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日外会誌. 121(1): 99-101, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第119回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「外科医にとっての働き方改革とは」
 4.当院における外科医の働き方改革―変形労働時間制を導入して―

昭和大学 消化器・一般外科

大塚 耕司 , 村上 雅彦 , 五藤 哲 , 有吉 朋丈 , 山下 剛史 , 山崎 公靖 , 草野 智一 , 古泉 友丈 , 藤森 總 , 吉武 理 , 青木 武士

(2019年4月20日受付)



キーワード
働き方改革, 変形労働時間制

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I.はじめに
厚生労働省は,平成31年3月末に1,860時間/年の残業を条件付きで容認することを取りまとめた.当院では全国に先駆け平成29年より,変形労働時間制(シフト制)を導入し,良好な結果が得られているので提示する.

II.消化器外科での取り組み
当科では,外科医の働き方を効率化し若手にも魅力あるものとするため,医療安全・教育に重点を置いた診療体制構築を独自に行ってきた.①チーム医療(グループ主治医制)による診療と,他職種と毎朝のカンファレンスで患者情報の共有,②手術手技マニュアルを作成し手術手技を統一,③クリニカルパスによる周術期管理の統一,④患者病状説明書を作成し術前ICの統一・時間短縮,⑤若手術者の手術時間調整による手術時間管理,⑥予定手術時間・出血量超過症例の医療安全介入による手術管理などであり,すでに16年前より積極的な改革を行ってきた結果である.その他,診断書等の書類作成雑務の軽減として,診断書を担う医療事務員の増加がある.ICでは,従来では患者・家族の希望に即した時間調整が多かったが,平成29年より社会で働き方改革が注目され始めたのを契機に,患者・家族へ説明・時間提示を行い,ICは17時までを基本とし,休日・祝日のICを無くした.

III.変形労働時間制の導入
平成28年に附属3病院への労働基準監督署の立ち入り調査と指導により,昭和大学全体で働き方を見直す改革が求められた.平成29年1月に理事長が旗振り役となり,職員全体に説明会が開催された.医局長会も幾度となく開催され,運用の詳細について話し合いが行われた.外科系からは,手術を行う外科医にとって変形労働時間制は無理,診療の質を下げる,患者の安全性の担保は?など,話し合いは紛糾したが,探索的に4月から本制度が導入された.開始4カ月後の振り返りでは,シフト作成の煩わしさに対する不満が多いものの,業務に関する不満は少なかった.

IV.就業規則をふまえた変形労働時間制の勤務体制
①4週8休.②1カ月を平均した週の所定労働時間が37.5時間を超えない.③土曜日を含めたシフト体制の編成(平成29年より土曜日診療が週日化された).④1日の労働時間は,原則として上限10時間.⑤時間外勤務の上限は40時間.特別な事情がある場合には年6回80時間まで認めるが,80時間を超えてはならない.⑥時間外勤務は,診療科長の命令により行う.⑦当直後は原則「明け」とする.⑧出退勤時に必ずタイムレコーダーで打刻する.⑨シフト予定表は前月25日,実績表は勤務実績報告書(時間外報告)と併せて,翌月3日までに提出する,が基本就業規則である.

V.変形労働時間制導入に対する病院側としての取り組み
各科当直制を廃止し,病院全体で外科系当直一人・内科系当直二人とし,救急外来は救急救命科が担当となった.それに伴い,救急救命科のマンパワー確保として,各科より助教枠者の3カ月間ローテーションが義務化された.病院全体として36協定を遵守すべく,前述した時間外労働時間は全て診療科長の責任のもと管理するように指導され,40時間越え3回の時点で診療科長は副院長と面談,4回目で病院長と面談し診療業務改善書の提出が規定された.

VI.変形労働時間制導入に対する当科の取り組み
手術時間の延長による時間外労働問題,午後出勤によるシフトでは手術参加をどうするのか?など多くの問題点があがった.当科では最も人員が必要となるメジャー手術日(月・水)は通常通りの勤務とし,それ以外の日は適宜休みを取得させ,手術日以外は早く帰れる体制とした.また,マンパワー確保のために,手術日・検査日にあわせて学外研修病院への出向教室員は研究日として大学診療への参加を調整した.一方,学外研修病院で手術・検査などで人員不足の際には教室員が出向できるように調整し,お互いがサポートできる環境とした.また,当直も二人体制から一人体制とし,残りのメンバーはオンコールとした.

VII.変形労働時間制導入の取り組み後の変化
医療安全面・クオリティ面で危惧されたが,予想外にも全く問題なく導入・実施可能であった.導入後,診療科長を初めとして教室員の勤務時間に対する意識改革が行われた.早く終わらせるべく,入局年に関わらず手分けして必要最低限の人員での調整を行うようになった.若手も含めて十分な予定休日の取得が可能となった.導入1年後から当直明け後の休みを日常化し,さらに時間外労働は大幅に減少した.班長クラスが,手術日以外は適宜早く帰宅するように指導することで17時前に終了することも可能となり,平均した業務終了時間は19〜20時となった.当直回数もこれまでの大学当直月6回から月2回程度に減少した.時間外手当申請については,以前は手書き申請で面倒であり,つい忘れてしまう事(いわゆるサービス残業)も多かったが,タイムレコーダー導入で,正確に時間管理され,正当な対価が支払われるようになった.その結果,導入後は本院と附属3病院全体で2億6千万円ほどの時間外手当てによる大幅な支出増加となったが,本来正当に支払われるべき対価であり,大学側からも働いた分はしっかりと申請するように指導されている.

VIII.変形労働時間制導入後の変化と外科系医師のアンケート結果
当科では,導入後においても手術件数・医療収入は増加しており,合併症等の増加もなく良好な結果であった.当院の外科系各科におけるアンケート結果を図1に記す.①4週8休の状況,②1カ月の所定労働時間(7.5時間×労働日数)の遵守状況,③時間外労働時間上限の40時間状況,④時間外勤務40時間超えの年回数状況,⑤時間外勤務は診療科長の命令で行われているか,⑥当直明けの休み状況,⑦出退勤時のタイムレコーダー打刻状況,⑧外来は原則17時までの厳守状況,⑨グループ主治医制を確立させているか,の9項目の回答である.アンケート結果や各科の感想から総括すると,グループ主治医制を診療科長が容認せず主治医制を継続している科での勤務評価が悪く,グループ主治医制の重要性が示唆される結果となった.

図01

IX.おわりに
変形労働時間制を安全に導入するためには,1)グループ主治医制に基づく各科での工夫,2)病院全体のサポート体制,3)外科医各個人の意識改革,4)患者・家族の理解が必須であったが,外科系各科において大きな混乱なく導入可能であった.また,導入によって外科医としての大幅な時間外勤務の削減が達成された結果,若手医師でも十分な休日の取得が可能となり,その分をワークライフバランスとして家庭・研究等に時間を割く事が実現され,より充実した日々を送る事が可能となった.

 
利益相反:なし

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