日外会誌. 126(1): 22-26, 2025
特集
少子化時代のこどもの外科医療のあり方
4.消化器外科医からみたこどもの外科医療と教育のあり方
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大分大学 医学部消化器・小児外科学講座 猪股 雅史 , 小川 雄大 |
キーワード
外科教育, シミュレーション教育
I.はじめに
日本外科学会は2018年に新専門医制度が導入されて以降,2022年度の専攻医採用者数が初めて減少に転じたことを公表した1).また,日本消化器外科学会ワーク・イン・ライフ委員会は消化器外科医の数は10年後には現在の75%に,20年後には50%まで減少するという見通しを明らかにした2).外科医不足が問題となる中,小児外科領域においても小児外科医の偏在化や症例の分散による不均衡により,小児外科医が経験できる症例数の確保が問題となっている.将来を担う世代の健全な育成ができる体制の充実こそが少子高齢化対策の基礎となり,出生数が減少するなかでの小児外科医の果たす役割は大きい.次世代の小児外科医育成にあたり,外科医としての基盤,地域医療を担う外科医の育成,そして消化器外科を基盤とした小児外科医の育成により,現在の地域における小児外科医療を支えている現状を述べたい.
II.外科医としての基盤
近年の内視鏡外科およびロボット支援手術などの低侵襲手術の普及により,「新たな医療時代への過渡期」と言われるようになってきた.医療の高度化,専門化,集約化がもたらすものは,若手外科医の「手技の実践」の場の減少であり,卒後教育をどのようにするかが課題となっている3).当講座では若手外科医も習熟度に応じて実際の手術を執刀しているものの,手術症例の大多数が高度技術を要する内視鏡外科およびロボット支援手術であることもあり,Off the job trainingが重要であると考えている.そのため,研修医・専攻医を対象として中動物(ブタ)を用いたサージカルラボを行っている(図1).これは,指導者は手術に参加することなく,研修医・専攻医のみで腹腔鏡下大腸切除術,胃切除術,胆嚢摘出術,脾臓摘出術などのより高度な術式を経験することができる.また同様に,研修医・専攻医を対象としたカダバーサージカルトレーニングも行っている(図2).これにより,日常経験することが少なくなった開腹手術を行い,解剖学的理解を深め,さらには肝切除や膵切除などの高度な術式を経験できる.そして,若手外科医の中には救急に興味を持つ専攻医もいるため,重症外傷診療における外科的治療を学ぶ機会も設けている.これは,当院の高度救命救急センターが主催する外傷外科手術治療戦略コース(Surgical Strategy and Treatment for Trauma:SSTT)と献体による外傷手術臨床解剖学的研究会(Cadaver-based seminar for trauma surgery:C-BEST)などである.これらの質の高いシミュレーション教育を基にしたOff the job trainingにより,質の高い外科教育の実践を目指すとともに若手外科医のモチベーションの向上および早期技術習得につなげている.


III.地域医療を担う外科医の育成
少子高齢化の高齢化部分は地域の外科医療にも影響を与えている.わが国全体としての外科医不足と外科医の地域偏在は,医療機関へのアクセスの良さが特徴である日本の医療の根幹を揺るがす問題である.当講座は大分県内の41施設と連携および常勤外科医師派遣を行っており,そのうち31施設に研修医プログラムとして若手外科医を派遣している.高度な外科医療を学ぶことも大事であるが,地域に密着した外科医としての役割も果たす必要があり,若手外科医にはその両方を兼ね備えた外科医を目指す体制を整えている.一方で,地域医療は昔ながらの地域独自の医療が根付いていることもあり,研修した施設間の教育にもばらつきがある.これは,外科教育に関する指導医の評価法が定まっていないことに起因すると考えられる.そこで,地域での外科教育における大きな課題の一つである,若手外科医の執刀した手術に対する効率のよい評価法・フィードバック法の欠如に対する方策として,グループウェアを用いた手術手技評価システム,「大分消化器外科手術手技の迅速評価システム(Oita-Rapid Assessment System of Operative Procedures〈Oita-RASOP〉)」(図3)を大分大学医学部総合外科・地域連携学講座とともに考案・開発した4).本システムは,common diseaseおよびcommon malignanciesに対する代表的な10術式に関して,若手外科医および指導医それぞれが各手術操作項目(10~20項目程度)や周術期ケアに対し5段階評価をグループウェアにて登録するものである.これにより,手術時間や出血量のみならず,術式別の総得点数や手術操作項目ごとの評価点数に関する学習曲線の可視化,そしてこれらのデータの若手外科医・指導医間での共有が可能となり,学習効率が向上するものである.このようなシステムを使うことにより,外科教育における地域間格差,施設間格差をなくすことになり,良質な外科医の育成を目指している.

