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日外会誌. 125(3): 216-220, 2024

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特集

Acute Care Surgeon―その活躍の場―

4.外科部門における活躍

1) 北海道大学病院先端医療技術教育研究開発センター,北海道大学消化器外科Ⅱ 
2) 北海道大学大学院医学研究院消化器外科学教室Ⅱ 

村上 壮一1) , 平野 聡2)

内容要旨
本邦において“Acute Care Surgery”を専門とする部門は少なく,ほとんどのAcute Care Surgery診療はこれを専門としない「外科部門」で行われている.一般的に外科医は総合外科医“General Surgeon”としての教育を受けており,Acute Care Surgeonとしての素養を持つが,Acute Care Surgeryの十分な知識や技術を持たないことも多い.しかしこれを専門とする者が存在し,知識や技術を日常的に得ることができれば,部門全体のAcute Care Surgery対応能力を専門部門に勝るとも劣らないまでに向上させることが可能である.外科部門におけるAcute Care Surgeonの活躍の場はまさにここにある.
近年の外科医減少,また働き方改革による労働時間制限により,外科部門も構造改革を余儀なくされている.定時手術をつつがなく進行させる上で,Surgical Rescueを含むAcute Care Surgeryを切り離し集約することは今後避けられないと考えられる.今後,外科部門におけるAcute Care Surgeonは,新たに立ち上げられた専門部署で活躍する場面が増えてくるであろう.

キーワード
総合外科, 専門外科, Acute Care Surgery, 働き方改革, Surgical Rescue

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I.はじめに
「外科」とは全ての外傷に関連する傷病,そして手術を伴う治療を受け持つ分野を指す1).この定義に従えば,新外科専門医制度のサブスペシャルティ領域2)である「消化器外科」「心臓血管外科」「呼吸器外科」「小児外科」「乳腺外科」「内分泌外科」(以下,専門外科)はもちろんのこと,「脳神経外科」「泌尿器(外)科」「婦人(外)科」「眼(外)科」「耳鼻咽喉(頭部外)科」「口腔外科」「整形外科」「形成外科」等の専門性の高い外科(以下,高度専門外科),そして「救急科」,「総合診療科」という手術に至る過程を受け持つ診療科,さらに「麻酔科」「集中治療科」という周術期に関連する診療科が「外科部門」に含まれる事になる3).専門分化が進んだ現在この広い外科の定義は過去のものになりつつあるが4),発展途上国などを中心にこの定義が未だ踏襲される国や地域は多く存在する5) 6).また,本邦においても医師が不足する過疎地などでは,これら診療科目の多くを外科医が引き受けており,「総合外科」の様相を呈している7).本稿のテーマである「Acute Care Surgeonの活躍」の場としての「外科部門」をひとまとめに語ることは難しいと考えられるため,以後「総合外科部門」,「専門外科部門」それぞれに分けて稿を進めたい.また,本稿におけるAcute Care Surgeon(以下,ACS医)は日本Acute Care Surgery(以下,ACS)学会認定外科医8)などACS医としての資格を持つ者のみならず,ACSを実践する能力を有する全ての外科医を指す用語として使用する.

