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日外会誌. 126(2): 156-163, 2025

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特集

外科医の働き方改革

6.地域中核病院における働き方改革の現状と今後の展望

恩賜財団済生会横浜市東部病院 

三角 隆彦

内容要旨
2024年4月から「医師の働き方改革」が開始された.当院は横浜市鶴見区にある病床数562床の地域中核病院で,常勤医師数251名,教育病院としても機能している救命救急センターを有する急性期病院である.2024年4月に向けてA水準を目指すという基本方針を決定し,これまで,1.組織改革,2.制度改革,3.業務改革を行い,結果としてA水準を達成した.「医師の働き方改革」が今後の外科医確保につながり,将来の外科医が満足できる環境で安全な医療が提供されることを望んでいる.

キーワード
医師の働き方改革, タスクシフト, 診療看護師, 医療DX

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I.はじめに
2024年4月から「医師の働き方改革」が実施された.この改革は2018年に施行された「働き方改革関連法」のもと,今後の日本の人口,特に生産年齢人口が減少し労働力が減少することに対し,労働力確保を目的の一つとして行われた施策である.労働力確保のために働き方改革において労働時間を規制することは一見矛盾する様であるが,多様な働き方を推奨し労働効率を上げること,潜在労働力を確保することが目的である.
本稿では,診療中心ではあるが,若手医師やその他の職種の教育機関としても役割を果たしている地域中核病院として,当院が「働き方改革」をどのように捉え体制整備をしてきたか,現状はどうかをご紹介し今後の展望も考えてみたい.

II.背景
厚生労働省の資料によれば,今後の人口構成では主として85歳以上の高齢者の増加と生産年齢人口の減少が予想されている.85歳以上の人口は,現在の約700万人から2040年には約1,000万人となり,以後ほぼ横ばいとなる1).人口増加に伴い医療需要は増加し,2020年から2040年にかけて,85歳以上の救急搬送は75%増加,85歳以上の在宅医療需要は62%増加することが見込まれている2).外科に関するデータをみると,二次医療圏毎の2020年と2040年における手術件数の変化の予測では,手術件数はほとんど全ての医療圏で減少するが,現状維持ないしは若干の増加がみられる医療圏もあり,その数は,胸部で約10%,心・脈管で約35%,腹部で約35%である2).一方,医療福祉分野の就業者数は,2025年現在で940万人程度であるが,需要面からみると2040年には1,070万人程度が必要であると予測されている.労働力不足の対策として,多様な就労形態,女性や高齢者の社会参加,健康寿命の3年以上の延伸,医療福祉サービス改革等が行われたとしても974万人の就業者数が必要とされている2).すなわち,医療福祉従事者の雇用延長や潜在医療者の参加,サービス提供の効率化等なしには,今後の日本の医療福祉は破綻することを意味している.従事者の労働時間を増やせば対応できるのではないかという意見もあるだろうが,労働者の精神的肉体的健康を保ち,より安全な医療を提供するという観点からはナンセンスであり,労働基準法により上限が設定されるのは当然である.2023年の「医師の働き方改革」の推進に関する検討会資料によると,時間外・休日労働時間が1,860時間以上の医師は外科領域では2016年の16.7%から減少傾向ではあるものの7.1%存在している3).そもそも,時間外労働時間の規制は長時間労働がもたらす健康被害が確認されていることが根拠となっている.月45時間で脳血管疾患および虚血性心疾患等の発症リスクが徐々に高まり,月80時間では発症と業務の関連性が強まるとされ,月100時間では過労死の危険性が指摘されている4).そのため,「働き方改革」で求められたことは,『医師は労働者である』という大前提に則り,各医師個人が医療の質改善のために過重労働を避けるべきであることを認識すること,雇用主として職員の健康的な労働条件を確保し,働く人のやりがいを高め,様々なことに挑戦して豊かな人生を送り,多様な人材が多様な働き方で活躍できる環境,すなわち1999年にILO(国際労働機関)が提唱した「Decent work」を実現することである5).そして結果として,より質の高い安全な医療を提供することである.
このような背景のもと,一般職に遅れること5年,加えて規制基準の緩和措置が設けられて2024年4月より医師の時間外労働規制が始まった.時間外労働の上限規制に関して,1カ月45時間,年間360時間の一般則に対して,医師の場合は,その特殊性から,年間960時間のA水準,1,860時間のB,連携BおよびC水準が決められている.当院は当初よりA水準実施に向けてのロードマップを作成し準備を進めてきた.

