日外会誌. 125(1): 22-29, 2024
特集
学会活動,診療・研究にSNS等のツールをどう活用するか
3.学会活動におけるSNSの活用と留意点―日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の取り組み―
1) 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会広報委員会 前田 陽平1)2) , 高橋 剛史1)3) , 松浦 一登1)4) , 欠畑 誠治1)5) |
キーワード
医学系学会, 広報, Twitter, YouTube, X
I.はじめに
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会ではSNSとしてX(旧Twitter,以下,X)(アカウントID:@jibi_u)とYouTube(@JibiU)を運営している.学会のSNS活用の一般論から,われわれの活用法,またSNSの留意点について述べていく.
II.SNSとは
SNSはSocial Network Serviceの略で,登録された利用者同士が交流できるWebサイトの会員制サービスのこと1)
2)ともされているが,明確な定義は困難である.
総務省「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書概要」3)によると,Facebook,X,Instagram,YouTube,そして主にメッセージアプリとして用いられているLINEが大きなシェアを持っている.年齢による傾向は,X,Instagramは30代以下で強く,40代,50代でも30~40%程度は使用している.Facebookは30代・40代に強い.TikTokという短時間動画を中心としたSNSも10代・20代では利用されている.最近ではInstagramに紐づけされたThreadsという新しいSNSも出てきて,注目を集めている.
これらの中でどれを学会公式として使うかということも重要になるが,これは後述する目的から逆算することになるだろう.
III.学会のSNS活用方法
学会がSNSを用いる場合,最も重要なことはその目的である.目的に含まれる内容でもあるが,もう一つ意識するのが対象である.すなわち全体的な啓発を行う(患者教育から学会員への情報伝達などまで広く行う)のか,ある程度目的を絞って行うのか,ということになる.運用方法も重要となるが,これはもう一段階後の話といえる.
全体的に啓発を行う場合の方法の一つとして,学会本体がXアカウントを持つヨーロッパ呼吸器学会(ERS)(@EuroRespSoc)を提示する. ERSの本体のアカウント自体がツイートする(書き込む)ことも多いが,その枝のアカウント(例えば学会誌のアカウント)がツイートしたものを会員自身で再度ツイートしたりすることで,ほかの会員や非会員はERSのアカウントをフォローすれば幅広く情報が得られる.しかも,枝の情報のみが必要な場合は枝のアカウントのみをフォローすればよく,とても合理的である.一方で,この方法の場合は,枝のアカウントもそれぞれ作る必要があり,管理の手間はトータルでは増えるといえる.それぞれの部門が広報を行うことが前提であれば運営も合理的に行えると思う.
さて,学会のSNS活用の目的とは何か.よくみられるのは①学術集会に関する情報を共有する②学会誌の情報(新しい論文など)を共有する③主に非医療従事者に向けて疾患啓発を行う,などである.①②は会員向け,③は非会員向け,といえるだろう.
IV.当学会におけるSNS導入の経緯・目的・位置づけ
Xに関しては,本邦では日本循環器学会と当学会をはじめ,他にも日本アレルギー学会,日本麻酔科学会などもアカウントがあり,それぞれ発信している.
われわれ日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の場合,その目的としては耳鼻咽喉科頭頸部外科領域の啓発がメインである.主に非医療従事者や医師以外の医療従事者,耳鼻咽喉科医以外の医師などが対象である.
われわれが耳鼻咽喉科頭頸部外科領域の啓発を第一の目的とするのは境界領域が多く,いざ受診が必要となったときにどの診療科を受診したら良いのかという悩みに応えたいということがある.たとえば,顔面神経麻痺・めまいは脳神経内科,場合によっては脳神経外科が関わっており,嚥下障害はリハビリテーション科,口腔癌は口腔外科でも診療している.こういう疾患について耳鼻咽喉科頭頸部外科で専門的に診療しているということをアピールするというのは,耳鼻咽喉科疾患の正しい医療情報を届けることとともに,われわれの啓発活動の主な目的の一つである.さらに,病院を訪れる前の段階から正しい情報を届ける,あるいは受診中に説明しきれない部分を補完するという側面もある.他にも,研修医勧誘などにも活用しているので,研修医勧誘向けの動画などをYouTubeに載せている.
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のSNSは村上信五理事長と欠畑誠治広報担当理事の話し合いで耳鼻咽喉科頭頸部外科の認知を上げるというところから始まったが,現状としては上述の目的で活用している.また,当学会では毎年3月に耳鼻咽喉科月間として一般向けに耳・鼻の疾患などの良性疾患を中心に啓発活動を行い,毎年7月に頭頸部外科月間として頭頸部外科疾患(主に頭頸部癌)について啓発活動を行っている.これらについてのプロモーションでもSNSを活用している.
われわれは以前からホームページの充実に力を入れているが,ホームページは見にきた人だけが見ることになる.一方で,Xなどは,こちらが知らせたい情報を積極的に届けることができる.たとえて言えば,ホームページは自分の施設の掲示板のようなものであり,守りの広報といえる.SNSは自分たちが広報対象の相手のところに情報を郵送するようなものであり,攻めの広報といえる.守りをしっかりさせることで攻めを行うことができる,ということでホームページの充実はSNS活用開始後も力を入れている.