II.総合外科部門におけるACS医の活躍
総合外科部門は,一般的に全ての専門外科診療・手術を受け持つ事が多い.また,高度専門外科が開設されておらず近隣にも当該診療科が存在しない場合には,それらの救急対応を引き受ける施設も多い.筆者が過去に勤務した病院には整形外科,婦人科は必ず存在したが,救急当直時や担当医不在時に診療を請け負う事もあった.また手術助手や麻酔医として手術に入る事もあるため,診療知識や処置・手術手技の修得は必須であった.この二つの診療科以外の高度専門外科は私の勤務した病院では開設されていない事も多く,それぞれの診療や基本的処置,時には緊急手術を引き受ける事もあり,ある程度の知識や技術の習得が必要であった.
このような外科医の幅広い対応は筆者の先達においてはさらに顕著であり,過去,本邦のみならず米国などにおいても総合外科部門の外科医は全ての外科診療・手術を請け負う能力を持つ“General Surgeon”であった.中でも専門を問わず全身の外傷手術を請け負い,多数の患者を救命する外科医は“Master Surgeon”と呼ばれ,尊敬され敬愛されたと言う9)11).現在においても外傷を含めた救急外科診療において,外科サブスペシャルティ領域の垣根を設けず必要な診療,手術,そして周術期の集中治療を行い,患者を救命する総合外科医はACS医そのものである.ただ一点,総合外科医がACS医と違うのはその「専門性」であり,積極的にACSに関わる最新の知見や技術習得を行わないため,救急外科患者診療が不十分になってしまう事である.逆に,これらの知識を学会や講習会を通じて恒常的に入手している総合外科医はそのままACS医と考えて良く,これを意識しACS医を自認している者や,日本ACS学会の認定外科医資格を取得した者が自施設でリーダーシップを取り救急外科患者の診療をリードし,他の者に必要なACSに関連する最新の知識と技術を与える事で,「総合外科部門」はそのまま「ACS部門」に成りうる.「総合外科部門」におけるACS医は,自施設でACS教育を行う事により,ACS診療を専門部門に勝るとも劣らないレベルに引き上げる事で活躍している.

III.専門外科部門におけるACS医の活躍
筆者が所属している大学教室(以下,当教室)は,胆道・膵臓外科と上部消化管外科を専門としている.大学病院(以下,当院)の診療は当教室を含む2教室が消化器外科を分割して担当,各々の教室においてはさらに臓器別あるいは機能別の診療グループに分かれている.1924年開講と100年の歴史を持つ当教室はもともと整形外科をも包括する総合外科であったが,整形外科は戦後すぐの1947年に分離した.しかし,心臓血管外科は1990年,呼吸器外科は2012年まで当教室内の1診療グループであったため,筆者が当教室の門を叩いた1996年においても頸部から骨盤腔までを診療する総合外科として健在であり,また市中関連病院では心臓・血管外科をも含む,外科サブスペシャルティ領域全ての修練を行う事が出来るなど,現在以上にACS医を育成するに最良の環境であった.従って筆者の年代(40〜50代)以上のほとんどの外科医は,ACS医としての基礎が確立されている.現在,当科スタッフの多くがこの年代であり,適切にACSに関連する知識や手技,そしてデバイスを更新することにより,ACS医として活躍する事が可能である.当院のACS診療は,外来については救急部が中心となり,適宜専門診療科に診療あるいは手術を依頼するシステムとなっている.当科は前述のごとくACSに対応可能な人員が豊富である事からスタッフが輪番制で応需するが,外傷等専門性の高いACS診療においては筆者が救急医と可及的密にコミュニケーションを取り,診療方針について協議を行っている.
筆者はまた日本Acute Care Surgery学会をはじめとする各種関連学会に積極的に参加し,当科に最新情報を持ち帰る役割を担う.また,近年交通事故の減少や症例集約により市中病院研修でも経験する事が難しくなった外傷外科手術についてATOMコース(動物を使用し胸腹部の貫通性外傷に対する手術管理に必要な外科的知識と手技を学ぶコース)やC-BESTコース(ご遺体を使用した外傷診療手技・手術トレーニングコース)などのシミュレーション教育コースを開催し,若手教育およびベテランに対する技能維持を行っている.さらに,専門外科それぞれに対し至適化した外傷外科診療教育プログラムの開発やバーチャルリアリティを用いたトレーニング法の開発を行うなど,外傷診療教育研究をリードしている.
このように,「専門外科分野」の中で,ACSという1機能を維持向上させるとともに,若手のみならず全外科医に対する教育の実施,システムの確立が,ACS医である筆者らに課された使命であり,活躍の場である.

