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日外会誌. 126(1): 110-112, 2025

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定期学術集会特別企画記録

第124回日本外科学会定期学術集会特別企画(6)「外科学会専門医制度の現状を知り,将来像を語る」

2.あるべき専門医像と制度をアカデミアの視点で語る

順天堂大学 医学部乳腺腫瘍学講座

齊藤 光江

(2024年4月20日受付)



キーワード
専門医, 専門医制度, アカデミア

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I.はじめに
現行の専門医制度とそのあるべき姿について,私見を交えて述べたい.

II.専門医像について
専門医という言葉が持つイメージは,置かれた立場で異なる.15,000人を対象とした(社)日本専門医制評価・認定機構調査報告書「専門医に関する意識調査」2013 (https://www.mhlw.go.jp/content/000494824.pdf)に拠れば,専門医をイメージさせる項目として,最も多く挙げられたのは,①『テレビなどで取り上げられているスーパードクター』79%,②『重症・難病の患者を治療している医師』78%,③『医学系学会などで認定された医師』76%,④『大学・研究所などで研究をしている医師』67%が続いた.①②のイメージ通りの医師のみを専門医とすると,専門医はごく限られた医師となる.また④は研究医である.③が,現状に最も近いものと考えられるが,理想像は具体的ではない.まさに,③にしっかりメスを入れ,認定基準に客観性を持たせ,誰にでも理解されやすい医師像を専門医とするために,日本専門医機構(以下,機構)は設立され,そのHPの中には,一般向けに以下のように定義が示されている(https://jmsb.or.jp/ippan). 『専門医と聞くとスーパードクターのような「神の手」をもつ医師のことを想像されるかもしれません.しかし実際は内科や外科,小児科,産婦人科などよく知られた診療科において標準的で適切な診断・治療を提供できる医師のことです.ここでいう「標準的」という言葉は,科学的根拠に基づいた観点で,現在利用できる最良の診断・治療という意味です.専門医はそれぞれの診療科において,その時点で科学的に証明された最も効果の高い医療を提供できる医師です.』

III.専門医制度について
そのような専門医を育成するための制度のあるべき姿と現状とのギャップについて考えてみる.要点は,①専門医が満たすべき条件,②専門医育成のためのプログラム(もしくはカリキュラム)とロードマップ,③専門医を維持するために必要な条件,④専門医を育成するための条件を備えた指導環境,⑤これらの条件の評価システムとフィードバックの方法などに集約できるが,①②③は,学会から独立して,中立的な第三者機関として発足した機構が,整備指針を設けて,申請されたプログラムを承認していく過程において,多様な委員によって評価され,あるべき姿と照合してほぼ妥協のないものが目指されている.しかし④⑤は今後の課題である.まず指導医の規定,指導自体の評価,指導環境の指針などに関しては,理想より現実の人的資源や既存の施設環境に依存せざるを得ない状況がある.承認されたプログラムも,書面上問題が無いとしても,これまでの稼働状況などから見直しを要求する必要もある.また,専門医制度が,医療の受け手と担い手の立場のみから設計されていては,時代の流れや世界的視野を失う.例えば研究力低下や,ドラッグロスなどで,日本が世界の最先端の医療から遠のいていく現状と専門医制度のあり方の関係等,より視野を広げて制度見直しを要する.

