日外会誌. 121(2): 219-223, 2020
手術のtips and pitfalls
縦隔鏡下食道癌手術―頸部単孔アプローチを用いたリンパ節郭清手技―
京都府立医科大学 消化器外科 藤原 斉 , 大辻 英吾 |
キーワード
単孔, 縦隔鏡, リンパ節郭清, 食道癌
I.はじめに
単孔式縦隔鏡テクニックを中心とする内視鏡外科技術の導入により,縦隔鏡下食道癌根治術が可能となり,2018年4月の診療報酬改定により,‘縦隔鏡下食道悪性腫瘍手術’として新たに承認された.本手術は,仰臥位のまま,体位変換なしで,頸部と腹部からの操作のみで食道剥離と縦隔リンパ節郭清を行う非開胸手術,あるいは,食道に沿ってデバイスを挿入し剥離と郭清を進める縦隔内トンネル貫通手術である.当科では,左頸部から単孔テクニックを用いて左反回神経周囲リンパ節および気管分岐下リンパ節を中心とする上中縦隔リンパ節郭清を行った後,右頸部から直視下に右反回神経周囲リンパ節郭清を行い,最後に,腹部から用手補助腹腔鏡下に下縦隔リンパ節郭清を行っている.単孔アプローチとは,頸部創に単孔デバイスを装着し,単孔ポートに挿入固定した3ポートから‘縦隔鏡’として腹腔鏡と術者操作用デバイス2本を挿入し,気縦隔(炭酸ガス送気)のもと,術者のソロサージェリーで縦隔操作を行う方法である.食道,気管を避ける特別な工夫を必要とせず,操作性および視認性とも良好である.反面,1)大動脈弓部を中心とする深部縦隔における操作は習熟を要する.神経と血管が交差する領域であり,それらの走行の正確な理解と適切な処理なくして,安全確実なリンパ節郭清は困難である.また,2)気縦隔のみによる術野展開は不十分であり,術者の左手デバイスによる食道,大動脈弓,左主気管支の適切な圧排,カウンタートラクションが不可欠である.さらに,3)上縦隔郭清に伴う不可避の課題として,反回神経麻痺の克服がある.反回神経末梢となる頸部から開始する操作は常に反回神経と隣り合わせとなる上,拡大視下の縦隔内トンネル操作では,操作先進部手前の目視できない領域における挿入デバイスに起因する反回神経麻痺には細心の注意を払う必要がある.本稿では,左頸部単孔アプローチによる縦隔リンパ節郭清手技について,いくつかのパートを取り上げ,手技の要点と留意点について概説する.手技の詳細については,最近の既報を参照されたい1)
~
3).
利益相反:なし
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