IV.外科部門におけるACS医の災害医療での活躍
前述のごとく総合外科部門のほとんど,専門外科部門の多くの外科医はACS医の素養を持っており,平素の集中医療や救急医療の経験を生かして災害医療で活躍することも多い.特に総合外科部門は救急医不在の病院に設置されていることも多いことから,災害医療担当医として平素院内の体制作りに関与,また災害時派遣医療チームDMATや医療班のメンバーとして訓練や実派遣に参加するACS医も多い.筆頭著者は医療班として東日本大震災に,DMATとして熊本地震に,院内の災害対策本部要員として北海道胆振東部地震の実災害での活動歴をもち,直近では令和6年能登半島地震にDMATとして派遣され,災害救護活動に従事している.このように外科部門のACS医は災害医療においても活躍している.

V.外科部門における“Surgical Rescue”とACS医
近年,米国においては従来のTrauma Surgery,Emergency General Surgery,Surgical Critical Careの3本柱に,Elective General Surgery,Surgical Rescueを加えた5本柱で定義しようとする動きがみられる12) 13).Elective General Surgery自体は救急病態ではないため,これを除いた4本柱でACSを表現した報告もみられる14)が,いずれにしてもこのACSの専門領域に加わるSurgical Rescueに注目が集まっている.
Surgical Rescueは「医原性合併症からの手術による救出」で定義され,これまでも既に内科処置や高度専門外科手術で発生した合併症に対する手術など,外科医がこれまで日常的に対応してきたものである.注目すべきは,この概念に「外科部門で発生した医原性合併症」が組み込まれるという点である.「執刀医は最もその手術を理解しているはずであり,発生した合併症において責任を持って対処すべきでる.逆に,起こりうる合併症に対応出来ない外科医はその手術を執刀する資格はない」と教えられてきたわれわれの世代の多くは,このACS医のSurgical Rescueという守備範囲の拡大に対し違和感を感じ,患者の予後増悪や外科医の責任感の希薄化,モラル低下を懸念する者も少なくない.しかし,患者の予後については合併症発生時のマネジメント能力の高さに依存すること15) 16),急性虫垂炎や胆道疾患の一般的な救急外科手術における研究ではACS医が介入した方が患者の予後が良好であるとする報告17) 18)もあることから,ACS医はSurgical Rescueのマネジメントにむしろ関わるべきとする意見もみられる9) 14).独立したACS部門をもつ施設が少ない本邦においては前述の通り,総合外科部門,専門外科部門どちらにおいてもACS医とACSにおける対応能力に現状において大きく差はないと考えるが,Surgical RescueについてもACSの専門領域と考え,常に最新の知見を入手し率先してマネジメントに関与する事は,一般外科部門に所属するACS医の使命であると言える.

VI.外科部門におけるACS医の今後
本邦の外科医数は減少の一途を辿っている19) 20).また,令和元年調査で16.7%,令和4年調査でも7.1%が1,860時間を越える時間外・休日労働を行っている外科医であるが,働き方改革により今後,時間外労働が規制されると外科医1人あたりの労働時間も著しく減少する.さらに高齢化による手術適応疾患を有する患者の増加,ロボット手術や内鏡視手術の適応拡大等による手術時間の延長により,外科医に対する手術需要は現在より増大する.外科の魅力を増大し志望者を増加させる様々な取り組みはすでに行われているが,これに加えタスクシェアやタスクシフトなどを早急に進め需要を減らすなど抜本的な構造改革を押し進める必要がある.具体的には,耐術能判断を含めた術前診療,手術,集中治療,合併症発生時のSurgical Rescue,リハビリ,術後サーベイランス(外来),緩和ケア,そして外傷,緊急手術などの救急外科,外科診療のそれぞれのフェーズを専門的に診療するよう業務分担を明確に行う必要があると考えられる.特に救急外科,集中治療そしてSurgical RescueをACS医が受け持つことにより,手術担当医はこれまで以上に定時手術に集中することが可能となり,執刀可能な手術数の増加,また合併症率の低下が期待できると考えられる.今後,総合外科部門,専門外科部門双方においてこの役割を担うACS医を明確にし,より活躍可能な環境づくりを行う必要がある.地域の状況によってはACS医を特定施設に集約,Surgical Rescueを含めた全てのACS患者をその施設に集約して診療するシステムを構築しなければならない.前述のごとく現在外科部門の中で活躍しているACS医ではあるが,今後は病院あるいは地域においてACS患者を集約すべくACS部門を立ち上げ,ACS患者の診療を一手に担うことにより活躍する事になるものと考えられる.