III.当院の取り組み
当院は横浜市鶴見区にある病床数562床の高度急性期および急性期医療を提供する地域中核病院である.2024年4月現在の医師数は初期臨床研修医25名,専攻医64名を含む251名である.当院がA水準を目指すことが出来たのは,横浜という地理的要因から医師を含む職員の確保が比較的容易であったことが大きい.「働き方改革」に対応するための当院のこれまでの取り組みを,1.組織改革,2.制度改革,3.業務改革に分けて紹介する.
1.組織改革
1)改革担当院長補佐の雇用
手始めとして,2018年に「医師の働き方改革」担当院長補佐を指名し,2021年に専従の責任者を新たに採用し組織作りを行った.
2)働き方改革検討委員会等の設置
担当院長補佐の管理のもと,以下の六つの部署と委員会を再構築し,役割を明確化した.
①働き方改革推進室および働き方改革検討委員会;「働き方改革」を進める中心となる部署および委員会として新たに設置した.
②医師支援室および医療事務支援検討委員会;医師から医師事務作業補助者へのタスクシフトを管理・検討する.
③ER支援室および救急救命士に関する委員会;ER医師・看護師から救急救命士へのタスクシフトを検討し実施する.
④診療特定看護師室;医師から診療看護師(以下,NPと略す)へのタスクシフトを管理・検討する.
認定・専門・領域特定看護師室;看護師スペシャリストの業務管理を行う.
⑤人材開発支援室;タスクシフトに必要な教育研修を統括する.
⑥健康支援センター;専従保健師を配置し,当月の時間外労働時間が80時間を超える可能性のある医師を抽出して事前に警鐘を鳴らす.さらに,翌月5日を目途に,時間外勤務が100時間以上/月または80時間以上/月×4回が確認された医師に対して,「長時間労働医師に対する面接指導研修会」にて研修を受けた医師が面接指導を行い健康状態を確認するとともに,追加的健康確保措置として連続勤務時間制限28時間・勤務間インターバル9時間の確保や代償休息を与える業務を行っている.特に,メンタルヘルスを重視し,カウンセリングやサポート体制を整えている.
3)「働き方改革」の周知,啓蒙
診療科責任者が出席する運営会議や医局会での説明や外部講師を呼んでの講演会を企画・実施した.
2.制度改革
労働時間の管理: 医師の過労を防ぐため,労働時間を適正に把握し管理する制度を導入した.
1)医師勤務時間管理体制:勤務実態の把握
以前は医師個人の申請による紙運用であった勤怠管理を,2018年に最新のタイムレコーダーを設置し,院内LAN上で各医師および上司が登録,修正を行える新たな勤怠管理システムを導入した.勤怠管理の周知徹底は,重要性を再三説明し,個人や診療科における使用率を開示し,時間外労働時間の申請の際にタイムレコーダー上の勤務記録を必須とすることなどにより,2016年には60%程度であった医師のタイムレコーダー使用率は次第に改善し90%以上になった.
2)医師就業規則の整備,医師給与規則の変更
36協定改定など病院全体で就業規則を改定していく中で,医師の給与規則を段階的に変更していった.2019年の時点で,救急科や集中治療科など一部の診療科では24時間体制で通常業務が行われていたが,多くの診療科では夜勤は当直医を置くことで対応していた.この業務は全て労働時間として扱っていた(すなわち,全ての時間を給与支払の対象としていた).また夜勤者以外の医師も夜間や休日の業務は当然存在し,時間外勤務とし報酬を出していた.2024年に向けて宿日直許可を申請し,認められた五つの診療科(一般内科,新生児科,産婦人科,循環器内科,精神科)では,夜勤業務は宿直とみなして労働時間のカウントからは外れたが,他の診療科で当直を行う場合は,これまで通り全て労働時間としてカウントしている.その状況の中で,時間外労働時間を削減する工夫として以下の二つを行った.
①完全シフト制の徹底
救急科,集中治療科等,24時間体制で通常業務が行われている部署では,完全シフト制を徹底した.当院は1次~3次救急を24時間体制で受け入れる救急外来業務と緊急入院の受け皿となる救急病棟の業務は全て救急科の管理下にあるが,現在,救急科医師は専攻医6名を含め18名体制で業務を行っている.これを日勤と夜勤の2交代制の完全シフト制とし,夜間や休日にも救急外来と救命病棟を合わせて少なくとも3名の救急科医師が常駐するシフトを組んでいる.夜間,休日の救急外来については,救急科医師に加えて,臨床研修医2名,小児科1名,内科1名,外科1名がサポートしている.これまでは,夜勤の医師は,翌日にも予定業務を行っていたり,何となく当直明けも勤務したりすることが慣例であったが,これを制限し,病棟看護師と同じような完全シフト制とした.
②フレックスタイム制の導入 
