日外会誌. 126(1): 107-109, 2025
定期学術集会特別企画記録
第124回日本外科学会定期学術集会特別企画(6)「外科学会専門医制度の現状を知り,将来像を語る」
1.わが国で必要十分な外科専門医を育成し,自らが誇りと感じられる外科専門医を育む理想の制度をめざして
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大阪大学 大学院医学系研究科消化器外科学 江口 英利 (2024年4月20日受付) |
キーワード
外科専門医, 専攻医, 日本専門医機構, 集約化, 均霑化
I.はじめに
外科専門医とは「医の倫理を体得し,一定の修練を経て,診断,手術適応判断,手術および術前後の管理・処置,合併症対策など,一般外科医療に関する標準的な知識とスキルを修得し,プロフェッショナルとしての態度を身に付け地域医療を担うことのできる医師」と定義されている.これまで外科専門医の認定や更新は日本外科学会が行ってきたが,2018年より日本専門医機構における新専門医制度が開始され,2022年1月1日付で日本専門医機構認定の外科専門医一期生が誕生した.明確な理念に基づく新たな専門医制度が動き出したことは喜ばしいことではあるが,近年,外科専門医を目指す若手医師数(外科専攻医数)は減少傾向で,わが国で必要十分な外科専門医数が確保できない状況が続いている.
II.日本専門医機構認定の外科専門医制度
日本専門医機構とは,厚生労働省「専門医の在り方に関する検討会」報告書を受けて2014年に設立された一般社団法人で,専門医の認定・更新基準や養成プログラム・研修施設の基準を作成し,専門医の認定と養成プログラムの評価・認定を統一的に行う組織である.ただし,専門医の養成プログラム作成や専門医認定の一次審査は,各診療科の学会(外科専門医制度の場合は日本外科学会)が行っているのはこれまでと同様である.日本専門医機構の社員として,日本外科学会をはじめとした各診療科の学会,日本医師会,日本医学会連合,全国医学部長病院長会議なども含まれている.日本専門医機構では,国民が受療の際に分かりやすい専門医制度,国民だれもが標準的で安心できる医療を受けることができる制度,そして,専門医を目指す医師が誇りをもって医療に携われる制度を構築することが目標として掲げられている.
日本専門医機構認定の外科専門医を修得するためには,医学部卒業後2年間の医師臨床研修を行った後に,外科専門研修(原則として3年間のプログラム制)が必要である.このプログラムを修了し一定の試験に合格することで外科専門医の称号が与えられる.なお,3年間の外科研修プログラムの2年目から,消化器外科,心臓血管外科などのサブスペシャルティ専門医を修得するための研修も開始可能であり,これを連動研修と称している.これが日本専門医機構が描く二階建ての専門医制度である.ただし現時点では,二階部分にあたるサブスペシャルティ専門医制度は学会認定の制度である.さらに外科領域では,サブスペシャルティ専門医修得後に,より高い専門性を有する専門医(いわゆる三階部分の専門医,現時点では学会認定の専門医制度)が存在する領域もある.
上述の通り,2022年には日本専門医機構認定の外科専門医が誕生した.加えて最近,学会認定の外科専門医として既に認定されている医師も日本専門医機構認定の外科専門医に移行できる制度が整備された.2026年に更新を迎える外科専門医(外科専門医認定証の有効期限が2026年12月31日までとなる外科専門医)以降は,一定の条件を満たすことによって移行が可能となる予定である.
III.なぜ外科専門医をめざす若手医師が増えないのか
本邦の高齢化に伴い,必要医師数は緩やかに増加傾向にある中で,医師供給数,すなわち全国の医学部卒業者数も増加傾向にはある1).しかし若手医師のうち外科医を目指す者の割合は顕著に低下傾向にあり,本邦の外科医数は増加傾向がみられていない2).若手医師が外科医を目指さなくなっている理由は多岐にわたると考えられるが,あくまでも私見として,(1)そもそも外科技能の修練には長い年数を要するため敬遠されがちであること,(2)外科技能の修練を中断した場合(含:ライフイベントによる中断)に,その後の再開のハードルが高いこと,(3)修得した外科技能の維持・向上に多大な労力を要すること,(4)外科診療行為に対する評価(給与)の問題,(5)医療訴訟などのリスクが比較的高い外科診療行為を行う外科医を守る体制(法制度)の問題,(6)昼夜を問わず対応を要することが多い診療領域・手技であること,(7)外科医が病院内で「何でも屋」として働いている実情,等があるのではないかと推察している.これらの中には,むしろ外科医が自らの誇りとしてきた点も含まれると思われるが,若手医師が外科をライフワークとして選択してくれるような体制を構築することは,現在外科医として第一線で働いているわれわれの責務であると感じている.さらに,本年度から適用が開始された働き方改革も念頭に置き,若手医師がいきいきと活躍できるような勤務環境・雰囲気に変えていく努力も不可欠であろう.
IV.外科専門医の集約化と均霑化
安全な外科医療を実践することは,外科医として当然の責務である.高難度な外科手術を特定の医療機関に集約化し専門医が執刀した場合,術後合併症率・死亡率が低下するという報告が近年なされている3)
4).医療機関の集約化・外科医の集約化は,患者の医療安全上のメリットとなるのみならず,外科医にとってもメリットがあると考えられる.すなわち,一施設あたりの外科医数増加によってチーム医療が可能となり,結果的に労働時間が短縮する可能性,外科修練期間中の手術経験数が多くなり,知識や技能の修得を効率良く行える可能性,同僚が増えることによって勤務時間のflexibilityが増加する可能性などが考えられる.一方で,外科手術を特定の医療機関に集約化することにより,患者が外科診療を受療する際の移動距離・移動時間が長くなるなど,実臨床上のデメリットも当然ながら発生する.外科医あるいは外科を有する医療機関の「集約化と均霑化」について検討するならば,即時対応性が求められることも多いという外科診療の特性も当然考慮すべきであるし,また,各種手術の実施頻度や難易度も考慮しなければならないことは言うまでもない.
V.おわりに
言うまでもなく,国民が必要とする外科医療を提供し続けることは外科医に課せられた使命である.その使命を果たすために,われわれ自身も変化し続け,また政府や国民とも対話しながら,わが国にとって必要十分な外科専門医を育成し,自らが誇りと感じられる外科専門医を育む理想の制度をめざすことが肝要である.
利益相反:なし
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