[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (921KB) [全文PDFのみ会員限定]

日外会誌. 121(1): 114-116, 2020

項目選択

定期学術集会特別企画記録

第119回日本外科学会定期学術集会

特別企画(7)「医療安全―患者と医師が信頼しあえる外科医療を目指して」
 1.医療事故調査制度3年6カ月~改めて制度で示す「予期せぬ死亡」への考え方~

日本医療安全調査機構 

木村 壯介

(2019年4月20日受付)



キーワード
医療事故, 事故の判断

<< 前の論文へ次の論文へ >>

I.はじめに
「医療事故調査制度」が開始から3年半が経過し,2019年3月末時点で,「事故」の発生報告は1,308件(平均31.1件/月),院内調査の結果報告数は974件,院内調査の結果さらにセンター調査を依頼した件数は88件(院内調査の結果報告件数の9.0%)となっています.この間の印象として,院内調査のプロセスそのものが当該医療機関の医療の質・安全に役立っていることを感じていますが,「事故の判断」には,悩んでおられる医療機関,解釈の違い等があると考えられました.

II.「医療事故」の判断について
制度で示す「予期せぬ死亡」には,過誤・見逃し等の概念は基準として含まれていません.むしろ広く未知の病態等を含め医療の中で起きる予期していなかった事態も対象としています.法的な観点(責任の有無・所在,過誤・見逃し等)ではなく,医学的な観点(原因の究明,医療のシステム等)からの調査といわれている根拠です.
「医療事故」の判断は,制度の基本である「医療事故の定義」と関連しています.定義では「・・・管理者が当該死亡(又は死産)を予期しなかったもの・・・」とあり,医療事故に当たるか否かを自ら判断し,事故の報告を決めることに有ります.「予期せぬ死亡」の解釈は現実には幅が広く,一般的なリスクとして伝えてあれば十分という意見から,『話はしてあるが,まさか死亡するとは思っていなかった』という当事者の心の思いは事故として検討するというものまであり,当事者,管理者の考え方次第で,報告されたりされなかったりすることになっています.

III.「医療事故調査制度」の基盤となる考え方
「医療事故調査制度」の『調査』は,世論調査等,広くデータを集め,統計処理を行い,全体の傾向を解明する調査とは異なり,1事例1事例の事故原因をたどり,事例毎の個別の原因究明を行い,その蓄積の中から再発防止を策定しようというものです.必要項目を埋めて報告することで完了する収集事業と,発生の報告が調査の始まりであって,大変な労力と時間を必要とする本制度の違いがあるといえます.本制度の調査報告書は貴重な死亡事例の詳細であって,ここから策定された再発防止のための提言は,すでに7冊になります.各々は少数事例から得られたものですが,従来のガイドライン等では指摘されていない事実に驚いています.医療機関からは評価を得ていますが,このような調査が実りあるものとなるためには,事実の情報による検証・分析が必要です.そのためには,強制的な基準,外圧で「事故」と決定するのではなく,自ら「事故」の判断をすることに意義があり,必要条件であると考えています.
制度上に具体的な基準を置くことは分かりやすい解決手段だと思われますが,個人的には,医療者が上記のことを自覚した上で対応することが必要であると考えます.つまり制度で示す文言の解釈だけではなく,Professional Autonomy & Self-Regulation (世界医師会 マドリード宣言1987)で示されるような,医療者の規範,倫理を基本に置くことの意義を考えることだと思います.

IV.医療事故報告の現状
暦年で見た,医療事故発生報告から,「起因した医療」で分類したものを提示します(図1).圧倒的に多数を占めているのは,「手術」であり,次いで処置,徴候・症状,投薬・注射,画像検査と続いています.2018年では,40%が手術関連でした.手術については,経過時間が短い,判断が割合明快である等が多く報告される理由ではないかという印象を持っています.
施設規模(病床数),および1病床当たりの医療事故発生報告を見たものを図2に示します.
いずれも,一定の傾向を示し,規模の大きい施設ほど,事故の発生率は高くなり,800〜900床の施設では,年間平均0.5〜0.9件の事故が発生していることが分かります.これは,大規模病院ほど,高齢・併存疾患,重症患者に対し,難度の高い,先進的な医療を行っている結果が現れているためと思われました.
同じく病床数で分けた施設規模と医療事故発生報告実績を表したものが図3です.報告実績として,1回でも報告した施設と,1度も報告のない施設を比較したもので,特に600床以上の施設に注目すると(*印),これらの医療機関の中で,1度も報告のない施設は44%に達しています.一方,1度でも報告した施設は3年間で平均1.53件報告していることが判明しました.大規模医療機関では,2分化する傾向があると思われます.

図01図02図03

V.おわりに
本制度はまだ発展途上であり,制度の基本となる考え方を踏まえ,社会からも納得のいく制度となるために,今後もご協力をお願いいたします.

 
利益相反:なし

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。