日外会誌. 125(3): 269-275, 2024
手術のtips and pitfalls
幽門側胃切除術においてBillroth-Ⅰ法が施行できないときの再建法
Roux-en Y法
金沢大学 消化管外科 稲木 紀幸 |
キーワード
胃癌, 幽門側胃切除術, Roux-en Y法, 十二指腸断端瘻, 内ヘルニア
I.はじめに
「幽門側胃切除術においてBillroth-Ⅰ法(B-Ⅰ)が施行できないとき」という場面を想定する際,さまざまな状況が挙げられる.
1.残胃が小さいため,吻合の際,残胃断端が十二指腸に届かない
2.術中に十二指腸断端損傷などのトラブルがあり,B-Ⅰを断念せざるを得ない
3.十二指腸浸潤があり,切除マージンを確保して十二指腸を離断したため吻合しろが無い
などが挙げられる.言葉尻を捕らえることになるが,術前から「幽門側胃切除術においてB-Ⅰを予定しない」ということもあるだろう.その背景としては,
4.進行癌(姑息切除を含む)症例で,術後の局所再発を想定するため
5.食道裂孔ヘルニア併存の患者には胆汁による逆流性食道炎予防のためRoux-en Y法(R-Y)を行う
6.残胃への胆汁逆流を防ぐため,R-Yを施設での標準としている1)
などが挙げられるだろう.
上記を議論する際,1や2の理由でB-Ⅰを断念することは,術中の平常心を保つ観点からは,できれば回避したい状況であり,術前評価や術中操作の心がけが肝要となる.3や4は腫瘍学的な要因によるものであり,リンパ節転移を伴う胃L領域の進行癌では根治切除が可能であってもB-Ⅰを最初から除外することは多く経験される.5や6は術後障害を考慮した要因であり,術後の内視鏡検査でも残胃炎が少なく,逆流性食道炎を予防できれば患者QOLに貢献することが期待される.胃全摘術後にはR-Yが標準的に採用されることを考えれば,極論を言えば,R-Yさえ習得しておけば,胃癌手術の全てに適応できるオールマイティーな再建法であると言える.
R-Yをまとめると,利点としては,残胃の大きさに関わらず適応でき,術後の残胃炎所見が少ないことが挙げられ,欠点としては,B-Ⅰに比べて手技の手順が増え手間と時間がかかるということ,Y脚のトラブル,R-Y stasis,結腸間膜との間隙に生じる内ヘルニアの可能性があることである.また,十二指腸は断端として残るため,十二指腸断端瘻の可能性も念頭に置く必要がある2).余談となるが,肥満に対するR-Yバイパス術が普及している背景から,肥満や糖尿病を併存した胃癌に対する幽門側胃切除後のR-Yを選択する効果が報告されている3)が,確固たるエビデンスは少ない.
R-Yにおける陥りやすいpitfallsに言及しつつ,合併症の少ない適切なR-Yを行うためのTipsを図説する.
利益相反
講演料など:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
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