フレックスタイム制とは病院の就業時間帯(8:30~17:30)にこだわらない勤務形態である.全ての医師をフレックスタイム制の対象とし,医師の所定労働時間は週40時間とし,月ごとに月単位の所定労働時間が決定される.フレックスタイム制は,医師各人が業務に合わせて就業時間を決める制度である.実労働時間が所定労働時間を超えた際には超過勤務手当が支給される.また,病院の就業時間帯内であっても業務のない場合は勤務の必要はなく,最終的にその月の所定労働時間を満たせばよい.休日は随時取得することが可能である.フレックスタイム制の補足として,連続勤務は28時間まで,勤務間インターバル9時間確保,週1回以上ないしは4回/4週以上の完全休養日の設定,可能な限り当直は1回/週・日直は1回/月以内とすることを求めた.
③宿日直許可・業務と研鑽の区別・外勤
宿日直許可は,2024年4月の段階で前述の5診療科における夜間業務を対象に取得した.
業務と研鑽の区分に関しては,厚生労働省のひな型に従い,当院における区分を提示しているが,業務と研鑽の境界は主として上司の命令の有無で分けている.ただし,当院は臨床研修病院で専攻医を含めた若い医師の教育の場であり,より多くの研鑽を積みたいという本人の意思は尊重すべきだと考えている.一方,研鑽以上に優先すべき案件のある個人の意思も尊重すべきである.若い医師の場合は業務であり同時に研鑽である行為が多く存在するが,診療行為や学会発表の準備等を,月80時間以内に収めることを大前提として,業務を月80時間以上は強要しないよう上司に指示しているが,その先は個人の自由意思を尊重している.
外勤に関しては,他施設での勤務時間は時間外労働時間とみなされるため,外勤先での実働時間で自己申告し,外勤を含めた時間外労働時間を勤怠管理システム上で管理している.
3.業務改革
1)タスクシフト/タスクシェアの促進
①看護師スペシャリスト(NP,領域特定看護師,認定看護師,専門看護師)の養成,採用,教育
タスクシフトは医師から他職種へだけではなく,あらゆる職種間で行うべきであり,院内での組織的な管理と教育・研修が必須である.タスクシフトする側の論理だけではなく,タスクシフトされる側への対応が必要である.中でも医師から看護師へのタスクシフトは最も大きな部分を占めるため,看護師スペシャリストの採用・育成には力を入れてきた.当院では「働き方改革」に先駆け,2013年より急性期医療現場の戦力としてNPの採用を開始し,2017年からは特定行為研修指定研修機関として21区分38行為の内9区分15行為について領域特定看護師研修講座を開講し,NP以外の特定行為研修修了者を“領域特定看護師”と呼称し内部昇格者を中心に確保してきた.また,2019年から小児プライマリケア認定看護師教育課程を全国に先駆けて開講し,認定看護師や専門看護師の増員にも力を入れてきた.当院における看護師スペシャリストの数の推移を図1に示す.現在では,NP 7名,領域特定看護師28名,認定看護師30名,専門看護師11名が勤務している.NPは,看護部ではなく診療部門の一部署の医師が室長を務める「診療特定看護師室」へ配属となり,一年間,臨床研修医の様に主な診療科をローテートし,その後,年単位で各診療科に出向する.このように,看護師スペシャリストを中心に一般看護師を含めた看護の質を向上させることで,医師から受けるタスクシフトを高品質に保つだけでなく,看護職相互間のタスクシフトを進めることもできている.
②医師事務作業補助者
医師からのタスクシフト先のもう一つ大きな職種は医師事務作業補助者である,診療報酬で施設基準が設けられているが,当院では医師事務作業補助体制加算として最上位である加算1の15対1補助体制加算を申請している.医師事務作業補助者は医師支援室に所属し多職種による研修を受け,業務内容は各診療科からの申請を医療職事務支援管理委員会で規則に則って審査し承認している.
2)ICT,DXの整備
今後減少していくことが予想される労働人口をまかなうため,DXの導入による業務効率化は必至である.
①ICTネットワーク:横浜市および神奈川県の補助を受け,2019年から横浜市東部地域を中心としたEHR(Electronic Health Record)「サルビアねっと」を開始した6).当院がある地域の患者の医療・介護情報を取得することが容易になり,持参薬管理や介護情報の取得,地域連携等のやり取りが容易になった.
②テレワークの導入: 放射線診断部の読影作業など,一部の業務やカルテの確認,勉強会を自宅で参加することを認め,勤務時間として柔軟に管理している.
③スマートフォンの導入:DX構築推進室を,今後導入すべきAIなどに関し検討する場として設けた.2023年からは順次院内のPHSをスマートフォンに切り替えて必要なアプリケーションを導入している.
3)主治医制からチーム制への移行
主治医制からチーム制への促進や人員計画の見直し等を同時に行った.チーム医療の推進は医師だけでなく,看護師やその他の医療スタッフと連携し,役割分担を明確にすることで個人の負担を軽減することが目的である.職種間連携に必要なカンファレンスの開催時間も時間内に行うことを基本とした.
4)その他
 委員会の内容を整理統合し開催も可能な限り時間内に行うこと,Web参加を可能にすること,短時間で終了するよう工夫することなどを実行している.また,患者・家族へのICの時間をできるだけ勤務時間内にするよう,患者サイドでの理解を高める掲示や映像を流している.

