日外会誌. 125(5): 452-456, 2024
手術のtips and pitfalls
no-touch SVG(大伏在静脈グラフト)のtips and pitfalls
“no-touch” SVGの採取と使用方法
静岡県立総合病院 心臓血管外科 恒吉 裕史 |
キーワード
冠動脈バイパス術, 静脈グラフト, no-touch SVG
I.はじめに
冠動脈バイパス術において,両側内胸動脈を含めた動脈グラフトの有用性は広く認識されているが,いまだ静脈グラフト(SVG)も重要なグラフト材料である.ただ,SVGは遠隔のグラフト開存率が低いとされており,この弱点を克服するため,近年“no-touch” SVG(NT-SVG)という,SVGを周囲の脂肪組織を付けたPedicleとして採取し,シリンジによる拡張もさせずに愛護的に採取する方法が提唱され,Souzaらのグループから発表された無作為臨床試験1)でNT-SVGの術後16年の開存率が83%と,通常採取SVGの64%より有意に高いことが報告されている.
われわれは,2013年からNT-SVGを積極的に使用しており,本稿では,当院でのNT-SVGの採取と使用方法について紹介する.
II.当院でのNT-SVGの適応と成績
当院では,単独冠動脈バイパス術を,原則オフポンプ(OPCAB)で行う方針としている.NT-SVGは皮下のdefectが多くなるため,コントロール不良の糖尿病症例,高度の下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)合併例は創傷治癒遅延の観点から使用していない.術前に下肢エコーあるいは単純CTにて大伏在静脈の径と走行を確認し,径が2mm以下の細すぎる場合や,走行に異常がある場合,下肢静脈瘤症例は適応から除外している.NT-SVGのターゲットとしては右冠動脈が最も多く,続いて回旋枝領域となっている.
当院でのNT-SVG 130例2)の早期開存率は100%で,遠隔評価に関しては5年毎に冠動脈CTを撮像し,5年後のNT-SVG開存率は95.8%と非常に良好であり,前述の海外からの成績と遜色がないと思われる.
III.NT-SVGの採取方法
NT-SVGの採取は下腿からを第一選択としており,採取前にエコーで静脈の走行に沿って皮膚マーキングをしておく.SVGを直接見ないで採取するNT-SVGでは,この作業が非常に重要である.皮膚切開は静脈のマーキング上をスキップで行い,下腿から一本分のNT-SVGを採取する場合は合計3カ所の皮膚切開を行っている.低出力電気メスあるいは,ハーモニックⓇを用いてSVG周囲に5mm程度の脂肪組織を付けた状態で採取している.閉創は,ドレーン挿入後,脂肪層を単結節あるいはバーブ(返し)付き縫合糸の連続で閉鎖し,真皮縫合の後,下肢の弾性包帯による圧迫を術中から行っている.NT-SVGの最大の問題点は創部離開が生じやすい3)とされているため,最近は,創傷治癒ハイリスク症例で予防的NPWT(Negative Pressure Wound Therapy)を術後1週間装着している.
IV.まとめ
no-touch SVGは,比較的簡便にできる採取手技であり,大事なグラフト材料であるSVGを愛護的に採取することで,バイパス患者の遠隔期予後を改善する可能性がある.
利益相反:なし
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