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日外会誌. 121(1): 105-107, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第119回日本外科学会定期学術集会

特別企画(6)「外科医にとっての働き方改革とは」
 6.総合病院における働き方改革―外科修練と勤務体制―

1) 聖路加国際病院 小児外科
2) 聖路加国際病院 心臓血管外科
3) 聖路加国際病院 呼吸器外科
4) 聖路加国際病院 乳腺外科
5) 聖路加国際病院 消化器・一般外科

松藤 凡1) , 三隅 寛恭2) , 板東 徹3) , 山内 英子4) , 砂川 宏樹5)

(2019年4月20日受付)



キーワード
外科修練, 総合病院, 働き方改革, 変形労働時間制, 自己研鑽

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I.はじめに
医師の長時間勤務を減らすことは,健康を守り,疲労による医療事故の防止に繋がる.一方,医師は,専門職として応召義務や自己研鑽を常に求められる.専攻医にとっては,手術等のon the job trainingは修練の大切な場である.

II.当院の働き方改革
当院は都心の急性期総合病院で,病床数540床,手術室数15室,年間手術数は約7,600件である.四つのポリシーのもと6項目の働き方改革を行った.
①医師の健康を守る.
②長時間労働による医療安全への悪影響をなくす.
③研修の質を保つ.
④診療の質を保つ.
1.現行の当直業務を休日・夜間帯勤務とする.当直とは,“寝当直”のことである.
2.医師の業務と自己研鑽を区別する.時間外勤務は,業務にあたるものを上長の管理下に申請する(表1).
3.変形労働時間制を導入する.長時間診療を行う日もあれば,手術や外来診療のない日もある.医師一人一人の働き方に合わせて40時間/週の所定労働時間を割りふる(図1).
4.ローテーションを見直す.診療科によって長時間時間外勤務を余儀なくされるため,36協定を順守できるように研修医・専攻医のローテーションを組む.
5.チーム医療を徹底する.これまで常時,主治医が患者の要請に応じてきたが,チームとして対応することに,患者の理解と協力を求める.
6.学習環境を充実する.シミュレーションセンターと図書館の常時開放,電子教材への院外アクセス開放,抄読会や勉強会の勤務時間外開催など学習環境を整備する.

図01表01

III.働き方改革の後の変化
1.医師の時間外労働時間(平均)の推移(図2
働き方改革後,医師の時間外勤務時間の平均は,40時間/月以内に短縮できた.
産婦人科,救急,脳外科,心臓外科,小児科等では,長時間勤務が続いている.これらの科では,緊急が多いことに加えて医師の確保も困難である.
外科専攻医の年間時間外勤務は,平均48.9時間/月(8.3~67.3時間),45時間以上の時間外勤務月数は平均4.4月(0~6月),過労死ラインである80時間以上の時間外勤務月数は,平均1.5月(0~5月)であった.
2.診療の質への影響
入院患者数,手術数に影響はなかった.当初,救急車受け入れ台数と緊急手術数が減少したが,救急医と麻酔科医を増員し回復傾向にある.患者満足度調査では,入院,外来患者の満足度に変化はなかった.

図02

IV.考察
全国11の総合病院の100床あたりの医師数と看護師数を図3に示す.
当院では医師の時間外勤務を現行の法令を順守できる範囲まで短縮できたが,当院の医師数は他施設の約2倍であり,これは大学病院本院に匹敵する.全国の施設で同様の変革が可能とは言い難い.

図03

V.おわりに
私達は,長時間勤務を美徳とする習慣もあり,労務管理にあまりにも無頓着であった.持続可能な質の高い医療の提供には,医師の健康を守ることが不可欠であり,労務環境を見直す必要がある.医師の指示が遅ければ,それを受ける看護師や事務の勤務はさらに遅くなる.研修医や専攻医は,業務の優先順位を考え,自己研鑽のための時間を確保して頂きたい.上級医師の中には,働き方を変えることが成功体験を否定されるように感じられる方もおられるが,労務管理者としての意識改革が最も求められている.

 
利益相反:なし

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