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日外会誌. 121(3): 356-358, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(関東地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 2.肝癌診療ガイドライン

1) 東京大学大学院 医学系研究科臓器病態外科学肝胆膵外科
2) 国立国際医療研究センター病院 肝胆膵外科
3) 国立国際医療研究センター理事長 

長谷川 潔1) , 竹村 信行2) , 國土 典宏3)

(2019年9月21日受付)



キーワード
肝癌診療ガイドライン, GRADEシステム, Evidence Based Medicine, 治療アルゴリズム, 原発性肝癌

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I.はじめに
肝癌診療ガイドラインは厚生労働省診療ガイドライン支援事業のサポートを受け,2005年に初版が「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン作成に関する研究班(班長 幕内雅敏)」の成果として刊行された1).その後,日本肝臓学会のサポートのもと,第2版が2009年に,第3版が2013年に改訂された.肝癌診療ガイドラインはEvidence Based Medicine(EBM)の手法で策定され,ガイドラインの中心とも言える「治療アルゴリズム」は簡潔で使いやすいことが重視されていた.一方,内科的治療の実情をより反映したいわゆる「コンセンサスに基づく治療アルゴリズム」が2007年に発表され,本ガイドラインの治療アルゴリズムとともに日本肝臓学会編集の『肝癌診療マニュアル第3版』2)に掲載されていた.二つの治療アルゴリズムの基本構造は類似していたが,肝癌診療ガイドラインのアルゴリズムが簡便で客観的に妥当性が高い知見をもとに作成されていたのに対し,コンセンサスに基づく治療アルゴリズムは推奨の根拠はやや乏しいものの多様な実臨床を反映したやや複雑なものであった.2017年版(第4版)3)の改訂における大きな特徴は,統一されたあらたなアルゴリズムが作成されたことである.

II.第4版(2017年版)の改訂の基本方針
本改訂においてEBMの理念に基づく基本方針は踏襲されつつ,エビデンス一辺倒でなくその質と推奨の強さを評価する国際的な基準であるGRADEシステムの考え方・方式を一部取り入れ,ガイドラインの理念・目的・対象などを明確化し,改訂委員会における議論内容も本文に反映させた.患者や社会の実情等も考慮し,先進的な治療のみを対象にはせず,一般医師から肝臓専門医までを対象とした標準的な治療が推奨された.

III.診断およびサーベイランス
定期的な肝細胞癌に対するスクリーニングが早期発見,根治療法につながり,予後を改善する可能性があるという考えのもと,超高危険群に3~4カ月毎の腹部超音波検査と腫瘍マーカーの測定に加え,6~12カ月毎のdynamic CT/MRIがオプションとして推奨され,高危険群には6カ月毎の腹部超音波検査と腫瘍マーカーの測定が推奨される.超高危険群がB型・C型肝硬変,肝細胞癌の治療後であり,高危険群はB型・C型慢性肝炎,肝硬変である.非典型的な多血病変は1cm以上からの精査が望ましいとされ,腫瘍マーカーに関しては,AFP,PIVKA-Ⅱ,AFP-L3のうち2種以上の測定が推奨される.

IV.治療アルゴリズム
「コンセンサスに基づく治療アルゴリズム」と一本化することを目的に,肝予備能,肝外転移,脈管侵襲,腫瘍数,腫瘍径の5因子に基づいて推奨治療が選択される.治療の選択肢は最大で四つまで推奨され,肝予備能の指標としてはChild-Pugh分類が用いられた(図1).簡便さは多少損なわれるがアルゴリズムの適用となる範囲が広がった.
単発肝細胞癌に対しては腫瘍径にかかわらず第一選択は肝切除が,3cm以内は第二選択として焼灼療法,2個,3個の肝細胞癌に対しては腫瘍径3cm以内なら肝切除または焼灼療法,3cm超は第一選択として肝切除,第二選択として塞栓療法,4個以上の肝細胞癌に対しての第一選択は塞栓療法,第二選択は肝動注化学療法または分子標的治療薬が推奨される.Child-Pugh分類Cの肝細胞癌に対してはミラノ基準内で65歳以下であれば肝移植が推奨,肝外転移を伴う肝細胞癌には分子標的薬が推奨され,肝内病変がコントロールされている場合の局所療法の可能性について記載された.脈管侵襲陽性肝細胞癌に対しては,議論がわかれ,肝切除の成績,Vp4肝細胞癌に対するTACEのリスク,日常診療における肝動注化学療法,分子標的治療薬の実施頻度を考慮し,四つの治療法が並列に推奨されることとなった.

図01

V.その他の章
発癌予防においてはHBV-DNA陽性B型慢性肝炎・肝硬変の発癌予防には核酸アナログ製剤が,C型慢性肝炎・代償性肝硬変の発癌予防にはHCV排除を目的とした抗ウイルス療法が推奨される.手術適応は他の局所治療と同じく3個とされ,腹腔鏡下肝切除の適応に肝前下領域末梢の5㎝以下の単発腫瘍が推奨された.穿刺療法はChild-PughAないしBの3㎝以下3個以下の腫瘍,肝動脈(化学)塞栓療法は4個以上,Child-PughAないしBでBCLC StageB(intermediate stage)の手術不能かつ穿刺局所療法の対象とならない多血性肝細胞癌が推奨される.塞栓療法不応と分子標的治療薬の併用にはエビデンスが無いとされた.薬物療法は肝切除,肝移植,局所療法,TACEが適応とならない進行肝細胞癌でPS,肝予備能が良好なChild-Pugh分類Aの症例に一時治療としてソラフェニブないしレンバチニブが,二次治療にレゴラフェニブが推奨される.放射線治療は他の局所療法の適応困難な肝細胞癌や局所治療後の再発症例に推奨される.

VI.おわりに
今後,重要な知見が得られた場合に日本肝臓学会のホームページで逐次部分改訂される予定である.既に新規肝移植適応基準(5-5-500基準:遠隔転移や脈管侵襲を認めない最大腫瘍径5㎝以下,腫瘍数5個以内かつAFP値500ng/mL以下の症例)4)ならびにAFP≥400ng/mlを示す切除不能肝細胞癌の二次治療としてのラムシルマブの推奨5)が追記される準備が進んでいる.

 
利益相反
講演料など:バイエル薬品株式会社,MSD株式会社
研究費:株式会社島津製作所
奨学(奨励)寄附金:バイエル薬品株式会社,中外製薬株式会社,大鵬薬品工業株式会社,エーザイ株式会社,アッヴィ合同会社,武田薬品工業株式会社,MSD株式会社,株式会社ヤクルト本社,ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社

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文献
1) 科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン作成に関する研究班編:科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン(2005年版).金原出版,東京,2005.
2) 日本肝臓学会編:肝癌診療マニュアル第3版.医学書院,東京,2013.
3) 一般社団法人日本肝臓学会編:肝癌診療ガイドライン(2017年版).金原出版,東京,2017.
4) Shimamura T, Akamatsu N, Fujiyoshi M, et al.:
Japanese Liver Transplantation Society. Expanded living-donor liver transplantation criteria for patients with hepatocellular carcinoma based on the Japanese nationwide survey:the 5-5-500 rule - a retrospective study. Transpl Int, 32: 356-358, 2019.
5) Zhu AX, Kang YK, Yen CJ, et al.: Ramucirumab after sorafenib in patients with advanced hepatocellular carcinoma and increased α-fetoprotein concentrations (REACH-2):a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol, 20: 282-296, 2019.

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