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日外会誌. 121(3): 283-284, 2020

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理想の男女共同参画を目指して

日本女性外科医会の目指すもの

日本女性外科医会代表世話人,東京大学大学院医学系研究科消化管外科 

野村 幸世

内容要旨
日本女性外科医会は女性外科医のキャリア形成,家庭運営支援,親睦を目的として設立された団体である.これからも,女性外科医の就労継続支援,意思決定機関への女性外科医の参画推進,人権意識の啓発を推し進めていく.

キーワード
Gender, Diversity, Male-Female equality, Women surgeons

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I.はじめに
2019年5月,日本女性外科医会第2代代表世話人に就任した.日本女性外科医会は設立後9年になる,女性外科医のキャリア形成,家庭運営を支援すると同時に女性外科医の親睦を図ることを目的とする団体である.正会員は日本外科学会女性会員に限定される.本稿では,日本女性外科医の現状,問題点と,日本女性外科医会が目指すものについて概説したい.

II.日本の女性外科医の現状
女性外科医は少しずつではあるが,増加している.今後,女性医師が増加することが期待されるので,より多くの女性医師に外科を選択し,継続していただく必要がある.2015年に行った日本医学会分科会に対するアンケートでは,学会における女性医師の割合は全体では16.4%であったが,外科系学会では6.6%であった.新入会医師の女性割合は外科系では15.9%,専門医の女性割合は外科系では5.9%であるが,評議員は0.5~3.2%と低値である.

III.問題点
問題点の第1は,まず,現状では医学部医学科の卒業生の約半数が女性でないところである.人口の男女比はほぼ1対1であり,医師の半数が女性でないこと自体が問題である.昔の男女差別が顕著な時代に育った高齢者の世代では男女比に差があっても仕方のないことかもしれないが,若い世代でも未だに差がある.それに加え,外科医はさらに女性比率が少ない科であり,問題は大きい.
外科を選択したのちに,外科医を継続し,キャリアを積む女性が少ないことも問題である.これに,妊娠,出産,育児が絡むことは現状ではいうまでもない.しかし,妊娠,出産,授乳以外は男性にも同様に施行可能な仕事である.妊娠,出産のみであれば,一人の子に対し,約1年であり,授乳を含めても約2年である.それほど大人数の子供を持たない昨今の日本の家庭運営ではそれほど大きな男女差になるとは思えない.
子育て,という具体的,時間,労力のエフォートだけではなく,仕事に対する意識の男女差も問題である.私の周囲を見ても,男性医師は自分のキャリア形成のために,希望通りの転勤を選択し,パートナーである女性医師はやむなくそれに追従し,キャリアに関してはセカンドチョイスになる,ということが多い.この意識の差も大きな問題である.雇用する側としてはむやみに転勤する人を雇いたくはない.パートナーの気質は多くは結婚前に認識可能であり,この男性優位の気質に対し,男性は「当たり前」女性は「仕方ない」と認識している傾向にあると思われる.
外科を選択する女性が少ない理由には,勤務環境の悪さ,長時間労働が挙げられる.これは,現状の「働き方改革」にて改善することを望んでいる.これは,女性外科医のみならず,男性外科医にとっても問題であり,男性外科医の家庭参画を妨げていると言える.
さらに,学会や病院の意思決定機関に女性が少ないことも大きな問題である.このような会の委員となる年代層の女性は,女性会員全体の割合よりもさらに少ないが,今後の若い世代の男女を問わず能力を発揮させるためには,意思決定機関における女性医師の参加は必須であろう.

IV.問題解決に向けて
上記のような問題を解決するべく,日本女性外科医会は活動をしている.
まず,解決法の一つとして,外科を選択した女性医師の外科医としての就労継続支援を行っている.この就労継続支援活動は二つに細分され,一つ目は,女性外科医がそのmotivationを維持しつつ外科医として働けるために,仕事の問題解決,家庭との両立のための啓発とネットワーキングである.二つ目は女性も男性も意欲を持ちつつワークライフバランスを保持して働く環境整備のために,意思決定を行う役割を担っている外科医への啓発である.
次に,意思決定機関へより多くの女性外科医が参加できるよう,女性が意思決定機関へ参加することの重要性の啓発と,女性外科医の参加応援である.男女ともに働きやすいシステムや,人権を尊重する社会システムを構築していく上で,女性の意見は必要不可欠である.より多くの女性会員に意思決定機関への参加を依頼できるようにしたい.
 さらに重要なことが,個人個人の意識改革の啓発である.東京医科大学問題が勃発した時,男性のみならず,多くの女性が「まあ,仕方がない」という感想を述べたことに,日本が男女を問わず,人権意識の後進国であることを実感した.人権意識の啓発も日本女性外科医会が行いたいことである.

V.おわりに
拓けた世界に生きることは,自信を与えるだけではなく,他人への思いやりや人権意識を付与するものである.日本の村的意識や,その場での「きまり」の運用が一貫した「きまり」そのものに勝る現状はこれを大きく妨げている.男女を問わず,多くの外科医が拓けた世界に生き,フェアな社会づくりを目指すよう日本女性外科医会は働きかけていこうと思っている.

 
利益相反:なし

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