日外会誌. 125(5): 457-460, 2024
手術のtips and pitfalls
no-touch SVG(大伏在静脈グラフト)のtips and pitfalls
エナジーデバイスを用いたno-touch SVGの採取
東京女子医科大学 心臓血管外科 浜崎 安純 |
キーワード
no-touch法, 大伏在静脈, グラフト採取, エナジーデバイス
I.はじめに
大伏在静脈グラフト(SVG)は冠動脈バイパス術で広く用いられているが,長期開存性は不良であった.周囲脂肪織とともにSVGをpedicleで採取し,過度の高圧拡張を施さない“no-touch法”は長期開存性が期待できるが,採取と創合併症(SSI)の予防にはコツがある.エナジーデバイスを用いた採取法1)
2)を紹介する.
II.術前評価
視診と触診でSVGの径,静脈瘤・走行異常の有無を確認する.非侵襲的な評価法として,超音波は欠かせない.血管径,壁肥厚・走行異常・逆流の有無を評価し,採取部位を決定する.SSIを避けるため,皮膚切開を複数に分けるスキップ切開が望ましいため,分枝の位置を参考に皮膚スキップの位置を決める.侵襲的な評価法として単純CTによる三次元volume rendering法が有用である.Ishizawaらによると,グラフトとして不適なSVGは20%弱であり3),5~6 mGyの被曝量で正確なSVG評価が可能である.
III.採取
麻酔導入後に超音波でSVGと分枝をマーキングする.大腿からの採取では中枢側から,下腿からの採取では末梢側から入ると正しい層に入りやすい.SVGのすぐ前面のsaphenous fasciaに到達すると,薄くSVGを透見できる.SVGはsaphenous fasciaとmuscular fasciaの間を走行し,左右に分枝を出すが,手前と奥に分枝を出すことはない.SVGを同定したらsaphenous fasciaを開かずに採取予定長全長のsaphenous fascia前面を剥離し,SVGの全容を明らかにする.Saphenous fascia前面の剥離を完了したらfasciaを切開し,SVGから3~5 mmの距離を置いて周囲脂肪組織を両サイドに残しながらエナジーデバイスで凝固切開していく.デバイスの先端が分枝に当たると感触で同定可能なので,デバイス先端で剥離して分枝を露出し,挟んで凝固する.3 mm程度の分枝でも確実に止血可能で,SVGに直接触れなければ熱損傷の懸念はない.
本邦で入手可能なシザーズタイプのエナジーデバイスはオリンパス社のTHUNDERBEATとエチコン社のHarmonic Scalpel,日機装社のAcrosurg.である.Harmonic Scalpelが超音波単独のエナジーデバイスで,THUNDERBEATは超音波による切開とバイポーラーによる止血が可能なハイブリッド型エナジーデバイス,Acrosurg.はマイクロ波を利用したエナジーデバイスである.
チップ先端による皮膚,皮下の熱傷はSSIの原因となるため,通電中にはチップ先端が不用意に皮膚や皮下に接触しないよう注意を払う必要がある.
IV.閉創
閉創前に創内を温生食で洗浄し,止血を確認する.10 Fr程度のラウンドタイプのスリットドレーンあるいは平型のスリットないしは多孔型のドレーンを創内に留置して閉創する.ドレーンは2~4日程度で排液量が10 ml/日未満となるので,その頃に抜去する.
利益相反:なし
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