VII.おわりに
「外科部門」の形態は総合外科,専門外科,さらに地域性などによりかなり異なるが,所属する外科医は総じてACS医としての素養を持ち合わせており,適切なトレーニングによりACS医として活躍できる.外科部門において活躍しているACS医というのは特別なものではなく,所属においてACSに興味を持ち率先して行おうとする外科医であると結語し,本稿を締めくくる.

 
利益相反:なし

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文献
1) ウィキペディアの執筆者: 外科学 - Wikipedia.2024年1月18日. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%96%E7%A7%91%E5%AD%A6
2) 日本外科学会: 新専門医制度における外科6領域のサブスペシャルティとの連携について.2024年1月17日. https://jp.jssoc.or.jp/modules/info/index.php?content_id=43
3) The American Board of Surgery: Specialty of General Surgery Defined.2024年1月18日. http://www.absurgery.org/default.jsp?aboutsurgerydefined
4) Camison L , Brooker JE , Naran S , et al.: The History of Surgical Education in the United States: Past, Present, and Future. Ann Surg Open, 3(1):e148, 2022.
5) Hands Christopher: Surgeons in the developing world. BMJ, 337:a1929, 2008.
6) Bickler Stephen N , Weiser Thomas G , Kassebaum Nicholas , et al.: Global Burden of Surgical Conditions. The International Bank for Reconstruction and Development / The World Bank, 2015.
7) 長見 晴彦 : 僻地地域医療の問題点,課題,将来展望 僻地地域医療で活かす総合診療医の必要性. 島根医学,31(2): 110-114, 2011.
8) 日本AcuteCareSurgery学会: ACS認定外科医.2024年1年19日. http://www.jsacs.org/special/ ?id=28781
9) 村上 壮一 , 平野 聡 : Acute Care Surgery概論.消化器外科,45(8): 929-935, 2022.
10) Moore EE : Trauma surgery: is it time for a facelift? Ann Surg, 240(3): 563-564, 2004.
11) Committee to Develop the Reorganized Specialty of Trauma, Surgical Critical Care, Emergency Surgery: Acute care surgery: trauma, critical care, and emergency surgery. J Trauma, 58(3): 614-616, 2005.
12) Peitzman AB , Sperry JL , Kutcher ME , et al.: Redefining acute care surgery: Surgical rescue. J Trauma Acute Care Surg, 79(2): 327, 2015.
13) Kutcher ME , Sperry JL , Rosengart MR , et al.: Surgical rescue: The next pillar of acute care surgery. J Trauma Acute Care Surg, 82(2): 280-286, 2017.
14) 坂本 義之 , 袴田 健一 : 我が国におけるAcute Care Surgeryの現状と今後の展望.日臨外会誌,83(4): 635-643, 2022.
15) Ghaferi AA , Birkmeyer JD , Dimick JB : Complications, failure to rescue, and mortality with major inpatient surgery in medicare patients. Ann Surg, 250(6): 1029-1034, 2009.
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20) 高橋 泰 : 医師偏在の3つのポイント - 未来投資会議 産官協議会「次世代ヘルスケア」会合(第3回)配付資料,2019.

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