学会がSNSの中で正確な情報を提供することは,SNSの世界で少しでも非医療従事者が正確な情報に出会いやすくする効果もあると思われるとともに,学会公式の情報は非医療従事者が「根拠とするべき専門家の推奨する,アクセスしやすい情報である.」という医療情報のあり方の啓発にもつながるのではないかと期待している.
V.当学会におけるSNS活用方法
1 X(旧Twitter)
当学会のX(アカウントID:@jibi_u)の運用方法としては①ホームページの内容を載せる②YouTubeの内容を紹介する③全国の耳鼻咽喉科頭頸部外科の教授などにコメントを頂いて載せる④アンケートを行う,などである.順番に説明する.なお,当学会のXは筆頭著者を含む広報委員会のメンバーで運営している.
① ホームページの内容を載せる
これが一番多く,また基本となっている.ホームぺージには過去から積み重ねで多くの記事が掲載されている.代表的な部分を少し説明すると,領域別(耳科・鼻科・頭頸部外科など)の病気を調べる,症状から病気を調べる,病名から病気を調べる,という「耳鼻咽喉科・頭頸部外科が扱う代表的な病気」というページがあり,よくみられている.他にも,上述した耳鼻咽喉科月間や頭頸部外科月間では毎回特集ページを作るが,これらの内容もホームページで紹介している.これらのホームページの内容をSNSで紹介することでより多くの人をホームページに誘導して見てもらうことになる.
②YouTubeの内容を紹介する
YouTubeとの連携は大きな強みになっている.たとえば「鼻血の止め方」という動画はYouTubeで作成されたものだが,Xで紹介することで多くの方に見てもらうことができた.さらに,Xでも動画の内容をおおむね紹介することで内容を啓発することができた.この投稿は92万回のインプレッション(誰かの画面に表示された回数のこと)となり,広く啓発できたと考えられる.
③各教授などにコメントを頂いて載せる
全国の耳鼻咽喉科頭頸部外科の教授に「耳鼻咽喉科頭頸部外科医として一般の方に最も伝えたいこと」を募集して投稿している.
④アンケートを行う
われわれはXで疾患認知度に関するアンケートを行っており,他で行ったアンケートと合わせて確認することで疾患の認知度などについて把握しており,啓発に役立てている.
Xそのものにアンケート機能があるので,これでアンケートを行っている.ただし,機能的には単純なものである.他にはWebでアンケートを作成しこちらに誘導することも可能だが,表1のようなメリット・デメリットからわれわれはXそのもののアンケート機能を用いている.結果として36万回表示されて,約1万人からアンケート結果を得られた4).
このアンケートでは様々な疾患や症状が耳鼻咽喉科頭頸部外科の診療範囲かどうかを問うた.2023年の回答者は非医療従事者が62%・医師が11%,医師以外の医療従事者が27%であった.それらの回答者に対して耳鼻咽喉科頭頸部外科の診療範囲かを質問したところ,嚥下障害やめまいについては90%以上の認知度であった一方で,舌癌はおおよそ68%,顔面神経麻痺は46%,頸部腫瘤は50%とわれわれの期待より低いものであった.
そこで,われわれは耳鼻咽喉科業界の新しいトピックス(光免疫療法など)についての記事を多く作成するとともに,啓発の月間については口腔癌,顔面神経麻痺などについて重点的に取り組んで記事を作成している.
2 YouTube
①JibiU(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会YouTubeチャンネル)について
一般の人々が医療情報を得る方法は,インターネットの普及やソーシャルメディアの台頭によって大きく変化した.特にスマートフォンや5Gを含む大容量通信規格の普及により,インターネット上で動画から情報を得る機会が増加している.この傾向は,若年者のみならず,当科領域の疾患に罹患することの多い高齢者においても同様である5).その中で動画共有サイトのYouTubeは,最も多くの利用者を有するオンライン動画共有プラットフォームである.医療情報の発信において,動画は,文章や静止画と比較し,動きや音声を用いて多くの情報を受動的に受け取れるというメリットがある.われわれ日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会は,動画を用いた情報発信を行うため,2021年1月に学会公式のYouTubeチャンネル(JibiU)を立ち上げた6).2023年8月までに134本の動画を公開している.動画の内容は大別すると3種類あり,①一般の方への疾患啓発や治療法などの解説,②学生・研修医への当科の魅力発信,③当科会員に対する最新の医療情報の共有,である.これらの動画の多くは,日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会公式ホームページ(HP)の専用のサイトにリンクが置かれ,HP上で視聴ができるようになっている.本項では,JibiUの動画作成方法と視聴実態について解説する.
