日外会誌. 121(2): 224-228, 2020
手術のtips and pitfalls
ロボット支援下非開胸食道癌手術の縦隔郭清
東京大学 消化管外科 瀬戸 泰之 , 愛甲 丞 |
キーワード
食道癌, ロボット, 非開胸, 縦隔鏡
I.はじめに
非開胸手術の主たる目的は,術後呼吸器合併症の減少である.従来手術の際の,片肺換気麻酔や経胸腔アプローチに伴う胸壁破壊や胸膜切除を行わないことのメリットにより,その目的を達成させる.しかしながら,頸部より縦隔鏡操作にて上縦隔郭清,腹部より経裂孔的にロボットアームを挿入し中縦隔郭清を行うには,解剖学的理解と,さらにまた精緻な操作が要求されることは言うまでもない.頸部からの縦隔鏡操作は他項を参照にされたい.本稿では,われわれが行っている,腹部からのロボット操作を解説したい1).
II.術式解説
最近は,腹腔鏡にて下縦隔までの操作を行う施設が多いと思われるが,やはり,本術式においては解剖学的イメージ(図1)を常に念頭におき手術を行うことが肝要であり,通常の側臥位あるいは腹臥位との差異を理解しておく必要がある.また,視野確保がもっとも大切である.腹腔鏡の際の鉗子のみでは,中縦隔までの視野展開は難しいことがあるが,ロボットのAtrial鈎を活用すると(図2),心嚢を容易に挙上できるので中縦隔までの良好な視野が得られる.Atrial鈎はV字型に開くので,心臓圧排による血圧低下もそれほど問題にならない.ロボット手術の長所は,七つの可動域を有する関節や手振れフィルター,3D画像により術者が思い描いたような操作が,非常に安定した状況で行えることであり,本術式の目的の一つである胸膜温存(図3)や気管支動脈温存(図4)が可能になる.
損傷してはならない臓器として,下肺静脈や大動脈,気管や気管支がある.良好な視野は得られるが,vessel sealerなどのdeviceを用いて,それら周囲の剥離を行う際には,常にその壁構造をまず露出し,それに沿って操作を行うことが肝要である.裂孔からは大動脈はすぐであるし,左下肺静脈もほどなく現れる(図5).ともすると静脈の腹側に入ってしまうことがあるので,下縁を意識し,deviceで決してそのものをはさまないことが重要である.左主気管支に沿っての郭清の際は,膜様部が面してくるので呼吸変動により認識できる(図6).丁寧でかつ優しい操作で膜様部損傷を避ける.当科ではこれまで1例(1/131)で同部の損傷があったが,腫瘍浸潤有する症例であった.右主気管支沿いの郭清においては,郭清右側端を決めることが大切と考えている(図7).この術式では,もっとも遠く操作が困難になることも珍しくない.最後に気管分岐部から郭清すべき組織を外して(図8),ロボット操作を終了する.
本術式は,肺炎発生を軽減できること2),また,術後のQOLも維持できることが示されており3),今後,食道癌根治術として有用な選択肢になりうるものと考えている.
利益相反:なし
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