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日外会誌. 121(1): 135-137, 2020

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卒後教育セミナー記録

日本外科学会第95回卒後教育セミナー(平成31年度春季)

魅力的な外科医師育成プログラムを目指して!
 2.自らがactiveに提案する外科研修プログラム

順天堂大学 小児外科・小児泌尿生殖器外科

山高 篤行

(2019年4月20日受付)



キーワード
外科医, 小児外科, 研修

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I.はじめに
日本国内の外科研修プログラムでは,外科医を志す医師のほぼ全員が外科研修を受けることができます.しかし,最終的に,手術で生計を立てられる医師,すなわち外科医として生き残れるのは,欧米と同じく限られた者のみとなります.Large volume centerにおいて少数精鋭で外科医を養成する欧米のシステムとは異なり,日本で外科医になるには自分なりに研修を工夫し,それも長きにわたり諦めずに修練を積む必要があります.

II.小児外科の研修
小児外科を例に挙げますと,欧米では3~5年の一般外科の研修ののちにわずか2~3年の小児外科修練プログラムで一人前の小児外科医が誕生します.しかし,わが国では欧米の小児外科医に匹敵する実力を持つ指導医になるためには15年を要します.
私は,小児外科に入局した当初,国際学会で知り合う米国の一般外科ならびに小児外科研修医の手術経験数を聞くにつけ,自分に将来はあるのか?米国の小児外科医に肩を並べられる日は来るのか?と暗い気持ちになりました.しかし,小児外科医になるという目標のもと,地道に1例1例勉強し,基礎研究を夕方から行い,症例をまとめて国際学会で発表することを繰り返していくうちに,15年ほどが過ぎたころでしょうか,「日本にいても,時間はかかるが米国の小児外科医に負けない力をつけられるな,今後もこの努力を継続すれば,欧米の小児外科医を凌ぐ力をつけられる」と確信が持てるようになりました.欧米の小児外科医においては,2年の小児外科研修ののちに学術活動に関してはspeed downする医師がほとんどですから,日本にいても諦めずに精進していれば,欧米の小児外科医をも凌ぐ力をつけることが可能です.

III.若手に伝えたいこと
日本の若手の先生方には,目標を高く掲げ,世界をリードする外科医を目指して外科修練を行っていただきたいと切に願っております.そのためには,ある一定年齢までは,症例ならびに手術のことを寝ても覚めても考え,勉強し続ける修練の時を過ごすことが肝要と考えます.スポーツ選手と同じく,外科医も若い時の努力の質と量で将来が決まります.オリンピックの金メダリストの練習を想像してみてください.世界をリードする超一流の外科医を目指す若手医師の皆様には,金メダリストのトレーニングを意識して邁進していただきたいと考えております.日本には,世界に名だたる超一流の外科医がたくさんいます.まず,そういう先生方の手術をじっくりと見て,それを超えるための努力を自分でしていく必要があります.

IV.基本が最も大切
手術で最も大切なことは,基本的な手術がしっかりとできることです.恩師,宮野 武先生(図1A)が折に触れて,「誰よりもマイナー手術が上手くなれ」とおっしゃっていました.まさにその通りです.しっかりと乳児の鼠径ヘルニア手術を行うことができない医師は,メジャー手術を安全にこなすことができません.逆に乳児の鼠径ヘルニアを安全に行える医師は,合併症を起こすことなくメジャー手術を行えるようになります.
マイクロサージャリーの恩師である野澤真澄先生(図1B)もマイクロサージャリーの基本であるラットportacaval shunt手技の重要性を説かれていました.Portacaval shuntができずしてラット小腸移植は成功しません.野澤先生から芸術的なportacaval shuntとラット小腸移植を一度だけ見せていただきました.その際,「Portacaval shuntができるようになれば,あとは何でもできるようになる.ラットは何匹でも提供する.あとは自分で考えてやるもんや」とのお言葉をいただきました.Portacaval shuntを習得するのに半年を要しました.Portacaval shuntができると,小腸移植もすぐに成功しました.ここで,自分で考え,苦労して力をつける,という姿勢を教わったといえます.これが大変勉強になりました.
基本手術手技の習得,それも自分で苦労して考え,refineし,自分の型を築くことが外科医になる一歩です.

図01

V.おわりに
今回,私の行ってきた外科修練体験を教育セミナーでお話しさせていただきました.皆様からみて私の研修がactiveであったかはわかりません.しかし,小児外科指導医の取得を目指した研修期間中,四六時中手術のことを考え,論文は何としても日本語でなく英語で発信することに全精力を注いで今日に至りました.どのような時代であれ人と同じことをしていて,人と同じ研修をしていて,それで人より力がつくということはありません.創意工夫で自分なりの力をつけられる勉強法を見いだし,人より何倍も地道に努力することが,振り返って「充実した研修であったな」と思える近道だと考えます.

 
利益相反:なし

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