日外会誌. 121(1): 132-134, 2020
卒後教育セミナー記録
日本外科学会第95回卒後教育セミナー(平成31年度春季)
魅力的な外科医師育成プログラムを目指して!
1.日本外科教育研究会の役割
北海道大学大学院医学研究院クリニカルシミュレーションセンター,北海道大学大学院医学研究院消化器外科学教室Ⅱ,日本外科教育研究会代表世話人 倉島 庸 (2019年4月20日受付) |
キーワード
外科教育, 外科指導者育成, 外科研修, 外科教育研究
I.はじめに
近年,修練不足による外科領域の医療事故が社会問題となる一方で,働き方改革等により外科領域においても臨床従事時間が短縮される方向にある.したがって外科指導医は倫理面,安全面に十分な配慮を払いながら,限られた時間の中で効率的に有効な指導方法を用いて若手外科医教育をする必要がある.新たな外科専門医制度への移行期にある本邦では,各研修病院が独自のプログラムで修練医の育成を行っているが,教育に関する様々なリソースが不足している1).加えて第三者機関による修練の質の評価システムが存在しないのが現状である.また,以前は外科教育を専門とした研究会や学会はなく,若手の教育を担う指導医が外科医のキャリアにおいて教育手法を学ぶ機会は非常に限られていた.
II.日本外科教育研究会設立(Japanese Association for Surgical Education:JASE)
日本外科教育研究会は「外科教育に関する情報共有」,「外科教育分野の人材育成」,「外科教育方略の開発」,「外科教育研究を促進」し,外科医療の質向上に貢献することを目的として2014年に組織された.本研究会の活動の中心は年1回開催される学術集会(Surgical Education Summit:SES)および外科教育者育成講習会(JASE Surgeons as Educator Course)である.
III.日本外科教育研究会学術集会(Surgical Education Summit:SES)
毎年7月に開催される学術集会(過去6回は札幌市開催)の参加者は外科系指導医,これから外科指導医を目指す若手外科系医師,外科教育研究に従事するエンジニア,研究者が中心である.近年,多くの一般外科医に加えて,産婦人科,泌尿器科など様々な専門分野の外科系医師の参加が増加傾向であることは,他の外科系学会にはないユニークな点であり,本研究会の大きな可能性を示唆する特徴である.学術集会は外科教育を学ぶプラットホームであることを目指し,そのセッションは1)外科指導医のためのワークショップ,2)演題発表および質疑応答,3)パネルディスカッション,4)エキスパートによる講演の4部で構成されている(表1).外科指導医のためのワークショップは,参加者が小グループに分かれ,グループディスカッションやロールプレイなどを通して外科教育の実践を学べる機会であり,学会中数多くのワークショップが開催されるアメリカ外科教育学会をモデルとしている.演題発表の内容は以下の通り外科教育に関連する領域を広くカバーし,多くの外科指導医が教育現場で直面するテーマとなっているため,セッション時間を超えても質疑応答が終わらない活発な議論が交わされる.
・外科トレーニング・指導方法
・外科技能評価
・学生教育・リクルート
・外科シミュレーショントレーニング
IV.外科教育者育成講習会(JASE Surgeons as Educator Course)
上記学術集会に加え,2019年3月には日本外科教育研究会の主催で「外科教育分野の人材育成」を目的とした2日間の集中講習会を開催した.セッションテーマは「教育理論の基本」から始まり,様々な「教育手法」,リーダーシップやタイムマネージメントなど,外科チームのリーダーとして求められる資質の育成まで網羅されている(表2).第1回目となる2019年の参加者は28名であった.今後この講習会はSES開催中のワークショップ内容を補充する形で継続し,将来的には国や学会により認定される指導医講習会へと発展させたいと考えている.
V.外科教育研究促進
北米では過去20年間の期間を経て,外科教育が外科領域における重要な研究テーマの一つとして認知されるに至ったものの,本邦からの同分野の発信力は弱い.本研究会は外科領域に貢献するエビデンスを国内外へ発信する外科教育研究を促進する役割も担っている.これまでは本研究会メンバーが中心となり日本外科学会および日本内視鏡外科学会の協力のもと,外科修練の現状を調査する全国サーベイを施行し,同学会にて今後の外科修練のあり方について提言を行った.本講演記録では文字数の制限により内容記載ができないため,参考文献2)をご参照いただきたい.
VI.おわりに
日本外科教育研究会の役割と題して,設立経緯と目的,活動内容および今後の展望について解説した.本研究会は設立してまだ6年目であり,成長過程にある組織である.外科医の育成,外科指導医のサポートを通じて,本邦の外科系学会を教育面から支える存在となり,結果として質の高い外科医療の提供および外科学の発展に貢献したいと考えている.
利益相反:なし
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