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日外会誌. 121(2): 233-234, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(中部地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 2.膵臓癌―新しいエビデンスに基づいて―

静岡県立静岡がんセンター 肝胆膵外科

上坂 克彦

(2019年4月7日受付)



キーワード
guideline, pancreatic cancer, borderline resectable pancreatic cancer, adjuvant chemotherapy, neoadjuvant therapy

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I.はじめに
膵癌診療ガイドラインは,本稿を作成している2019年5月現在,同改訂委員会(委員長,国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科,奥坂拓志先生)が急ピッチで改訂作業を進めている.現時点では2016年版が最新であるが,2019年7月には2019年版が刊行される予定となっている.現在,すでにパブリックコメントの収集も終わり,2019年版の最終稿の確認作業中である.本稿では,パブリックコメント用に公表された内容に基づき,2019年版の主たる改訂点について,外科領域を中心に紹介する.

II.2019年版ガイドラインの構造の変化
2016年以後の膵癌診療における大きな変化の一つとして,膵癌取扱い規約第7版において,切除可能性分類として,切除可能,切除可能境界,切除不能の概念と定義が明確に定められたことが挙げられる.これを受けて2019年版のガイドラインでは,全体を1診断法,2治療法に分け,1診断法では,存在・確定診断と病期・Resectability診断について,それぞれいくつかのClinical Question(CQ)が設定されることとなった.また,2治療法では,切除可能膵癌の治療法,切除可能境界膵癌の治療法,局所進行切除不能膵癌の治療法,遠隔転移を有する膵癌の治療法,支持・緩和療法の五つの項目について,臨床的に重要なCQが設定された.2016年版と2019年版の構造上の大きな違いは,2019年版では切除可能境界膵癌が独立して取り上げられたことにある.
これに伴ってCQの整理や新設が進み,すでにコンセンサスとなっているCQについてはこれを廃し,総論に移して簡単に触れるにとどめられた.例えば,2016年版のResectable膵癌の外科的治療法の項目では,「Resectable膵癌に対して外科的治療法は推奨されるか?」とのCQがあったが,切除可能膵癌では,患者の状態に問題がなければ,外科的切除が標準治療であることはすでにコンセンサスとなっているので,このCQは廃して総論で簡単に触れるにとどめられることとなった.

III.2019年版ガイドラインの外科領域のCQの紹介
2019年版ガイドラインにおける外科に関係するCQのいくつかと,現時点でのステートメントを以下に紹介する.
■「切除可能膵癌に対して術前補助療法は推奨されるか?」
このCQに対するステートメントは,当初2016年版と同様,切除可能膵癌に対する術前補助療法は行わないことを提案する,となっていた(パブリックコメント時点).しかし,術前補助療法に関する臨床試験Prep-02/JSAP-05の結果が2019年1月のアメリカ臨床腫瘍学会消化器癌シンポジウムで発表され,切除可能膵癌に対するゲムシタビン塩酸塩とS-1を用いた術前補助療法の有用性が報告された1).この結果を受け,2019年版のステートメントの変更について,改訂委員会で現在急遽討議中である.
■「膵癌の術後補助化学療法は推奨されるか?」  このCQに対するステートメント1~3では,2016年版と同様,術後補助化学療法を行うことを推奨し,そのレジメンとしてはS-1単独療法2)を推奨し,S-1に対する忍容性が低い場合にゲムシタビン塩酸塩単独療法3)を行うことを推奨することとなった.さらに4として,海外の臨床試験で有用性が示されたmodified FOLFIRINOX療法4)やゲムシタビン塩酸塩+カペシタビン併用療法5)についても,わが国では保険収載されていないことを明記しつつ,行うことを提案することとなった.
■「Borderline resectable膵癌に対して外科的治療は推奨されるか?」
切除可能境界膵癌に対しては,手術先行ではなく,術前補助療法後に治療効果を再評価し,治癒切除可能か否かの検討を行った後に外科的治療を行うことが,ステートメントで提案されることとなった.ただし,今後の課題として,①すべての切除可能境界膵癌に術前治療が必要か,②術前治療の至適レジメンは何か,等があることも触れられる予定である.
■「膵癌に対する動脈合併切除は推奨されるか?」  このCQに対するステートメントでは,腹腔動脈と肝動脈の合併切除については行うことが提案され,上腸間膜動脈については合併切除を行わないことが提案されることとなった.ただし,術後合併症と在院死亡の観点から,本術式を安全に施行できる施設において行われるべきであり,危険性と有益性のバランスを患者に十分説明すべきであることも記載される予定である.

IV.おわりに
膵癌診療における進歩はめざましく,ガイドラインの改訂作業中にも新しいエビデンスが創出されている.はじめに述べたように,本稿では2019年7月に刊行予定の膵癌診療ガイドラインについて,パブリックコメントを求めるために公表されたものに基づいてその特徴を紹介した.本稿を作成している現在においても改訂委員会で議論している点もある.最終的には刊行版を熟読していただきたい.

 
利益相反:なし

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文献
1) Unno M, Motoi F, Matsuyama Y, et al.: Randomized phase II/III trial of neoadjuvant chemotherapy with gemcitabine and S-1 versus upfront surgery for resectable pancreatic cancer (Prep-02/JSAP-05). 2019 Gastrointestinal Cancers Symposium. Abstract 189. Presented January 18, 2019.
2) Uesaka K, Boku N, Fukutomi A, et al.: Adjuvant chemotherapy of S-1 versus gemcitabine for resected pancreatic cancer: a phase 3, open-label, randomised, non-inferiority trial (JASPAC 01). Lancet, 388: 248-257, 2016.
3) Oettle H, Post S, Neuhaus P, et al.: Adjuvant chemotherapy with gemcitabine vs observation in patients undergoing curative-intent resection of pancreatic cancer:a randomized controlled trial. JAMA, 297: 267-277, 2007.
4) Conroy T, Hammel P, Hebbar M, et al.: FOLFIRINOX or gemcitabine as adjuvant therapy for pancreatic cancer. NEJM, 379: 2395-2406, 2018.
5) Neoptolemos JP, Palmer DH, Ghaneh P, et al.: Comparison of adjuvant gemcitabine and capecitabine with gemcitabine monotherapy in patients with resected pancreatic cancer (ESPAC-4):a multicentre, open-label, randomised, phase 3 trial. Lancet, 389: 1011-1024, 2017.

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