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日外会誌. 121(3): 353-355, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(関東地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 1.食道癌治療のup to date,最新の治療アルゴリズム

千葉大学大学院 医学研究院先端応用外科学

村上 健太郎 , 松原 久裕

(2019年9月21日受付)



キーワード
食道癌, 拡大内視鏡分類, 化学放射線療法, 胸腔鏡下食道切除術, 免疫チェックポイント阻害薬

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I.はじめに
2017年6月に,5年ぶりに食道癌診療ガイドラインが改訂された.この食道癌診療ガイドライン(第4版)をベースとして,各ステージにおける食道癌治療の現状について概説する.

II.ステージ別治療戦略
1)cStage0
cStage0の治療戦略に関して大きな変更点はない.進歩がみられるのは診断である.治療方針決定にあたっては壁深達度の評価が重要になるが,2011年に微小血管に着目した日本食道学会 拡大内視鏡分類が発表された1).これは,食道扁平上皮における基本的な血管構造である乳頭内血管(intra papillary capillary loops;IPCL)に注目し,この形態学的変化から食道表在癌の深達度診断を行うものである.2017年に,この分類による深達度の正診率を調査した前向き研究の結果が報告された2).B1・B2・B3血管とも,正診率が90%以上という非常に良好な結果であり,臨床での使用にあたり十分に高い精度と考えられた.ただB2血管に関しては形態学的な幅が広く,陽性的中率75%とその定義に議論の余地があるとされている.
2)cStageⅠ
cStageⅠは,癌腫が粘膜下層にとどまりリンパ節転移を伴わないステージである.このステージには,耐術能を有する症例に対し「選択すべきは手術なのか,化学放射線療法なのか」というクリニカルクエスチョンがある.これまでcStageⅠ食道癌に対してはリンパ節郭清を伴う食道切除術が標準治療という認識が一般的であったが,近年,より低侵襲と考えられる化学放射線療法が食道切除術と同等の有効性を示す可能性が示唆された3).このため,臨床病期Ⅰ食道癌に対する食道切除術と化学放射線療法を比較した非劣性試験(JCOG0502)が計画され,2019年1月のGastrointestinal Cancers Symposium(ASCO GI 2019)にて結果が公表された4).本研究では無作為化部分の症例集積が不十分だったため終了し,非無作為部分のみのデータが解析された.食道切除術と化学放射線療法はどちらも有効性と許容される安全性を示した.主要評価項目である全生存期間において,標準治療である食道切除術に対し化学放射線療法の非劣性が証明され(調整済みハザード比 1.05[95%CI:0.67~1.64]),化学放射線療法はcStageⅠ食道扁平上皮癌に対する治療選択肢の一つと考えられた.
3)cStageⅡⅢ
cStageⅡⅢ食道癌に対しても同様に,「化学放射線療法は手術の代替治療になりうるか」というクリニカルクエスチョンがある.2018年のASCO GIにて,cStageⅡⅢ食道癌に対する根治的化学放射線療法+/-救済治療の効果を検証した単群試験(JCOG0909)の結果が公表された5).3年全生存割合 74.2%[90%CI:65.9~80.8%]という結果であり,単純な比較はできないがJCOG9907の術前CF 2コース+手術群と比べても良好な結果であった.今後,根治的化学放射線療法(50.4Gy)+救済治療が治療選択肢の一つになっていく可能性が考えられた.
手術手技に関しては,胸腔鏡下食道切除術と開胸食道切除術の優劣を検証する複数の試験が行われている.まずオランダからの第Ⅲ相試験であるTIME trialの短期成績が公表された6).肺感染症は,胸腔鏡+腹腔鏡群において有意に低く抑えられていた.本試験は追加の論文で長期成績も報告されているが,3年全生存および無再発生存において両群間に有意差を認めなかった7).本邦では2015年5月に胸腔鏡下手術と開胸手術のランダム化比較第Ⅲ相試験の症例登録が開始された8).本試験は主要評価項目を全生存期間とした国際的にも大変注目されている試験であり,結果が期待される.
4)cStageⅣ
ここでは免疫治療について触れる.近年副シグナルの重要性が認識されているが,複数の抗PD-1抗体薬に関する臨床試験が行われている.最初に標準治療無効症例を対象とした二つの試験結果が公表された.ニボルマブの国内第Ⅱ相試験であるATTRACTION-1試験と,PD-L1陽性固形癌を対象としたペンブロリズマブの後期第Ⅰ相試験であるKEYNOTE-028試験において,いずれも約半数の症例で抗腫瘍効果が認められ,奏効例は比較的長期間縮小が維持されることが示された9)10).続いてCF(CDDP+5-FU)療法に不応または不耐の食道癌を対象として,ニボルマブの有効性および安全性をタキサン系薬剤と比較する第Ⅲ相試験(ATTRACTION-3)が行われ,ニボルマブ群が化学療法群(ドセタキセルまたはパクリタキセル)に対して全生存期間の有意な改善を示した11).ペンブロリズマブも同様に,1次治療無効症例を対象とした第Ⅲ相試験(KEYNOTE-181)が行われ,PD-L1発現群および扁平上皮癌群では全生存期間の有意な改善が示された12).現在,これら抗PD-1抗体薬の食道癌に対する保険収載が待たれるところである.

