日外会誌. 125(3): 277-282, 2024
手術のtips and pitfalls
対面式ロボット支援肺葉切除のtips and pitfalls
対面式ロボット支援下手術における右上葉切除術時のtips and pitfalls
がん研究会有明病院呼吸器センター 外科 文 敏景 |
キーワード
ロボット支援下手術, 対面式, 右上葉切除術, 逆行性心膜剥離法
I.はじめに
本邦における肺悪性腫瘍に対する胸腔鏡下手術(Video-assisted thoracoscopic surgery : 以下,VATS)のアプローチには見上げ式と対面式が存在し,約30年かけて広く普及してきた.一方,da Vinci Surgical Systemを用いたロボット支援下手術(Robot-assisted thoracoscopic surgery : 以下,RATS)は2018年に肺悪性腫瘍に対して保険収載され普及しつつある.肺癌に対するRATSにおいては,第8または第9の下位肋間にすべてのポートを並べる“Linear port placement”が一般的であり1),モニター上部が患者頭側を描出するいわゆる見上げ式の視野となる.この方法では鉗子操作の軸が縦軸(患者頭尾の軸)に平行となるため上肺静脈や上幹肺動脈,上葉気管支などの切離は容易であるが,上中葉間,A2bなど前後軸に沿う切離はやや困難となる.また,右上縦隔リンパ節郭清において,肺動脈本幹の頭側にある#4Rリンパ節の視野描出や剥離操作もやや困難である.当科ではVATS右上葉切除術においては従来から第3肋間にカメラポートを設置しており,見上げ式と比較すると特に頭側の視野の描出に利点がある.RATSはポートから離れた領域の操作性に優れていることから“Linear port placement”が推奨されているが,当科では対面式VATSと同様の視野の描出を可能にしたRATSアプローチを考案し実践している2).対面式視野でRATSを行うことにより,今までVATSで蓄積したtips and pitfallsを共有することができる.一方でRATSにはポートの深さによる近接視野となる点や鉗子同士の干渉等の制限がある点,などの特徴があることから,対面式視野でRATSを行うにあたり各アームのポート位置やアシスト創の位置は試行錯誤して現在の位置となった.
本稿では,da Vinci Xi Surgical Systemを用いた対面式RATS右上葉切除時のtips and pitfallsについて解説する.
利益相反:なし
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