,MSD株式会社,ファイザー株式会社,IQVIAソリューションズジャパン株式会社,テルモ株式会社,凸版印刷株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
奨学(奨励)寄附金:大鵬薬品工業株式会社,中外製薬株式会社,小野薬品工業株式会社,日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社,第一三共株式会社,ファイザー株式会社
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