III.おわりに
以上,食道癌治療について概説した.食道癌治療は多岐にわたり,それぞれの治療法が日進月歩で発展している.丁寧にエビデンスを追い,それらを基に個々の症例に対する治療戦略を構築することが求められる.

 
利益相反:なし

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文献
1) Oyama T, Monma K: Summaries from the 65th Annual Meeting of the Japan Esophageal Society on September 26, 2011, Sendai. Esophagus, 8: 247-251, 2011.
2) Oyama T, Inoue H, Arima M, et al.: Prediction of the invasion depth of superficial squamous cell carcinoma based on microvessel morphology:
magnifying endoscopic classification of the Japan Esophageal Society. Esophagus, 14: 105-112, 2017.
3) Kato H, Sato A, Fukuda H, et al.: A phase II trial of chemoradiotherapy for stage I esophageal squamous cell carcinoma:Japan Clinical Oncology Group Study (JCOG9708). Jpn J Clin Oncol, 39: 638-643, 2009.
4) Kato K, Igaki H, Ito Y, et al.: Parallel-group controlled trial of esophagectomy versus chemoradiotherapy in patients with clinical stage I esophageal carcinoma (JCOG0502). J Clin Oncol, 37 suppl, 2019.
5) Ito Y, Takeuchi H, Ogawa G, et al.: A single-arm confirmatory study of definitive chemoradiotherapy (dCRT) including salvage treatment in patients (pts) with clinical (c) stage II/III esophageal carcinoma (EC) (JCOG0909). J Clin Oncol, 36 suppl, 2018.
6) Biere SS, van Berge Henegouwen MI, Maas KW, et al.: Minimally invasive versus open oesophagectomy for patients with oesophageal cancer:a multicentre, open-label, randomised controlled trial. Lancet, 379:1887-1892, 2012.
7) Straatman J, van der Wielen N, Cuesta MA, et al.: Minimally Invasive Versus Open Esophageal Resection:Three-year Follow-up of the Previously Reported Randomized Controlled Trial:the TIME Trial. Ann Surg, 266: 232-236, 2017.
8) Kataoka K, Takeuchi H, Mizusawa J, et al.: A randomized Phase III trial of thoracoscopic versus open esophagectomy for thoracic esophageal cancer:Japan Clinical Oncology Group Study JCOG1409. Jpn J Clin Oncol, 46: 174-177, 2016.
9) Kudo T, Hamamoto Y, Kato K, et al.: Nivolumab treatment for oesophageal squamous-cell carcinoma:an open-label, multicentre, phase 2 trial. Lancet Oncol, 18: 631-639, 2017.
10) Doi T, Piha-Paul SA, Jalal SI, et al.: Safety and Antitumor Activity of the Anti-Programmed Death-1 Antibody Pembrolizumab in Patients With Advanced Esophageal Carcinoma. J Clin Oncol, 36: 61-67, 2018.
11) Kato K, Cho BC, Takahashi M, et al.: Nivolumab versus chemotherapy in patients with advanced oesophageal squamous cell carcinoma refractory or intolerant to previous chemotherapy (ATTRACTION-3):a multicentre, randomised, open-label, phase 3 trial. Lancet Oncol, 20: 1506-1517, 2019.
12) Kojima T, Muro K, Francois E, et al.: Pembrolizumab versus chemotherapy as second-line therapy for advanced esophageal cancer: Phase III KEYNOTE-181 study. J Clin Oncol, 37 suppl, 2019.

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