日外会誌. 125(2): 163-168, 2024
手術のtips and pitfalls
LPEC(Laparoscopic Percutaneous Extraperitoneal Closure)のtips and pitfalls
小児のLPEC tips and pitfalls
静岡県立こども病院 小児外科 矢本 真也 , 野村 明芳 |
キーワード
LPEC, 小児, 鼠径ヘルニア, 内視鏡手術
I.はじめに
小児鼠径ヘルニアに対する手術としては以前から行われている鼠径部切開法(Potts法,Lucas-Chanpionniere法)と腹腔鏡下小児鼠径ヘルニア手術があり,腹腔鏡下小児鼠径ヘルニア手術はTakeharaらが報告したラパヘルクロージャーを用いた腹腔鏡下経皮的腹膜外ヘルニア閉鎖術(laparoscopic percutaneous extraperitoneal closure,以下,LPEC)1)が本邦での腹腔鏡下小児鼠径ヘルニア手術としてのゴールドスタンダードとなっている.また,近年は小児のみならず,成人に対しても後壁補強を必要としない場合はLPECを行う施設も徐々に増えている2).今回,当科で行っているLPEC法におけるtips and pitfallsを解説する.
II.LPEC法のtips and pitfalls
術者は,患児の右側に立ちその対側で助手が腹腔鏡を操作する.臍に2-0絹糸で左右に釣り上げ,円刃刀(15番メス)を用いて小切開をおき,直モスキート鉗子で小開腹し,3mmカメラポートを挿入固定する.4~8mmHgの圧で気腹を行う.Trendelenburg 体位として,右側腹部に2mmの把持鉗子用のポートを挿入する(図1).非吸収糸(3-0ETHIBONDⓇ,体格の大きい場合は2-0を用いる)を把持したラパヘルクロージャーを内鼠径輪(ヘルニア門)上縁のやや高位の腹膜前腔に刺入し,ヘルニア門の外側半周を一旦少し外側に向けて運針する(図2).そこから精巣動静脈を損傷しないように腹膜と血管の間にラパヘルクロージャーを通す.精巣動静脈は腹膜前筋膜前葉と後葉の間の層に存在しているため,腹膜と腹膜前筋膜後葉の間を運針すれば,血管を損傷することはない(図3).精巣動静脈を越える際,鉗子を頭側に牽引することで腹膜を帯状にし,その尾根に先端を滑らせるように運針すると抵抗なく越えることができる.もし帯状に腹膜を牽引できないようであれば精巣動静脈に対し長軸方向に一度進めてから越えると良い(図4).そして,ラパヘルクロージャーをそのまま進め精管の直上で腹腔内にラパヘルクロージャーの先端を出す.精管は腹膜と腹膜前筋膜後葉に存在するため,腹膜と精管を針先で剥離する必要があるが,精管の直上で腹腔内に針先を出すことにより腹膜に針穴が出来,そこからCO2が腹膜と腹膜前筋膜後葉の間の層に入り込むことで非侵襲的に比較的広い範囲で精管が腹膜から剥離される(図5).そしてラパヘルクロージャーから非吸収糸を外し,糸を把持しながらラパヘルクロージャーを引き抜く(図6).鼠径靭帯レベルまで引き抜いたら,ラパヘルクロージャーを引き抜くというより,腹膜自体を牽引する.こうすることで腹膜前腔に先端を維持しやすくなるため,ラパヘルクロージャーが腹膜前腔から抜け,皮下組織や筋肉を巻き込んで結紮の緩みになることを予防する(図7).下腹壁動脈の直下に入ったら,ラパヘルクロージャーを反時計回り(右側の場合)に旋回させ,精管直上の腹膜の間隙に真っ直ぐ運針する.この時,ラパヘルクロージャーの先端は腹膜の尾根になっている部分を通し,常に透見できるような運針を行う(図8).そして同じ穴からラパヘルクロージャーを腹腔内に出し,糸を把持して腹腔外で結紮する.この際,ヘルニア門に鉗子の先端を挿入しておき,ヘルニア門を開いた状態で腹膜をスキップしていないか確認したのちに結紮する.
利益相反:なし
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