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日外会誌. 121(2): 269-270, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(中国・四国地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 3.食道癌診療ガイドライン

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科学

白川 靖博 , 藤原 俊義

(2019年9月20日受付)



キーワード
esophageal cancer, guideline, diagnosis, treatment, systematic review

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I.はじめに
2017年,第4版「食道癌診療ガイドライン」1)が発刊された.今回の改訂の最大の特徴は癌診療に対するガイドラインでは初めてEBM普及推進事業Minds(マインズ)診療ガイドライン作成の手引き2)に基づいて作成されたことであろう.そこで本稿では最新の「食道癌診療ガイドライン」作成の経過とその内容のポイントにつき概説する.

II.第4版「食道癌診療ガイドライン」作成とその内容のポイント
食道癌の診療に関するガイドラインは2002年に「食道癌治療ガイドライン」として第1版が発刊され,その後5年ごとに「食道癌診断・治療ガイドライン」として第2版,第3版が発刊されてきた.そして最新版の第4版は先に述べたように癌診療に対するガイドラインとしては初めてMinds診療ガイドライン作成の手引きに基づいて作成され,「食道癌診療ガイドライン」として2017年に発刊された.その作成過程においてはまず,第3版に対するMindsによるAppraisal of Guidelines for Research & Evaluation(AGREE)Ⅱ評価が行われた.それによると第3版は広汎な内容を網羅した記載は完成度の高いものであり,医師向けガイドラインとしての要求項目は満たしているものの,エビデンスの検索方法,選択基準,吟味方法,推奨レベルの決定方法などに関して評価が低かった.よって今回の第4版のガイドラインを作成するにあたっては,全国からの食道癌診療に携わる各分野の専門家32名からなるシステマティックレビュー(SR)チームが結成されることとなった.
まずガイドライン作成チームであるガイドライン検討委員会内においてスコープ(基本方針)が作成された.それに則って臨床病期ごとにより細かい治療アルゴリズムが導入されており,アルゴリズムの分岐点における判断材料に関連したClinical Question(CQ)が抽出された.続いてSRチーム内でそれぞれのCQに関するSRが行われレポートが作成された.最後にこのレポートを踏まえて診療ガイドライン検討委員が推奨を作成した.なお推奨および推奨度に関しては委員の無記名投票を行った上で同意率も掲載した.ここではエビデンス至上主義からより実際の医療に役立つ判断を取り入れることをめざしており,臨床において,何を指標にどう判断するかを臨床病期ごとに明確化することに重点が置かれている.
推奨の強さは,1.行う,または,行わないことを「強く推奨する」,2.行う,または,行わないことを「弱く推奨する」の2方向×2段階の表示となっている.アンサーパッドを用いた20名の本ガイドライン検討委員会委員による無記名独立投票を行い,70%以上の合意をもって決定された(modified Delphi法,normal group technique法).なお1回目の投票で70%以上の合意が得られない場合は,協議を行って2回目の投票を行った.2回目の投票でも合意が得られない場合は[推奨度を決定できない」と記載することとなったが,結果的にそうなったのは一つのCQのみであった.
第4版「食道癌診療ガイドライン」もすでにMindsによるAGREEⅡに沿った評価を受けているが,対象と目的,提示の明確さと領域の記載を中心に,高い評価を得ている.

III.おわりに
本ガイドラインはその使用上の注意の中で明記されているように,標準治療を行うための指針であり,診療行為を制限するものではない.食道癌は高齢者に多く,治療に際して高度の侵襲を伴い,治療設備,人的資源を必要とするので,患者状態や施設の状況に応じて診療方針が決定されていくことが重要であろう.

 
利益相反:なし

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文献
1) 特定非営利活動法人 日本食道学会編:食道癌診療ガイドライン2017年版.金原出版,東京,2017.
2) 福井 次矢,他 監,森實 敏夫,他 編:Minds診療ガイドライン作成の手引き2014.医学書院,東京,2014.

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