図01

IV.現状
上記のような様々な対策のもとに2024年4月がスタートした.当院における医師の平均超過勤務時間の推移と,超過勤務時間月80時間超の医師数の推移を示す(図2 A,B).2020年には平均50時間程度であった超過勤務時間が,対策を開始してから年を追うごとに減少し2024年には30時間台となり現在も減少中である(図2A).超過勤務時間月80時間を超える医師数も,2020年は25名程度(医師の約10%)いたものが年々減少し2024年はほぼゼロになった(図2B).しかし,現在でも一部月80時間を超過する医師がおり,最終的に年960時間以内にする対策が必要である.
2024年4月の時点で,特定労務管理医療機関(特例水準)は東京都で47病院,神奈川県で33病院である.一般的に,外科系や救急業務のある診療科において時間外労働時間の短縮が難しいとされてきたが,大学病院本院以外で救命救急センターを有する近隣の地域中核病院の届出状況を表1に示す.このうちA水準を確保できた病院は,東京都で15病院中5病院,神奈川県で17病院中6病院であった.各病院の病床数や100床当たりの医師数を比較すると,必ずしもA水準の病院が病床数や医師数に恵まれていたわけではないことが分かる.すなわち,全ての診療科で時間外労働時間を年960時間以内に収めるには,それぞれの病院の各診療科規模や,「働き方改革」に対する病院の対策の取り方が影響したものと推測される.

図02表01

V.今後の展望
「医師の働き方改革」の目指すところは,様々な考え方の個人の意思を組織として尊重し,健全な働き方を行うことによって業務の効率化をはかり,より安全な医療を提供することであり,労働者も雇用主も意識改革を行うことである.正直,これまでの日本の外科医育成の実態の中で育ってきたわれわれ世代には,違和感のある制度である.今回の改革が本当に今後の日本の外科にとって有効なものとなるかは懐疑的な部分もある.外科医にとって,その道を究めるには,より多くの時間と経験が必要であることは誰もが認識していることであろう.ただし,日本全体で考えれば,外科医のなり手が減少している現状を踏まえ,より多くの労働力を確保し,安全な外科治療を提供し続けるために,今回の制度が有効に機能することを期待している.

VI.おわりに
「医師の働き方改革」に対する当院の取り組みと,この制度に対する私見を述べさせていただいた.それぞれの施設で今後の対策の一助や外科医の減少阻止に少しでもお役に立てば幸いである.

 
利益相反:なし

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文献
1) 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(令和5(2023)年4月推計)出生中位(死亡中位)推計による.
2) 令和6年8月26日 厚生労働省 第7回新たな地域医療構想等に関する検討会資料.
3) 令和5年10月12日 厚生労働省 医師の働き方改革の推進に関する検討会資料.
4) 令和5年10月 厚生労働省 脳・心臓疾患の労災認定.
5) 1999年 ILO総会事務局長報告.
6) 折登 剛 :都市型医療介護連携ネットワーク「サルビアねっと」. 病院設備, 361:24-27, 2022.

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