IV.今後の課題
①機構とその社員である②日本医学会連合の二つの視点で,専門医制度の課題を抽出する.
ちなみに日本外科学会は①の社員であり②の加盟学会である.
1)機構の視点
基本領域の整備指針や整備基準に基づく評価や承認業務を誠実に遂行することによって,基本領域間の品質格差の是正に貢献し,国民にわかりやすい専門医という目標達成に向かっている.また,この評価基準等において,機構の考えを及ぼすことが一定程度可能である.
しかしながら,厚労省の下部組織であるが故に,その指示を受け,最終的には地方自治体の首長が関わる医道審議会で承認が得られた範囲でのみ活動が許される組織の性質上,指示に疑問を感じたとしても,機構が起こせる行動は極めて限定的である.そんな中,機構内部にいるからこそ見えてくる課題があり,これを外部に伝えることによって解決に向けた動きを促すことができるかもしれず,矛盾や問題点は発信していかねばならない.その意味で,機構の最大の強味は,現場すなわち社員である基本領域学会の意見や苦情を聞くことができるという点である.具体的には,シーリングの効果は出ているのか?そもそもシーリング数の設定根拠は?サブスペシャルティ(以下サブスペ)まで機構が認定するのか?できるのか?専門医になる前の専攻医を地域偏在解消の駒として使うような制度であっていいのか?等である.試みに外科系基本領域各学会と能動的に面談を始めた結果,単に苦情や要望だけではなく,課題の幾つかを解決する糸口となる調査研究結果や建設的な意見を頂き,対話を繰り返すことで,アカデミアとして行うべき教育や研究と現行の専門医制度が競合する点などを明確にすることができた.例示すると,①専門医取得や更新に終始するあまり,研究に従事する医師の減少が起きている,②シーリングで進路が阻まれた人の中で2022年度は200人ほどが保険外診療中心の美容医療に流出,③インセンティブが得られない専門医取得に意義を見出せない,④シーリングをかけても診療科偏在が是正できていない等である.この中で,専門医を育成するためのプログラムに盛り込むことで多少改善の余地がある課題として,①が挙げられる.即ち,研究従事期間を育児休業期間と同様に扱うことができれば,研究へのハードルが低まる.臨床研究医コースというものはあるが,日本全体で起こっている研究医減少を改善するには,効果は限定的であろう.②は,機構の力が及ばぬ部分を含む.本来皮膚科や形成外科の専門医を取得して,その2階部分にサブスペとして乗せ,国民が安心して美容医療を受けられるような資格,まさに専門医認定を取得することを促す必要があるが,シーリングと大学病院での給与の低さがこの状況を助長させていることが背景にあり,国を挙げて取り組む課題でもある.③や④にも通ずる.
2)日本医学会連合の視点
143加盟学会を束ね,専門医のみならず,臨床研修医や基礎医学に従事している医師も関わる日本医学会連合は,医学界全体を俯瞰し,より自由に活動ができる立場にある.抽出した課題を列挙する.前述したことにも関連するが,①研究力低下は大問題(https://www.nature.com/articles/d41586-023-03290-1)で,臨床医が研究時間を捻出できず,基礎医学を志す医師が激減し,大学院進学減少も問題になっている.ポジションの少なさや,国公立大学への運営費交付金の減少も一因,②若手の進路選択のトレンドは,シーリングのみでは変えられず,診療科偏在是正には他の施策が必要,③専門医取得のメリットが明確でない,④医師の地域偏在是正は,医療界のみで解決できる問題ではなく,自治体が拠点病院や産業界とともに,グランドデザインを描くことから始めるべきであり国の施策や財源も必要であることなどが挙げられた.

V.おわりに
以上の課題解決に向けて,行動制限がかかりにくい日本医学会連合は自らが主導し,機構を道連れに①③,医学会以外のアカデミアと共に②という三つの行動を起こした.是非とも日本外科学会をあげてのご協力を乞いたい.
① 厚労省・文科省・総務省・内閣府への要望書提出(https://www.jmsf.or.jp/activity/page_854.html).
要望事項:国と日本専門医機構,地方自治体,日本医師会などとの協議の場の設置を要望し,その場において積極的に関与希望.1)医学系の研究力向上の課題について,2)新専門医制度と地域偏在問題や診療科偏在問題について.
② 日本生化学会発案の科研費の全体額増加に関する要望書への賛同.「科学研究費助成事業の全体額増加に関する要望書」特設サイト(生科連HP)(https://www.google.com/url?q=https://seikaren.org/news/16871.html&source=gmail-imap&ust=1720422855000000&usg=AOvVaw1Cf4mhfkehTajZayJINOcD).
③ 必要専門医数検討WGの立ち上げ(https://jmsb.or.jp/about/).これは医師数の充足や不足は,何を根拠とするのか,その指標を基本領域学会と協議し,参考指標になるような報告書にまとめる研究を行うものである.

 
利益相反:なし

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