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日外会誌. 121(3): 359-361, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(関東地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 3.膵癌診療ガイドライン

横浜市立大学 消化器・腫瘍外科学

遠藤 格

(2019年9月21日受付)



キーワード
pancreatic cancer, guidelines, neoadjuvant chemotherapy, arterial resection

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I.はじめに
膵癌は全世界的に増加傾向を示しており,その死亡者数は右肩上がりである.国立がん研究センターのがん情報サービスによると2016年の膵癌による死亡者数は約3万3千人と報告されている.癌種別の死亡順位は男性では5位,女性では3位となっている.切除のみが長期生存を期待できる治療法とされてきたが,2000年までは有効な補助療法がなく,切除単独の5年生存率は13%と治療成績は不良であった1).しかし2000年代に入り補助化学療法が急速に進歩し,治療成績は改善しつつある.

II.膵癌診療ガイドラインのあゆみ
治療法が改善し長期生存例が増加するにつれ症例の蓄積が進み,診断,治療に関する様々なクリニカルクエスチョン(CQ)が生まれ,ベストプラクティスを均霑化する必要性が高まった.膵癌診療ガイドラインは初版が2006年に出版され,4回の改訂をへて,2019年に第5版が出版された2).第1版が100ページ,第2版が151ページ,第3版が178ページ,第4版が257ページ,第5版が309ページ,と版を重ねるごとに内容が増加している.
最近,3回の主な改訂点を列挙した(表1).2013年,2016年の改訂でとりわけ重要な点としては,切除可能性分類が導入され,Borderline resectableの概念とそれに対する術前治療が広く浸透したことが挙げられる.2013年では本邦発のエビデンスであるJASPAC01試験によってS-1による術後補助化学療法が標準治療となったことも大きな変化である.一方,化学療法の進歩によって切除不能でも長期生存例が増えるにしたがって支持療法(ステント療法,緩和部門)が新設された.術前・術後の補助療法で膵癌の切除成績は向上し,従来であれば臨床的意義が乏しかった膵癌に対する動脈合併切除や腹腔鏡下膵切除もその意義が認められ,CQとして取り上げられるようになった.また,コラムとして,『膵癌に対する粒子線治療』,『臨床試験の必要性』や『患者支援団体』などが取り上げられたことも診療ガイドラインが社会的にも大きな役割を担うことを求められていることの証左であろう.

表01

III.今回の主な改訂点
切除可能膵癌に対する術前治療は推奨されるか,というCQに対して,ガイドライン作成時には,切除可能膵癌に対する術前補助療法を行うべきか否かは明らかではない,とされた.しかし,その後にPrep02/JSAP05 Phase Ⅲ試験の結果が報告され,手術先行群の平均生存期間が 26.7カ月であったのに対して,術前治療群の平均生存期間は36.7カ月と,有意に生存期間が延長することが明らかとなった3).この結果をもって,切除可能膵癌に対する術前補助療法としてゲムシタビン塩酸塩+S-1併用療法を行うことを提案すると改訂された.今後はある程度のPatient selectionのうえで標準治療になるのではないかと推測される.
腹腔鏡下膵切除は推奨されるか,というCQに対して,メタ解析によって腹腔鏡下膵体尾部切除は開腹膵体尾部切除と比較して,術後短期死亡率,重篤術後合併症,術後膵液瘻発生率,再発率に差は認めなかったが,平均在院日数は腹腔鏡下で有意に短かったため,提案する,とされた.一方,膵頭十二指腸切除の適応のある浸潤性膵管癌に対して,腹腔鏡下膵頭十二指腸切除は推奨されるか,という問いには,本邦では実施症例も少なく,保険適応になっていない点を考慮すべきであり,当面は臨床研究として行われるべきで実臨床では行わないことが提案された.今後,ロボット支援下手術の導入などにより,どのように変化していくのか慎重に見極める必要がある.
膵癌に対して動脈合併切除は推奨されるか,というCQに対して,術後合併症発生率は動脈合併切除のない膵切除よりも有意に高く,R1切除の可能性も高い4).動脈合併切除例の数はいまだ少なく,論文報告されているものは成績が良いものというpublication biasが存在することは否定できないが,動脈合併切除術後には化学療法では得られない長期生存例が存在することも事実である.手術の危険性と,長期生存が得られる可能性が高くないことを十分に説明したうえで,患者に選択を求めることが重要である.

IV.おわりに
膵癌はほとんど全身病と考えられてきたが,化学療法の進歩によって微小転移がコントロールされるようになり外科的切除の意義が上がってきた.さらに初診時切除不能例,再発症例であっても術前化学療法と切除の併施により長期生存が期待できるようになった.膵癌診療はめざましく進歩しているため常に最新のガイドラインの動向をキャッチアップしておく必要がある.

 
利益相反
奨学(奨励)寄附金:大鵬薬品工業株式会社

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文献
1) Matsuno S, Egawa S, Fukuyama S, et al.: Pancreatic Cancer Registry in Japan. 20 Years of Experience. Pancreas, 28: 219–230, 2004.
2) 日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会編:膵癌診療ガイドライン.金原出版,東京,2019.
3) 東北大学:プレスリリース  http://www.surg.med.tohoku.ac.jp/society/pdf/press_release20190122.pdf
4) Mollberg N, Rahbari NN, Koch M, et al.: Arterial resection during pancreatectomy for pancreatic cancer: a systematic review and meta-analysis. Ann Surg, 254: 882–893, 2011.

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