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日外会誌. 121(1): 102-104, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第119回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「外科医にとっての働き方改革とは」
 5.外科医の働き方改革:特定行為研修修了者の活用に向けた課題と対応策

1) 福島県立医科大学看護師特定行為研修センター 
2) 福島県立医科大学 肝胆膵・移植外科
3) 福島県立医科大学 会津医療センター大腸肛門外科
4) 福島県立医科大学 呼吸器外科

見城 明1)2) , 丸橋 繁1)2) , 遠藤 俊吾1)3) , 鈴木 弘行1)4)

(2019年4月20日受付)



キーワード
特定行為研修, チーム医療, タスクシフト, on the job training

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I.はじめに
2024年4月からの医師の時間外労働規制適用に備え,外科医の長時間労働環境にも変革が求められており,医療者の業務拡大と相互連携によりチーム医療を推進し,業務の他職種へのタスクシフトが課題となっている.
特定行為に係る看護師の研修制度(以下,特定行為研修)は,必修の共通科目と選択制の区分別科目(最大で21区分38医行為)で構成され,医師の視点・思考を学び,医師の包括的指示のもとで医行為を実践するための基礎的能力を習得するものである.特定行為研修修了者(以下,研修修了者)は,医師と看護師の中間的な立場であり,活用拡大が期待されている.
福島県立医科大学では,2017年より特定行為研修を実施している.これまでの研修の経験を踏まえ,特定行為研修の現状,研修修了者へ安全かつ効果的に医師業務をタスクシフトするための課題と対応策について検討した.

II.特定行為研修の現状
特定行為研修は,指定研修機関ごとに,開講区分数・受入れ人数・研修期間が異なり,全国的に統一されていない.2019年2月現在,全国113の指定研修機関で実施しているが,5区分以下が70施設(70/113,62.0%),10名以下が71施設(71/100,71.0%)であり,研修期間は6~24カ月となっている.
研修の受講資格は,看護師として一定期間(3~5年)以上の実務経験を有する者であり,学歴や看護師免許取得後のキャリアによる制限を設けていない施設が多い.研修体制としては,看護系教員もしくは看護師が研修責任者となっている施設が多いが,医行為に関する研修であることを考慮すると,医師の理解・協力が欠かせないと考える.
 2017年度末で全国の研修修了者数は1,041人と当初の目標を大きく下回り,その理由としては,①研修受講に伴う看護師・所属施設の負担増,②医師・所属施設の理解不足,③社会的な動機付けの不足などがあげられる.
一方,研修修了者および施設管理者・医師を対象に実施したアンケート調査では,研修修了者による患者病状の変化への迅速な対応により,患者の重症化予防・身体的負担の軽減が図れたなど,チーム医療に対する貢献について肯定的な回答が多く寄せられた(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000169110_00001.html).
研修修了者の増加に向けた社会的な環境整備も実施・計画されている.都道府県で医療計画に研修修了者の養成推進が明記され,一部では研修支援対策も実行されている.また,2018年度より一部ではあるが診療報酬加算の対象となり,今後のさらなる拡大が期待されている.2020年度から,特定行為研修を組み入れた新たな認定看護師教育制度の開始が予定されている.

III.特定行為研修制度の省令改正(時間数短縮とパッケージ化)
医療現場におけるタスクシフトの観点からは,特定行為研修が医師の業務に対応した内容になっておらず,研修修了者も少ないことから,現状では医師が信頼・安心して研修修了者にタスクシフトすることは困難であり,新たな養成制度の創設を要望するとした意見書が,2018年8月に日本外科学会,日本麻酔科学会より,厚生労働大臣あてに出された.これらの意見書を受けて厚生労働省は,研修内容の精錬化による時間数短縮と区分別科目のパッケージ化に対応した省令の改正を決定し,2019年度中より実施可能となった(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04572.html).
外科術後病棟管理領域パッケージ(以下,外科術後パッケージ)は,外科医の術後病棟業務を想定した12区分15医行為の研修であり,外科医の働き方改革への対応と関連し,2023年度末までに外科術後パッケージの研修修了者を1万人程度養成する必要があると厚生労働省は試算し,日本外科学会では活用の推進を図っている.しかし,現状の指定研修機関のみでは目標達成は困難であることが予想され,指定研修機関の増加のみならず指導者である医師の理解が必要である.

IV.本学の研修状況および研修修了者の活用に向けた課題
福島県立医科大学では,2017年より研修を実施している(18区分32医行為).附属病院および大学附属施設である会津医療センターで研修を行うほか,県内の複数の医療機関を協力施設とし,医学部・看護学部教員,病院医師・看護師,薬剤師,栄養士および臨床工学技士など多職種による指導体制を設け,他施設からも研修生を受け入れている.共通科目はe-learningによる講義を受講後,演習・実習は集合して実施している.区分別科目は,特定行為ごとに異なる診療科の医師が指導を行う体制をとっている.2017年度21名,2018年度21名が研修を修了し,2019年度には新たに36名が受講している.受講区分は中央値で2区分(1~9区分)であった.
受講生は,看護師経験15年以上の者が73%で,豊富な臨床経験を有し,研修の目的が明確で意欲的である.しかし,受講生の学歴やキャリア,知識や経験値が異なるため,到達目標や評価基準の設定に難渋することがあり,研修の質を担保するためには,全国的に統一した評価基準や到達目標を検討する必要性を感じている.また,受講生は勤務を継続しながら受講するため,時間的制約があり,研修期間のみでは習熟するには至らず,特定行為実践の基礎の習得にとどまることが多い.現状では,研修修了者が臨床で活躍するには,研修修了後にon the job trainingで経験を重ねる必要があることを理解いただきたい.
研修修了者からは特定行為実践・活動の拡大に向けた課題として,所属施設内の体制整備(安全管理体制,手順書の作成・管理,受講生の増員,等),医師の理解,患者への周知,モチベーションの維持などがあげられた.一方,協働する医師からの意見として,外科医が求める役割を実践するためには,研修修了者の所属を看護部から診療科への変更,海外で活躍するnurse practitioner(NP)やphysician assistant(PA)に準ずる職種の創設などの意見も聞かれた.

V.おわりに
5年後の外科医の働き方改革の施行に合わせた対応は急務である.研修修了者へのタスクシフトを推進するためには,医療機関毎に研修を受けやすい環境の整備,特定行為の実施体制の整備に加え医師の理解・協力が欠かせず,医療機関の風土や医師のマインド変革が重要である.医師が安心してタスクシフトするために,研修の質の担保とともに研修修了者を増やす対策が必要であり,今回の研修制度の省令改正に関して,一定期間ごとの特定行為研修制度の検証が求められる.
その上で,特定行為研修修了者へのタスクシフトが困難である場合は,NPやPAなど,新たな職種の創設について改めて議論する必要があると考える.

 
利益相反:なし

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