②動画の作成方法
一般向けの動画は,当科疾患の啓発月間である3月の耳鼻咽喉科月間および7月の頭頸部外科月間に合わせて,関連する学会や広報委員会で作成される.月間ごとに毎年テーマが異なり,それに合わせた専用サイトと共に動画が作成されている.一般向けの動画には,各分野のトップランナーによる疾患や治療法の解説,リハビリテーションやセルフケアの方法,市民公開講座,主治医と著名人の対談などが含まれている.学生や研修医へ向けた当科の魅力を発信する動画は,5月の日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会総会に合わせて,各大学や卒前・卒後委員会で作成される.総会の企画として,当科の勧誘動画を各大学が作成するコンテストがあり,毎年新しい動画が追加されている. このように動画の作成者は様々であることから,動画の内容に関する公平性や安全性,透明性を担保するため,表2に示すJibiUの利用指針ガイドラインを定め,動画作成者に8規則(表3)を遵守頂くよう依頼している.一般公開とした動画は,全世界に向けて発信されるものであり,患者やその家族,他科の医師,医療従事者など様々な方にみられうることを意識して動画を作成することが肝要である.
③視聴実態
YouTubeチャンネルの視聴実態については,Googleが提供しているYouTube分析ツールであるYouTube Studio内のチャンネルアナリティクスを使用して解析可能である.得られるデータには,チャンネル全体や各動画の,視聴者の性別,年齢層,視聴方法,トラフィックソース(動画を発見し視聴した方法),検索ワードなどが含まれている.これらを解析することで,視聴者の動向を探ることができる.2023年6月末時点での,JibiUのチャンネル登録者数は3,870人,総視聴回数は43万回であった.視聴者の年齢層と割合を図1に示す.ボリュームゾーンは65歳以上(29.5%)であり,これはJibiUで取り上げている難聴やめまい,顔面神経麻痺や頭頸部がんなど,高齢者層に罹患率の高い疾患を多く取り上げている影響と思われた.視聴者の特徴を図2に示す.動画の視聴デバイスは,スマートフォンを含む携帯電話が56%と最多であり,小さな画面でも視認性の高い動画を作成する必要があると思われた.トラフィックソースの内,外部サイトからの流入元は,HPが最多であり,HPとYouTubeチャンネルの連携が功を奏していると思われた.また,直近3カ月(2023年4月から6月)における視聴回数の多い動画の特徴について紹介する.最も視聴されたのは,顔面神経麻痺のリハビリテーション(7,450回)であり,次いで鼻副鼻腔がんの解説(6,752回),著名人と専門医が語る「加齢性難聴」(6,508回)であった.リハビリテーションは動きを患者に理解してもらうことが重要であり,動画と相性の良いコンテンツである.医療者にとっても,動画を患者に紹介し自宅などで実践してもらうことができ,治療の一環になると思われる7).
④YouTubeを用いた医療情報の発信
YouTube上の医療情報を調査した研究では,質の高い科学的根拠に基づいた動画から,誤解を招く誤った動画まで幅広く含まれることが報告されており8),不適切で危険な代替アドバイスをしているものもあることから9),専門医が高品質の動画を作成し,患者が視聴できるように工夫するべきと言及されている10).患者が正しい知識を得ることで,患者および医療者共に利点があることから,JibiUでは引き続き,Xとともに,科学的根拠に基づいた動画の発信に努めていく所存である.
VI.学会でSNSを活用する場合の注意点
Xに関しては炎上が心配であるというような意見を聞くことも多い.実際,常に炎上の可能性があるのがSNS,特にXの特徴といえる.一方で,いくつかのポイントを押さえておけばそのリスクを下げられると考えている.上述したYouTubeの投稿規定も大変参考になるだろう.
学会レベルでSNSの炎上リスクとして典型的なのは,現代的な「ポリコレ」に準拠していない場合である.ポリコレとはポリティカル・コレクトネス(political correctness)の略で,直訳は政治的な正しさという意味で,差別的な意味やそう誤解されるような表現をしない,政治的・社会的に公正な表現をするという意味である.例えば今の時代に看護師のことを看護婦と書く人はいないと思うが,これもその一つである.また,働き方の多様性を受け入れる(とにかくたくさん働くことを是とする価値観を押し付けない)といったことは社会のベースとなった思想である.これらのことはXなどのSNSをしばらく眺めていれば多くの方が簡単に理解できる.ネットの世界では昔から「半年ROMれ」と言われることもある.ROMとはRead Only Memberのことで,最初のうちは閲覧だけにしておくのが良いという意味である.逆に言うとしばらく閲覧しておけばこういったポリコレも理解できることが多いとも言える.しかし,学会でSNS担当者がこの初心者の状態から始めるのは現実的とは言えず,まずはSNS運用に慣れた担当者を入れることが良いと考える.日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も,当初はXやYouTubeの運用が手探りの部分があったが,SNS運用の経験値の高いことを買われたメンバーがその一員となったことで,スムーズで効率的な運用が行われるようになったと考えている.
VII.おわりに
SNSの一般論からわれわれの運用まで叙述的に記載した.学会のSNSにおいてはその目的が重要であり,SNSそのものは手段であって目的ではないことを留意していく必要がある.われわれも引き続き発信を続けていくが,この機運が多くの学会に広がることを期待している.
謝 辞
日ごろからSNS運用に携わっている日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会広報委員会の先生方,広報委員会事務局森様,田中様,メディプロデュース奥村様に深謝致します.
利益相反:なし
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