日外会誌. 121(2): 235-237, 2020
生涯教育セミナー記録
2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(中部地区)
各分野のガイドラインを紐解く
3.大腸癌―大腸癌治療ガイドラインの使い方―
愛知医科大学病院 臨床腫瘍センター 三嶋 秀行 (2019年4月7日受付) |
キーワード
括約筋間切除, 側方郭清, 自律神経, vulnerable, MSI-H
I.はじめに
大腸癌治療ガイドラインが旧版の2016年版から新版の2019年版1)に改定された.ガイドラインに記載されているとおりに治療するだけでなく,内容を熟知した上で患者の状況に応じてカスタマイズする必要があるかどうか,総合的に判断して治療するのが正しい使い方である.本稿では,2019年版改定の要点を中心に述べる.
II.内視鏡治療
ESDの保険適応が拡大され,腫瘍径の上限が撤廃され,適応が最大径2cm以上の早期大腸癌となった.pT1内視鏡切除後の再発は3年以上遅れて再発することもある.
III.手術治療
括約筋温存の適応は,「腫瘍学的に遺残のない切除(肛門側切離端・外科剥離面ともに陰性=DM0,RM0)が可能であること,術後の肛門機能が保たれること」が必要条件である.
切離腸管長について,pT4,pN2,M1(StageⅣ),低分化な組織型の直腸癌症例では肛門側進展を有する頻度が高く,進展距離が長い傾向があることに留意する.
括約筋間切除の手術適応の原則は,外科剥離面の確保が可能(外肛門括約筋・肛門挙筋への浸潤がない)で肛門側切離端が確保されることであるが,手術後5年の局所再発率は11.5%であり,便失禁などの排便機能の低下など,患者側要因だけでなく術者の経験と技量を考慮して慎重に適応を決定する.
a)直腸癌に対して側方郭清は推奨されるか?
腫瘍下縁が腹膜翻転部より肛門側にあり,壁深達度がcT3以深の直腸癌には側方郭清を推奨する.術前または術中診断にて側方リンパ節転移陽性の場合は,側方郭清を行うことを強く推奨する(推奨度1・エビデンスレベルC).術前または術中診断にて側方リンパ節転移陰性の場合の生存改善効果は限定的であるが,局所再発の抑制効果が期待できるため行うことを弱く推奨する(推奨度2・エビデンスレベルB).
b)自律神経温存について
直腸癌手術に関連した自律神経系には,腰内臓神経,上下腹神経,下腹神経,骨盤内臓神経,骨盤神経叢がある.排尿機能については片側の骨盤神経叢が温存されれば(AN1~4),一定の機能は維持される.下腹神経は射精機能を,骨盤内臓神経は勃起機能を司る.男性性機能の温存には両側の自律神経の全温存(AN4)が必要である.側方郭清の施行の有無に関わらず,自律神経系を全温存しても排尿機能や男性性機能が障害されることがある点に留意する.
IV.補助化学療法
適応の原則は(1)R0切除が行われたStage Ⅲ大腸癌(結腸癌・直腸癌).(2)術後合併症から回復している.(3)Performance status(PS)が0~1である.(4)主要臓器機能が保たれている.(5)重篤な術後合併症(感染症,縫合不全など)がない,である.
術後補助化学療法適応レジメンと投与期間は,オキサリプラチンを併用する場合はCAPOXまたはFOLFOX,オキサリプラチンを併用せずにフッ化ピリミジン(FP)単独療法の場合は,Capecitabine,5-FU+l-LV,UFT+LV,S-1,であり投与期間は6カ月を原則とする.オキサリプラチン併用療法でも6カ月間の術後化学療法が推奨されるが,特に再発低リスク例においてはCAPOX 3カ月間投与も治療選択肢となり得る.
a)StageⅡ大腸癌に術後補助化学療法は推奨されるか?
再発高リスクの場合には補助化学療法を行うことを弱く推奨する.だだし,それ以外は行わないことを弱く推奨する(推奨度2・エビデンスレベルB).
b)遠隔転移巣切除後の補助化学療法は推奨されるか?
肝転移治癒切除後の術後補助化学療法を行うことを弱く推奨する(推奨度2・エビデンスレベルB).肺転移など肝転移以外の遠隔転移巣治癒切除後の術後補助化学療法を行うことを弱く推奨する(推奨度2・エビデンスレベルD).
c)切除可能肝転移に対する術前補助化学療法は推奨されるか?
切除可能肝転移に対する術前化学療法の有効性と安全性は確立されていない(推奨度なし・エビデンスレベルC).
V.切除不能進行再発大腸癌に対する薬物療法
患者因子と腫瘍因子を考慮した全身薬物療法の一次治療の治療方針決定プロセスを図1に示す.全身状態,RAS/RAF遺伝子検査の結果,原発巣の占拠部位が右側か左側かにより治療方針が異なる.
薬物療法の適応となる(fit)患者とは,全身状態が良好で,かつ主要臓器機能が保たれ,重篤な併存疾患がなく,一次治療のオキサリプラチン,イリノテカンや分子標的薬の併用療法に対する忍容性に問題はない,と判断される患者である.薬物療法の適応とならない(frail)患者とは,全身状態が不良,または主要臓器機能が保たれていない,重篤な併存疾患を有するなどのため,薬物療法の適応がないと判断される患者である.vulnerableはその中間である.MSI-Hなら免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できるが,大腸癌ではMSI-Hとなる割合が低い.
VI.おわりに
2019年版大腸癌治療ガイドライン改定の要点について述べた.CQには,ガイドライン記載に至る経緯などを含めて詳細に記載されている.大腸癌治療ガイドラインを熟読することで,自分の知識の向上だけでなく,治療方針の説明など患者の信頼度アップにつながることを期待する.
利益相反
奨学(奨励)寄附金:中外製薬株式会社,武田薬品工業株式会社,小野薬品工業株式会社,大鵬薬品工業株式会社
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