IV.消化器外科医としての基盤を持った小児外科医
小児外科診療では対象となる疾患,年齢の多様性とそれに対する治療の専門性を両立させなければならない.つまり,多様な年齢の幅広い疾患に対しての専門知識や臨床経験が求められるが,少子化における手術症例数の減少および国内における小児外科診療施設の分散により,各施設で経験できる症例は限られている.小児外科医療における現状とそれに伴う外科教育の改革の必要性は,20年以上前から危惧されていた事態ではあるが5),当講座としての答えは「消化器外科医としての基盤を持った小児外科医」の育成である.前述したように,当講座では成人外科領域の低侵襲手術の経験と地域医療に密着した外科医療を経験したgeneral surgeonとしての外科教育が受けられる.そして,その経験は小児外科医として診療をしながらも継続することができる.小児外科領域での症例数の少なさは,症例数が多く体系化された成人外科手術を経験することにより凌駕することができる.胆道閉鎖症や胆道拡張症は,肝門部胆管癌の手術手技と解剖学的知識に加えて,疾患の病態を理解することで補い,ヒルシュスプルング病や鎖肛は,直腸癌の手術に疾患概念を加えることで補うことができる.消化器外科医として臨床に従事することにより,小児外科疾患の究極のOn the job trainingを行うことができると考えている.そして,「消化器外科医としての基盤を持った小児外科医」のもう一つの利点は,最先端技術の小児外科への取り入れがスムーズに行えることである.技術革新は成人外科から拡がっていくのは,これまでの内視鏡外科技術の普及,さらには現在のロボット支援下手術の普及を見ても明らかである.これは,症例数の豊富さと新規デバイスのサイズが関係している.新規技術の小型化により小児外科領域にも拡がってくるため,ロボット支援下手術の小児外科領域への普及も遠くない未来にやってくる.その時の導入は,成人外科での経験が活かされることによりスムーズに行うことができる.これは,臨床に限ったことではなく,研究面でも生かされてくる.当講座では,AI支援手術の開発や光線力学療法の研究を積極的に取り入れており,これは小児外科領域への応用も可能である.AI支援手術は症例数の少ない希少疾患の診療にこそ取り入れるべき技術であり,消化器癌に対する光線力学療法は小児がんへの応用も可能である.消化器外科領域の技術革新を小児外科領域へ応用することは必要不可欠であり,小児外科領域の課題を解決する一つの糸口となり得ると考えられる.
V.おわりに
多様な年齢と疾患への対応や成人期医療への移行など小児外科医に求められるニーズは幅広い.地域に求められる小児外科医の育成は,最先端技術と地域医療を兼ね備えたgeneral surgeonである外科医から育まれるものであり,当講座の目指している「良質な外科医の育成」に繋がる.小児外科領域の抱える課題の解決は,全体の構造的改善を見ないことには解決できない部分もあるが,その中でも消化器外科をはじめとして他領域の外科と小児外科の融合を上手に活用し,少子化時代の小児外科医の育成と地域医療への貢献が有用と考えられる.
利益相反:なし
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